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「光る君へ」なぜ“手”をクローズアップ?心に美しい残像を生むために~タイトルバックの裏側

「光る君へ」タイトルバックより
「光る君へ」タイトルバックより - (C)NHK

 吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で初回から半年を経てもなお反響を呼んでいるタイトルバック。1,000年の時を超えるベストセラー小説「源氏物語」の作者・紫式部(まひろ)と、強い絆で結ばれる平安貴族社会の最高権力者・藤原道長の“手”をフィーチャーした映像が「艶めかしくも美しい」と評判だが、なぜ“手”に注目したのか? タイトルバックを企画・監督した市耒健太郎がその理由を語った。

【画像31点】反響呼んだタイトルバック映像カット

 平安時代の貴族社会を舞台に、世界最古の女性による小説といわれる「源氏物語」を生み出した紫式部の生涯を、大河ドラマ「功名が辻」(2006)や社会現象を巻き起こした恋愛ドラマ「セカンドバージン」(2010)などの大石静によるオリジナル脚本で描く本作。タイトルバックは開く花に始まり、主人公・まひろ(吉高)、男女の手、リキッドアート、平安京、琵琶、書などで構成され、各シークエンスに「感性の芽生え」「光の霊性に触る」「人生という旅」「時空を超えて」「創造性の目覚め」「この思いは永遠に」といったテーマが設けられている。

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 市耒が取り掛かったころにはまだ脚本が進んでおらず先の展開が読めない状況だった。先に冬野ユミによる音楽のデモテープが上がってきたため、それに合わせて制作を進めることとなった。「本編の内容が決まってない状態で、ある程度予測する必要がある。同時に観てくださる方の期待感は上げたいんだけど、具体性を持ちすぎてはいけない。加えて、放送されるのは日曜日の夜なので、視聴者の方が元気になる、生きる喜びを与えるようなものにしなければという思いはありました」

 市耒が目指したのは、1,000年前も1,000年後も変わらない人間の普遍的なロマンティシズムを光と触感によって映像化すること。そして、本編への「美しい暗号」として描くこと。「『光る君へ』は1,000年前の話なんですけど現代にも通ずる何かを探すのが自分の役割だと思いました」という。

 「そもそも映像とは、心に残像を生むための総合芸術です。特に今のような情報過多の時代にこそ、心に残る、深層に迫るようなクリエイティブの方が有効だと考えました」

 そこで全体を貫く普遍的なキーワードとして考えたのが「光と触感」だった。「昔は太陽光、ろうそくの光などで生活していたと思うのですが、光と触感というものは普遍的だろうと。今のような目まぐるしい時代だからこそ、恋をしたときの永遠に感じるような一瞬を描けたら、むしろ新鮮に感じてもらえるのではないかと。そこから企画、演出、美術、ライティングなどを詰めていきました。加えて、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』や世阿弥の『風姿花伝』など、日本的な美を探求してきた書物とまるで打ち合わせを進めるような感じで、詰めていきましたね」

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 タイトルバックの中でたびたび登場するのが、主人公・まひろと道長の手。二人の手が近づいては離れていく様子は、その関係を象徴するかのようでもある。時に重なる場面もあり、手だけが映されることで観る者の好奇心を掻き立て、「艶めかしい」「官能的」と評判だ。

 「まひろと道長を表す表現として、抽象的だけど生々しく感じられるものがいいなと考えていました。そうしたときに、手には表現の幅がすごくあるなと。握ったり、突き離したり、逃げたり、指先だけ触れたり……。初めはまひろに加えて(柄本佑演じる)道長も登場させることも考えたんですけど、タイトルバックは極力具象化しない方がいいと思ったのでやはりやめようと。抽象的で、なおかつ感情表現に富んだ最大のモチーフになるのは手だと思い至りました」

 手をモチーフの中心とする一方で、市耒がこだわったのは手そのものではなく「光」そのものを映すことだった。

 「手だけを撮ると生々しくなりすぎるのでカメラマンには“手を撮らないでほしい”と伝えたんです。光で包むような形で撮ってほしいと。それはまひろ(吉高由里子さん)を映すときも同様でした。カメラマンには面白い挑戦になりますよね。被写体をピントを外さずに映すことを訓練している最高のプロに、“ピントが合わなくてもいいです”というわけですから。僕としては、その人物が相手に触れたい、あるいは近づきたいけど近づけないといったようなことの一瞬を表現したかった。僕がスタッフに言い続けていたのが“永遠に感じる一瞬”を映したいということ。それは具象的なことではなく残像のようなものにしなくてはいけないんだと」

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 「見終えた後に残像として心に残るものが重要」とする考えは、本作に限らず市耒がテレビCMや短編などの映像制作の際にも、常に意識していることだという。

 「極端な言い方をすると見ているもの自体はあまり大事ではなくて。例えばキスシーンがあったら、“キスシーンを見た”以上の広がりはないと思うんですけど、男女の手が触れるか触れないかの状態にあって、光に包まれていたりしたら、細胞の律動というか、物語を見る人ひとりひとりにゆだねることができますよね。美しい映像なのはプロだから当然ですが、視覚的な抽象要素の群像が、見る人にどのような物語を起動することができるか。だからすべてのものをいかにメタ・ポエティックに撮れるかということにこだわりました。もしかしたら、手以外の方法もあったかもしれないけど、ちょうどよかったのかな(笑)」

 劇中でも、幼いころに運命的な出会いを果たしたまひろと道長は再会と別れを繰り返し、遠く離れていても月を見上げては互いに思いを馳せ、数奇な縁で結ばれている。市耒が手掛けたタイトルバックは、そんな二人の思いが込められているかのような奥深さに満ちている。(取材・文:編集部 石井百合子)

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市耒健太郎(いちきけんたろう)プロフィール:
東京藝術大学大学院修了。博報堂を経て、独立。クリエイティブディレクター兼フィルムディレクター。創造性を研究する学校、UNIVERSITY of CREATIVITY を主宰。

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