柴咲コウ、黒沢清監督の全編仏ロケ映画で仏語に挑戦 1998年公開のサスペンス『蛇の道』をセルフリメイク
女優、歌手、実業家の柴咲コウが、黒沢清監督がメガホンをとる日仏共同製作の映画『蛇の道』で主演を務めることが明らかになった。1998年に日本で劇場公開された同名映画を黒沢監督自らリメイクするもので、柴咲は愛娘を殺した者に復讐しようとする男に協力する謎の精神科医を演じる。本作はフランスのパリ及び近郊で撮影され、柴咲はほぼ全編フランス語での演技。柴咲はオファーを受けた時の心境を「なぜ私なのだろう? フランス語も話せないのに? と思いましたし、そのことは黒沢清監督とプロデューサーにお会いした際にお伝えしました。しかし、単純に黒沢清監督とお仕事したかったこと、それにプラスしてフランスや仏語に魅力を感じ、ずっと深く触れたかったという個人的な理由も絡み、前のめりでお引き受け致しました」と語っている。撮影は2023年4月18日から同年5月20日まで行われ、6月14日より全国公開される。
フランスの映画制作会社CINEFRANCE STUDIOS(シネフランス・スタジオ)と、KADOKAWAの日仏共同製作となる本作。原案となった『蛇の道』は、黒沢監督が哀川翔、香川照之らと組んだサスペンス。幼い娘を誘拐され殺された男(香川)が、謎の男(哀川)の協力を得て復讐を遂げようとするさまが描かれた。
黒沢監督が26年の時を経てセルフリメイクに挑む本作の製作の経緯について、プロデューサーは「最初のきっかけは、CINEFRANCEと本作品が始まる前から何か一緒にできないかと話していたことでしたが、それとは別に黒沢監督とお話する機会があり、監督が『蛇の道』を再度映画化したいと考えており、更にはフランスで再び映画を撮りたいと思っていたことを知りました。それを仏側に伝えたところ「是非、黒沢監督に『蛇の道』をフランスで再映画化の提案をしよう」ということになり、お受け頂いたのが企画の始まりです」と説明。
リメイク版では、何者かによって8歳の愛娘を殺された父アルベール・バシュレが、偶然出会った精神科医の新島小夜子の協力を得て、犯人を突き止め復讐することを生きがいに殺意を燃やす。娘は誰に、なぜ、殺されたのか? 2人はとある財団の関係者たちを拉致し、次第に真相が明らかになっていく……というストーリーが展開する。
主人公の精神科医・新島小夜子を演じるのは、『Dr.コトー診療所』(2022)、『君たちはどう生きるか』(※声優)、『ミステリと言う勿れ』(2023)などに出演し、アーティストとしても昨年12月に全国ツアーを開催するなど多岐にわたって活躍する柴咲コウ。本作では他人の復讐に協力する謎に包まれた役どころで、撮影の半年ほど前から日本で仏語レッスンを受けて撮影に臨み、黒沢監督を「本当に素晴らしい女優でした。彼女の鋭く妖しい眼差しと、野獣のような身のこなしが、この映画をオリジナル版にもましてミステリアスで深みのある作品に格上げしてくれました」と言わしめた。
一方、殺された娘の復讐に燃える男アルベールを、主演映画『レ・ミゼラブル』(2019)が第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞したダミアン・ボナールが演じる。
黒沢監督は、第68回カンヌ国際映画祭で『岸辺の旅』(2015)が「ある視点」部門・監督賞を受賞、第77回ベネチア国際映画祭で『スパイの妻<劇場版>』(2020)が銀獅子賞を受賞。先ごろ菅田将暉主演の映画『Cloud クラウド』(9月公開)の製作が発表されたばかり。2016年公開の映画『ダゲレオタイプの女』でタハール・ラヒム、オリヴィエ・グルメ、マチュー・アマルリックら海外の名優たちと組み、全編フランスロケ、フランス語に挑んだ。
黒沢監督、柴咲、ダミアン・ボナール、プロデューサーのコメント全文は下記の通り。(編集部・石井百合子)
黒沢清監督
