板垣李光人、22歳の美学 「好きのエネルギーで届けるのみ」
大河ドラマ「青天を衝け」(2021)の徳川昭武役、「どうする家康」(2023)の井伊直政役など、凜とした美しさを放つ役柄にふんして唯一無二の存在感を発揮してきた俳優の板垣李光人(22)。夢枕獏のベストセラーシリーズを原作にした映画『陰陽師0』(公開中)では、主人公の安倍晴明(山崎賢人※崎は「たつさき」)に興味を抱く帝を気品たっぷりに演じて観る者をくぎづけにする。俳優としてはもちろん、ファッションやアートにも造詣が深く、多様な表現の可能性にチャレンジしている彼が、仕事の美学を語った。
高貴なキャラクターがハマる秘訣は?
本作は、シリーズ累計発行部数680万部を超える夢枕獏の小説を原作に、平安時代に実在した呪術師・安倍晴明が陰陽師になる前の知られざる学生時代を描くオリジナルストーリー。『K-20(TWENTY) 怪人二十面相・伝』『アンフェア』シリーズの佐藤嗣麻子が監督・脚本を務めた。
板垣が演じる村上天皇は、醍醐天皇の第14皇子として生まれ、兄の朱雀天皇崩御により即位した。雅びで涼やか。そしてどこか艶やかな帝だ。板垣は「『青天を衝け』では徳川昭武を演じさせていただいたのですが、この作品でさらに上の位の役をいただけた。とうとう一番上まで来たなと思いました(笑)」とお茶目な笑顔をのぞかせながらオファーを受けた際の心境を振り返り、「もともと呪術や陰陽師の世界が好きだったので、こういった作品の一部になれるという喜びもありました。一方で國村隼さんなどたくさんのベテランの方々がいらっしゃる中で、一番上に立つ帝を演じるという緊張感もありました」と身が引き締まる思いもあったという。
指の先まで帝らしさを宿らせた板垣。役づくりでは帝のいる場所や、内面についても掘り下げた。「帝というと、本来は御簾の内側にいる人ですよね。映画ではもちろん顔をはっきりと映すことになりますが、それでも御簾の内側にいるような、一つ何かを隔てているような、周りとは違う時間や空気が流れている雰囲気を出せたらいいなと思っていました」と多くの人に囲まれながらも、彼らとは離れた場所にいる「圧倒的な存在」であること、それゆえの「絶対的な孤独」も胸に刻んだ。「これまで僕が演じてきた役柄も、身分が高いからこその哀愁や孤独を背負っていると思います。優雅さもそういったところから生まれるのかなと感じたりもしています」
板垣が帝役でイメージしたのは「浮雲」。周囲とは違った時間が流れていることを表すために「所作やまばたきなど、全体的にゆっくりとするように心がけた」そうで、「衣装には軽やかな生地が使われていたので、袖をさばいたりするとふわりと動いてくれるので、それもゆっくりとした動きに繋げることができました。また帝は後ろにきらびやかな美術を背負っているので、そういったセットも助けになりました」と豪華な衣装や美術、セットを作り上げたスタッフに感謝する。
美意識を磨くために大事なこと
板垣演じる帝は、ビジュアルのみならず所作や仕草も「美しい」という言葉がぴったり。板垣自身、日頃からアートやファッションに触れるなど意識の高さをうかがわせるが、一体どのようにして美意識を磨いてきたのだろうか。
すると板垣は「とにかくインプットすることが大事」と切り出し、「やはり自分の中にないものは出せないと思うので、何を血肉として、自分の表現として出力していくのか。それが大事になってくる」と思案。「ティム・バートン監督の映画も好きですし、小中学時代に観てきたアニメや漫画、聴いてきた音楽も、僕の血肉になっていると思います。また絵画を鑑賞することも好きで、特に(ジョン・エヴァレット・)ミレイの『オフィーリア』が好きです」と美術、音楽、映画などあらゆる分野からインプットしている。
板垣のデジタルアートの腕前はかなりのもので、世界に向けて出品や販売もして好評を得ている。2023年10月にはNFTアートの自画像集「わたし」を発表したが、絵を描くことには「自分を知る目的もある」という。「その時の精神状態を知ったり、今の自分を整理したりもできる。それが溜まってきたので、自画像集として発表させていただきました」とあらゆる経験を糧に自己表現へと昇華させている。
刺激を受けた松本潤との出会い
板垣は、4月から日本テレビ系の報道番組「news zero」の水曜パートナーに就任。この夏公開の映画『ブルーピリオド』(8月9日公開)では圧倒的な画力を武器に東京藝術大学を目指す高校生を演じるなど、活躍の幅をぐんぐん広げている。10歳で俳優デビューを果たし、幼い頃から表現の世界に身を置いてきたが、今モットーにしているのは「変化し続けること」だとキッパリ。「ずっと変わらずにいることもすごいことだけれど、自分にはそれは無理なことだと感じています。だからこそ出会う人やモノからいろいろな影響を受けながら、柔軟に生きていきたいなと。その時々、自分の心に正直に、流れに身を任せていたい」と未来を見つめる。
さらに20代で起きた良い変化について問うと、「『どうする家康』での松本潤さんとの出会いは、僕にとってとても大きなものだったと思います」としみじみ。「松本さんは俳優業はもちろん、嵐としての活動もされているからこそできる芝居、作品の作り方をされています。ステージング的な意識を強く持っていらっしゃって、芝居だけをやっている人間には出てこないもの、見えていないものが、松本さんには見えていらっしゃるのだなと感じます。先日、松本さんの写真展に伺ったのですが、表現方法としてもすさまじいものがありました。そこでもいろいろなものを吸収させていただきました」と大いに刺激を受けている様子だ。
常に板垣を突き動かしているのは、「好き」からくる情熱。「芝居もそうですし、ファッションもアートも、とにかく自分が好きなものばかり。これからも“好き”という気持ちをエネルギーにして、いろいろなものを送り届けていけたらと思っています」と希望をあふれさせていた。(取材・文:成田おり枝)
スタイリング:長瀬哲朗 ヘアメイク:KATO (TRON)