菅田将暉、黒沢清監督のサスペンス・スリラー映画で主演 集団狂気描く『Cloud クラウド』9月公開
俳優、歌手の菅田将暉が主演、『CURE キュア』『スパイの妻<劇場版>』などの黒沢清が監督を務める映画『Cloud クラウド』の製作が13日に発表され、今年9月に公開されることが決定した。本作は黒沢監督が自ら脚本も手掛け、顔のみえない社会で拡散する、憎悪の連鎖から生まれる集団狂気を描いたサスペンス・スリラーで、菅田は“ラーテル”というハンドルネームを使い、転売で稼ぐ主人公を演じる。菅田と黒沢監督は10年ぶりの再会となり、菅田が黒沢作品に出演するのはこれが初。菅田は出演オファーを即決したといい、撮影を「生活の中に潜む、怖さとユーモア。 黒沢監督の頭の中が毎日少しずつ開示されていく撮影は、とても楽しく、贅沢な時間でした」と振り返っている。
菅田が黒沢監督を初めて顔を合わせたのは、主演映画『共喰い』(2013・青山真治監督)で参加した2013年の第66回ロカルノ国際映画祭で、2022年に57歳で亡くなった青山監督から紹介された時以来だったという。
『スパイの妻<劇場版>』(2020)では、第77回ベネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した黒沢監督。新作『Cloud クラウド』の企画が生まれた経緯について、黒沢監督は「現代日本の片隅で、時折まったく無目的と思われる暴力事件が起きることがある。原因を探っていくと、そこにはちょっとした恨みやムシャクシャした気分がインターネットによって集結し肥大していくシステムがあるようだ。私はこうした現象がアクション映画の題材になるのではないかと考え、この企画をスタートさせた」と語り、菅田演じる吉井良介について「主人公は、ささやかな金儲けによって少しでも人より優位に立ちたいと願う、ごくありふれた男である。この人物が不用意に周囲の恨みを買い、最後には命を賭けた死闘へと引きずり込まれる物語だ」と説明する。
また黒沢監督は、初タッグを組んだ菅田を「誰の目も釘付けにする俳優」と絶賛。「何と言ってもあの顔つき、そして声、立ち姿、奥の方にいても一発で菅田将暉とわかる唯一無二の個性があらゆる場面から立ち昇る。にもかかわらず、人混みの中だと市井の人物に溶け込んでしまう一般性、庶民性のようなものも同時に持ち合わせている。持って生まれた資質と計算とを巧みに組み合わせることのできる実に聡明な方なのだろう。そんな菅田さんにお願いした主人公吉井良介は、真面目で一途な悪党という、現代日本映画ではほとんど見かけない人物である。キャラクターの分類としては矛盾しているのかもしれない。しかし菅田さんはこの難しい役を極めて繊細に、かつ堂々と演じてくれた。繊細な部分が計算で、堂々としたところが資質なのか、あるいはその逆なのか、どちらかはわからない。いや、どちらも計算かもしれない。それとも全ては直感なのか。正体は不明だが、この正体不明こそ大スターの証なのだなとあらためて納得した」とその魅力に触れている。
撮影は昨年11月25日から12月22日に行われ、現在制作中。菅田、黒沢監督のコメント全文は下記の通り。(編集部・石井百合子)
映画『Cloud クラウド』は9月、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
主演・菅田将暉(吉井良介役)
生活の中に潜む、怖さとユーモア。 黒沢監督の頭の中が毎日少しずつ開示されていく撮影は、とても楽しく、贅沢な時間でした。 ピュアで歪な人間のアクションがたまらない。とにかく完成が待ち遠しい。 映画「Cloud」宜しくお願いします。
監督・脚本:黒沢清
(作品について)現代日本の片隅で、時折まったく無目的と思われる暴力事件が起きることがある。原因を探っていくと、そこにはちょっとした恨みやムシャクシャした気分がインターネットによって集結し肥大していくシステムがあるようだ。私はこうした現象がアクション映画の題材になるのではないかと考え、この企画をスタートさせた。主人公は、ささやかな金儲けによって少しでも人より優位に立ちたいと願う、ごくありふれた男である。この人物が不用意に周囲の恨みを買い、最後には命を賭けた死闘へと引きずり込まれる物語だ。しかし撮影が進むにつれて、私はこの映画がそう簡単にスカッとするアクションにはなっていかないことに気づいた。その理由のひとつは、主演の菅田将暉が驚くべき演技力でこの人物に深い陰影と複雑さをもたらしてくれたこと。もうひとつは、この死闘が思いがけず“戦争”の様相を見せ始めたことだ。金儲けと復讐が折り重なって増幅され、ついに暴力が作動し、気が付いたらもう引き返せなくなっている。現代の戦争も、ひょっとするとこのようにして起こるのかもしれない。
(主演・菅田将暉さんについて)菅田さんは、誰の目も釘付けにする俳優だ。何と言ってもあの顔つき、そして声、立ち姿、奥の方にいても一発で菅田将暉とわかる唯一無二の個性があらゆる場面から立ち昇る。にもかかわらず、人混みの中だと市井の人物に溶け込んでしまう一般性、庶民性のようなものも同時に持ち合わせている。持って生まれた資質と計算とを巧みに組み合わせることのできる実に聡明な方なのだろう。そんな菅田さんにお願いした主人公吉井良介は、真面目で一途な悪党という、現代日本映画ではほとんど見かけない人物である。キャラクターの分類としては矛盾しているのかもしれない。しかし菅田さんはこの難しい役を極めて繊細に、かつ堂々と演じてくれた。繊細な部分が計算で、堂々としたところが資質なのか、あるいはその逆なのか、どちらかはわからない。いや、どちらも計算かもしれない。それとも全ては直感なのか。正体は不明だが、この正体不明こそ大スターの証なのだなとあらためて納得した。