「光る君へ」軟骨無形成症のダンサー、DAIKIの挑戦 晴明の従者役で話題
吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で陰陽師・安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の従者・須麻流を演じるDAIKI。軟骨無形成症を抱えながらダンサーとして活躍する彼が俳優デビュー作である本作の撮影を振り返ると共に、「僕と同じように障害があり、俳優の世界を目指したいという方たちに繋げたい一心で臨みました」と本作に込めた思いを語った。
オーディションで役を射止めたDAIKIは、「Danceで福祉をデザインする」をモットーに、障害のある人がダンスで活躍する場を得られるようにという願いから立ち上げた団体「SOCIAL WORKEEERZ(ソーシャルワーカーズ)」の代表を務めている。活動範囲を広げるため、2023年より障害者専門芸能事務所であるアクセシビューティーマネジメントに所属。ダンサー、表現者を目指すきっかけとなったのは、くしくも「光る君へ」に藤原道綱役で出演している上地雄輔だった。
「表現者として上地さんにあこがれていました。もともとは保健体育の教師を目指していたのですが、そこから悩んでこの道に進んだのは(野球で活躍していた)上地さんの存在が大きくて、今回同じ作品に出演させていただいてうれしかったです。一度マネージャーを通じてご挨拶させていただいたんですけど、緊張しすぎてまったくお話できなかったのを後悔しています(笑)」
俳優としてのデビュー作が大河ドラマとあってプレッシャーもあったのではないかと思いきや「一切なかった」とDAIKI。「悪い緊張はなかったです。やっと出られる時代になったんだ、挑戦できるチャンスが巡ってきたという喜びの方が大きくて。この世界を目指したい障害のある方たちのために、まず自分の存在を知ってもらいたいという思いがありました。僕が出させていただくことにどんな意味があるのかをわかったうえで臨んでいるので、このような機会をいただいてとても感謝しています」
DAIKIが演じる須麻流(すまる)の名の由来は、スバル(プレアデス星団)から。ドラマのオリジナルキャラクターであり、背景がまったく描かれていないことから謎に包まれている。DAIKI自身はどのように解釈して演じているのか?
「出演が決まった際、晴明の従者であることはご説明いただきましたが、そのほかに明確な設定はありません。劇中、須麻流が言葉を発しているのは晴明にだけですし、そのほかの出演者の方々と目が合うこともないので、休憩中にユースケさんに“須麻流って(人に)見えているんですかね”と尋ねたこともあります。ちなみにユースケさんは“それ僕も思ったんだよね”とおっしゃっていました(笑)。ネットでは式神(陰陽道などで使われる鬼神)なのかとか、考察する方もいらっしゃいますが、正体がわからないところが逆に魅力でもあると思っています」
撮影初日には須麻流が走るシーンがあり、いつものように両手を振って走っていたところ“それは平安時代の走りではない”と指摘を受けてハッとしたというが、所作においてとりわけ心を砕いたのが胡坐だ。
「僕は身体的に長時間正座をしたり胡坐をかくことができないんですね。それで須麻流に関しては片足だけ膝立ちというふうにアレンジしていただいたんです。須麻流の少し不思議なキャラクターもふまえるといいのではないかと演出の方々がポジティブに考えてくださって。とはいえ、単に“できません”と言うだけではプロではないので、“これだったらできます”“この方法でどうでしょう?”と提案もさせていただいています。スタッフさんが本当に温かい方ばかりで、相談しやすい現場だったことにとても救われました」
特に思い出深いシーンとして残っているのが、4月7日放送・第14回「星落ちてなお」。当時の権力者である関白の藤原兼家(段田安則)の死を描くエピソードで、星空を眺め「今宵、星は落ちる。次なる者も長くはあるまい」とつぶやいた安倍晴明を、須麻流が二度見するというシーンだ。台本上では須麻流について「……」と描かれているのみだった。
「監督からは“はっと何かを思い出したかのように晴明を二度見してください”と言われたんですけど、何を思い出したのかイメージがないと演じられないと思ったので、そこの部分は自分なりに想像を膨らませながら演じました。シーンとしては晴明が兼家の死、そして跡継ぎとなる道隆(井浦新)の早世を予言するというものだったと思いますが、僕としては14回までに晴明と歩んできたすべてがここにつながった、伏線が回収されたといったような感覚でいました。それまで晴明は兼家の命令で人を呪詛したり、危ないことをしてきましたが、きっと須麻流の脳裏にはそういった日々がよぎったのではないかと。加えて、初回の走るシーン。自分にとって大河ドラマの第1歩があのシーンだったので大きく残っていますね」
日頃も大河ドラマのことが頭から離れず、撮影初期には無意識に須麻流の佇まいとなりダンス仲間にツッコまれることもあったと笑うDAIKI。「最初のころは、撮影が終わってからも須麻流のことを考えていたせいか、やたら姿勢が良くなっちゃって、仲間に“何それ?”って言われたりしました(笑)。あと須麻流は一切笑わないので、つい習慣で笑いをこらえてしまったり(笑)。今は俳優とダンサー、それぞれすみ分けられるようになりましたけど、役者というのはそうやって引き出しを作っていくんだなと勉強になりますし、楽しいですね」
そうした努力が結実したかのように周囲の反響も大きいという。「街中で声をかけられたり、ありがたいことに多くの方に知っていただいているようです。公園でお子さんから“須麻流だ!”って言われたんですけど、役として覚えていただけるって一番うれしいことで励みになります。これが俳優をやってく上で感じる幸せなんだなと……」
学びも多く、「止まっているだけでこれだけの時間を過ごすとか、目線だけを使うとか、表情だけを使うとか、ここまで追求したことは初めてだったので、表現者として成長させていただけてる場所だなと。これまでにない時間を過ごさせていただいています」と充実した様子のDAIKI。「まだまだわからないことも多く、コミュニケーションをとっていかなければと思っていますが撮影は毎回楽しく、自分が出ていないシーンの撮影も観ていたいですし、いつまでもいたいと思える現場です。これからも引き続き、障害のある方が“挑戦したい”と思ってくださるように努力を続けていけたらと思っています」と目を輝かせていた。(取材・文:編集部 石井百合子)