三谷幸喜監督、韓国のファン350名が熱狂!プチョン映画祭で特集上映&大爆笑ティーチイン
7月4日~14日まで、韓国のプチョンで開催中の富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)にて、7日、『記憶にございません!』の上映とマスタークラス「三谷幸喜の人生大劇場」が行われ、三谷幸喜監督が登壇。350名を超える韓国のファンに向け、自身の喜劇論、そして長澤まさみ主演の新作『スオミの話をしよう』(9月13日)について語った。映画祭期間中には、韓国初上映となる『ギャラクシー街道』と『記憶にございません!』、そして『ステキな金縛り』の3本が特集上映される。
三谷監督は開口一番「アンニョンハセヨ ミタニコウキ イムニダ(こんにちは 三谷幸喜です)」と韓国語であいさつ。続けて「ヨロブンチェハングゴアルゲッナヨ?(皆さん、私の韓国語がわかりますか)」と客席に問いかけ、客席からは「ネー(はい)」という返事を受けると、「チョヌンチェハングゴモッラヨ(私は自分の韓国語がわかりません)」と切り返し、大爆笑をさらった。ベルリン、モスクワ、ニューヨークで、このあいさつを行ってきたという三谷監督。韓国がこれまでで一番うけたと話し、会場を埋め尽くした観客の心を一瞬で掴んだ。
今回特集上映が行われる3作品について、すべての作品に共通して言えるのは“俳優が好きだということ”と語る三谷監督。「僕の大好きな俳優さんにどんな役を演じてもらうかを考えてストーリーを組み立てます。『ステキな金縛り』は西田敏行さんが幽霊にぴったりだと思い、誰に空中浮遊から覆いかぶさるかと考えたとき深津絵里さんの弁護士がいいと思い、それから前後のストーリーを考えました」と制作秘話を明かした。
大好きな俳優と一緒に自分が面白いと思った作品を作る。三谷作品には観客の共感を呼び起こす訴求力があったが、中には上手くいかなかった作品も。『ギャラクシー街道』では、「宇宙でもコーヒーショップや歌舞伎町でするような会話をすれば面白いかなと思って撮ったのですが、評判がすごく悪かったんです。それなら宇宙を舞台にする必要がないと評されて本当に落ち込みました。誰かに思いを聞いてほしくて明石家さんまさんにメールしたんです。そしたら返ってきたメールに『おめでとう!』と。何だか気持ちがふっ切れて気が楽になりました。それで自分も観客も楽しめる映画をと『記憶にございません!』が生まれました」と驚きの誕生エピソードが明かされた。
これまで多くの喜劇作品を発表してきた三谷監督だが、そもそも他人を笑わそうと思った原点は小学生時代までさかのぼる。「同級生と一緒に15分ぐらいの劇の台本を僕が書いて僕が演じたのですが、すごくウケたんです。それで毎年自分で書いて自分で演じていたのですが、いつしか裏方に回った方がもっといいものができるんじゃないかと。それで僕は俳優になるのをやめて脚本家、演出家を目指したんです」
また、群像劇もあれば、『笑の大学』のように極端に登場人物が少ない作品もある三谷作品。俳優が大好きな三谷監督にとって、キャストの数は大きな意味を持たず、コメディーの面白さは“人間は嘘を付く生き物だ”という持論から来ているという。「なんでも素直になってしまうと笑いは生まれません。例えば僕はお腹が空いているけど、そのことを他の人に悟られてはならない。考えていることと喋っていることのギャップから笑いが生まれるんです」と自身の作品に一貫しているこだわりを語った。
最新作『スオミの話をしよう』は、突然失踪した女性と彼女について語りだす5人の男たちを描いたサスペンスコメディー。「僕は家族に見せる顔と仕事関係の人に見せる顔を使い分けているんです。家族と一緒にいるところで仕事関係の人と偶然会ったとき、自分はどっちの顔をしたらよいのかわからない。どっちにするか悩んだときにこれを映画にしようと思いました」と着想について明かし、「2時間を1つの空間で長回しで撮る。演技のうまい俳優でないと持たないと考え、長澤まさみさんをはじめ素晴らしいキャストが揃いました。日本映画では珍しく1か月間リハーサルを行い、その結果演劇的な映画になりました」と作品をアピールした。
イベントの終盤には、7月8日が誕生日という三谷監督に、映画祭から似顔絵が描かれた特製バースデーケーキと、観客からバースデーソングのプレゼントが。「皆さんが僕の話をちゃんと聞いてくれ、熱意が伝わり感動的でした。今の僕の気持ちを集約するとこの言葉になります」と前置きし、「ペコパ!(お腹空いた)」と一言。再び会場を沸かせ、最後までファンとの交流を楽しんでいた。(土田真樹)