26年前にオリジナル・ビデオ作品として脚本家高橋洋に書いてもらった脚本は、徹底的に復讐していく物語なのですが、これが非常によくできていて、チャンスがあればもう一度映画化したいとずっと願っていました。それがひょんなきっかけでフランス映画としてリメイクできたことは幸運という他ありません。そして、それ以上の幸運は何と言っても柴咲コウさんの参加でしょう。本当に素晴らしい女優でした。彼女の鋭く妖しい眼差しと、野獣のような身のこなしが、この映画をオリジナル版にもましてミステリアスで深みのある作品に格上げしてくれました。
主演・柴咲コウ(新島小夜子役)
・オファーがきた時の心境
なぜ私なのだろう? フランス語も話せないのに? と思いましたし、そのことは黒沢清監督とプロデューサーにお会いした際にお伝えしました。しかし、単純に黒沢清監督とお仕事したかったこと、それにプラスしてフランスや仏語に魅力を感じ、ずっと深く触れたかったという個人的な理由も絡み、前のめりでお引き受け致しました。
・フランスでの撮影を振り返り、感動したことや苦労したこと
フランス人スタッフ皆さんの黒沢清監督へのリスペクトが、現場の空気感や集中力に表れているなと思いました。私自身はとにかく夢中で撮影のみに専念していました。苦労をあげればキリがありませんが、「楽しく毎日撮影する」という目標は達成できました。録音部・フランソワからダメ出しされないときには「よしっ!」とガッツポーズしてました笑
・フランス語・フランスでのロケ、どのように準備したか
撮影の半年ほど前から仏語レッスンを日本で受けました。当然台詞中心ですが、あまりに基礎的なところは飛ばすとどうにも応用が利きませんから、基礎的なところも含めつつ進行してもらいました。監督からは発音に関してはそんなに完璧は求めていないと事前に言われましたが、観客の方が聴いて違和感のないように、と撮影中も改善を努めました。2ヶ月強の滞在中はキッチン付きのアパートを要望しました。自分で食べるものの用意ができたのと、まるで役そのもののようにフランスで生活している人として街に溶け込めた気がしたのは良かったです。
・本作はどのような作品となったか
外国語でお芝居をすることの難しさ、そしてそれを上回る楽しさを教えてくださいました。
ダミアン・ボナール コメント(アルベール役)
黒沢清監督の次回作に参加させていただけることを大変光栄に思い、また、彼が私にアルベール役を任せてくださったことにとても感動しました。この作品をご一緒できたことは私にとって非常に豊かな経験となりました。柴咲コウさんと一緒にこの冒険を経験できたこと、彼女と一緒に1000もの顔を持つこの探求に飛び込むことができたことは大きな喜びでした。復讐、痛み、狂気、幽霊、消失、祟りが入り混じる迷宮のような世界。この映画が日本で上映されるのが待ちきれませんし、皆さんと共有できるのをとても楽しみにしています。
プロデューサー
・映画化の経緯について
最初のきっかけは、CINEFRANCEと本作品が始まる前から何か一緒にできないかと話していたことでしたが、それとは別に黒沢監督とお話する機会があり、監督が『蛇の道』を再度映画化したいと考えており、更にはフランスで再び映画を撮りたいと思っていたことを知りました。それを仏側に伝えたところ「是非、黒沢監督に『蛇の道』をフランスで再映画化の提案をしよう」ということになり、お受け頂いたのが企画の始まりです。実際の現場は本当に素晴らしく、大げさにいえば毎日ちょっとした奇跡をみているような感覚にとらわれました。監督への尊敬と今日これから始まる撮影への期待が現場全体にあふれており、全てのスタッフとキャストがこの作品に関わっていることに誇りと喜びを感じていました。
・キャスティングについて
小夜子については、パリ在住の心療内科医という役どころに加え、何といっても全編フランスにおいてフランス語での演技が求められましたが、フランス語が話せるかということより、この難易度の高い役に時間と労力をかけてチャレンジしてくれる方にお願いしたいと思っていたところ、柴咲さんからかなり早い段階でご返事を頂き、ご一緒させて頂くことになりました。柴咲さんが撮影前の脚本の読み合わせ時にすでにかなりのレベルまでフランス語のセリフを練習してきており、初めてフランス語のセリフを言った時にフランスのスタッフから「柴咲さんのフランス語は思った以上にいいね」と言われたことを覚えています。