『ゴールデンカムイ』鶴見中尉の顔の傷は3度目で成功 大反響の特殊メイクの裏側
野田サトルの累計発行部数2,700万部を突破する人気漫画を山崎賢人(※崎は「たつさき」)主演で実写化する『ゴールデンカムイ』(公開中)。東宝が行った初日アンケートによると「非常に良かった」が61.6%、「良かった」が34.4%と鑑賞の満足度が高く、SNSでは各キャラクターの再現度の高さが話題沸騰だが、とりわけ反響の大きい一人が玉木宏演じる大日本帝国陸軍第七師団の鶴見中尉。原作に忠実に再現した特殊メイクにはかなりの試行錯誤があったといい、その裏側を映画『ザ・ファブル』『キャラクター』、Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」など数々のヒット作品を手掛けてきた特殊メイクアップアーティストの中田彰輝が語った。
明治末期の北海道を舞台に、“不死身の杉元”の異名をとる元陸軍兵・杉元とアイヌの少女・アシリパ(山田杏奈※リは小文字)が、莫大なアイヌの埋蔵金を巡り軍人や脱獄囚らとバトルを繰り広げる本作。玉木演じる鶴見篤四郎(つるみ・とくしろう)は、北海道征服のため金塊を狙い、杉元らと対峙する人物。情報収集や分析能力に長け、日露戦争で損傷した前頭部をプロテクターで保護しており、目の周りが爛れている。感情が昂ると、額から変な汁が垂れてくる。
鶴見中尉は原作ファンの間でも人気の高いキャラクターだが、中田はその魅力を「とても強い信念を持っていて自分の目的の為には手段を選ばない狂気を帯びた人物ですよね? そして人を魅了することに長けている。それでいて、凄く人間味があって頭のキレるカリスマ性を持った人物」と評する。
キャスト発表時には玉木演じる鶴見中尉のビジュアルも大きな反響を呼んだが、中田は戦闘中の爆発で負傷した顔の傷のほか、負傷箇所を覆うホーロー製の額当てもチームで担当。3Dプリントで玉木の顔をスキャンし、その顔型に合わせて傷や額当てを制作するという工程がある。素材はシリコンを採用した。
「特殊メイクに使用する人工皮膚の素材はいくつかありますが今回はシリコン素材を使用しています。透明感もあり、柔らかく、表情もしっかりついてきますので
とてもリアルな皮膚感が表現できます。シリコン製の人工皮膚パーツは、眼の下の左右、額と三つのパーツに分かれていてそれをパズルのように毎回組み合わせながら医療用の接着剤で丁寧に位置を合わせて貼り付けていきます。そのあと特殊メイク用のインクでエアブラシと筆を使って色をつけていきました」
顔の傷は、スタッフと意見交換をしながら試行錯誤して作り上げていったそうで、中田はその経緯を以下のように振り返る。
「最初のテストメイクでは、全ての傷をリアルに再現してみようと思い、火傷による引き攣れと裂傷を激しめに入れたデザインにしてみました。しかし、実際にメイクをしてみると鶴見中尉の眼の表情がとても重要で、このデザインだと瞼にかぶり過ぎて玉木さんから眼力を出すのが難しいというご意見を頂き改良することになりました。2回目のテストでは瞼部分の引き攣れを減らし、裂傷のイメージも減らしてみました。すると今度はプロデューサーの松橋(真三)さんから“火傷の範囲が広すぎるのではないか?”というご指摘を頂いて。確かに原作の印象と比べると広いなと思いまして、瞼問題は解決したものの再調整が必要になりました。3回目のテストで皆のイメージとデザインが合致して、ようやく完成した訳です!」
鶴見の特殊メイクを制作するにあたり重要だったのが、傷ができた背景を考えることだったと中田は語る。
「どんな傷を作る時でもいつも心掛けていることがありまして、その傷がなぜ、どのようにしてできたのか、自分の中でストーリーをしっかり組み立てるんです。小さい切り傷1つでも、必ず何かしらの理由だったり原因となるものがある。そういったことを無視して作ると良い作品にはならない。皮膚には組織があって、表皮、脂肪層、筋肉や血管といった要素を細かく再現することで説得力が出てきます。血糊もただつけただけだとリアルには見えなくて、こういったことが起きて、だからこういう血の吹き出し方になるよな? とか自分なりにイメージして表現しています。鶴見中尉の古傷に関しては、怪我を負った際の細かな描写は原作では描かれておりません。ただ爆風によってできた傷ということはわかっていたので、きっと激しい裂傷や炎の熱による火傷を負ったのだと想像しました。傷に引き攣れた感じを強く出しているのはそのためです」
撮影のたびに毎回、特殊メイクに約1時間要していたというが、中田は「玉木さんは本当に優しくて気さくな方。大変協力的でメイクもとてもやりやすかったです」と作業を振り返る。
「玉木さんとはずっと楽しいお話をしていましたね。柔術の話やお勧めのお店をご紹介いただいたり。数えたらキリがありません。それに、こんなこともありました。ある日、玉木さんが撮影後に“今日はメイクを落とさずそのまま帰ってみていいですか? 明日崩れていなければそのまま撮影できますよね?”と仰るので“どうぞ!”と。僕らも結果を知りたかったのもありまして(笑)。で、それが意外と大丈夫だったので、少しだけ直して撮影に臨みました(笑)」
特殊メイク工房・株式会社 ZOMBIE STOCK の代表を務め、チームとして活躍する中田。柔道の達人・牛山(勝矢)の額にある大きなコブといった身体的特徴や、主人公・杉元をはじめ軍人たちが戦争で負った生々しい傷跡など、緻密なリサーチのもと再現した独創的でリアリティーのある特殊メイクが、キャラクターたちに説得力を与えている。(編集部・石井百合子)