「光る君へ」オトモズの知られざる活躍 名コンビ、矢部太郎&本多力が爆笑対談
吉高由里子主演の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で主人公・紫式部(まひろ/吉高)の従者・乙丸を演じる芸人・漫画家の矢部太郎(46)と、左大臣・藤原道長(柄本佑)の従者・百舌彦を演じる俳優の本多力(45)。共にまひろ、道長の幼いころから仕え、二人の秘めた恋を見守ってきた乙丸と百舌彦のコンビは“オトモズ”のあだ名で人気を博している。バックグラウンドが描かれていないことからも謎の多い二人だが、日々何を思って主人に仕えているのか? 矢部、本多が約半年の道のりを振り返った。
本作は、平安中期の貴族社会を舞台に、のちに1000年の時を超えるベストセラー小説となる「源氏物語」を生む紫式部(まひろ)の生涯を、大河ドラマ「功名が辻」(2006)や社会現象を巻き起こした恋愛ドラマ「セカンドバージン」(2010)などの大石静によるオリジナル脚本で描くストーリー。主人公まひろと深く関わる人物の一人が平安の貴族社会で最高権力者となる藤原道長であり、まひろと道長が顔を合わせるたびに乙丸と百舌彦も行動を共にし、まひろと道長の“秘密”を共有している。
「乙丸」で検索したりします(本多)
Q:お二人の共演は初めてでしょうか?
矢部太郎(以下矢部):(2019年末にNHK Eテレで放送された)「Eうた♪ドラマ『歌のおじさん Eたん』」というドラマでご一緒したのですが、ご挨拶したぐらいでここまでがっつりやらせていただいたのは初めてです。今回、そこまでドラマ経験もないなかで、知っていたのは(同じ事務所である)金田哲さん(藤原斉信役)と秋山竜次さん(藤原実資役)ぐらいで、本当にいなかったんです。本多さんはお会いしたことがある方だったから、なんか嬉しいっていうか、落ち着くっていうか。
本多力(以下本多):矢部さんは短髪のイメージがあったので“あ、髪の毛長ッ”って。僕はここ(もみあげ部分)を伸ばさなきゃいけなくて、それが今抱えている問題で。
矢部:そう切れないんですよね。僕らは半カツラで、地毛と馴染ませるタイプなので。
本多:髪の毛を切るときに美容師さんに一度それ言ったらもう一切切らなくなって、ここだけ伸びてきて……。みなさん、どうしてるんですかね。
矢部:僕は全体を伸ばすことにしました。
本多:ああ、そっちに舵を切ったか。僕はここだけ伸びてしまって。柄本佑さんとか秋山さんとか、地毛で結っている方もいらっしゃって。玉置(玲央)さんは途中から地毛でしたよね。
矢部:百舌彦さんも地毛勢に行ったらいいんじゃないですか。
本多:え~伸ばすんですか。なるほど……。
Q:従者同士、お互いの演技に刺激を受けることはありますか?
矢部:本多さんは演出の方にアイデアを出されたりするのがすごいなと思います。“このシーン、ちょっとこういう風にやってみてもいいですか”みたいに。やってみて、“それはやらないでください”って言われたりすることもありますけど(笑)、採用になったりすることもあったりして、それでいいシーンになったりする。
本多:矢部さんは演技もですけど表情に引き込まれるというか演じていても見ていても。何を考えているかあんまりよくわかんないんですけど、矢部さんはそぎ落とされてる状態がもう仙人みたいで。武術の達人みたいに何をやっても受けてくれる感じがすごく面白い。
矢部:仙人って嬉しい!
本多:あ、仙人はちょっと言い過ぎたかもわかんないけど、一緒に芝居をしていて楽しいです。
Q:エゴサすることはありますか?
矢部:絵(矢部がSNSに投稿している光る君絵)に関してはありますね。
本多:めっちゃ恥ずかしいけど……しますね。乙丸で検索したこともあります。
矢部:「乙丸いい」みたいな反応があったらちょっとキーッてなるんですか?
本多:そうですね。でも「いいね」ボタンしかないじゃないですか。
矢部:えーっ、(逆の意味のボタンが)あったら押すんですか? ひどい!
本多:でも検索するのは乙丸だけです。なんでこんな意識してんのかわかんないですけど(笑)。
従者としての心得
Q:改めて演じる人物の印象、従者として心がけていることをお聞かせください。
矢部:乙丸にはずっと忠義の心があって、為時様のお家の生活が厳しくなって従者たちがどんどん離れていく中で残って。まひろ様と為時様にお仕えする気持ちがすごく強い人なんだと思うんですね。それはやっぱり御方様(ちやは)が道兼さん(玉置玲央)に殺されたときに何も役に立てなかったことが大きいと思うんですよね。
本多:ホントに残念なぐらい一切役に立ってなかったですよね……。
矢部:そうなんですよ。一体何してたんだっていう……(涙)。
本多:でも、百舌彦でも同じだったかもわかんない。
矢部:その思いはやっぱりずっとあると思うんですよね。そうした中で、まひろ様は健やかに育ってほしいし、幸せになってほしいなっていうことが、自分のことよりも優先なんじゃないかなと思います。それでも守れてないってよく言われますけれども……。
Q:まひろ役の吉高さんの反応は?
矢部:吉高さんにもよく言われます。
本多:(笑)。
矢部:僕が一発でのされたりするときとかは言われますね。でもですよ、僕がいなかったらパンチがまひろ様に当たっていたわけですからね!
本多:そうだそうだ、だから御方様のときとは違いますよね。
矢部:そうなんです。それ、ちょっと大事なところですよ(ややドヤ顔)。いつも何かあったらいけないっていう。まひろ様にはいつも何かあるから……。それでもまだ健康でいらっしゃるのは、私たちあってのことですよね。
本多:百舌彦は出世するんですけど、思ってもみなかったですね。ずっと従者だと思っていたので、 こういうこともあるんやって。乙丸さんはどっちかって言うと為時さん、まひろさんの家に仕えているけど、百舌彦は道長様だけに仕えている感じ。なので兄弟とか肉親に対しても見せられない部分を百舌彦には見せられる。ガス抜きの場所になればいいなっていうのは思っていました。役割としてはそういうことなのかなと思ってました。
“オトモズ”の知られざる苦労
Q:それぞれまひろ、道長とのシーンで印象に残っているシーンは? 我ながら活躍したというような。
矢部:まひろ様が市井の人に読み書きを教えたいっていうところは、僕もその気持ちに寄り添って役に立てた感じがしますね。客寄せのために芝居を打っていたときに、ほとんど誰も見てくれなかったけれども、たねちゃんがやりたいって思ってくれたから、心を動かせた感じがして。あれはやっぱり(毎熊克哉演じる散楽の一員)直秀さんが亡くなって、悲しみに沈むまひろ様を見ていたというのもありますよね。お母さんを失った悲しみもですけども、まひろ様に悲しいことがあるたびに繋がる感覚を覚えるところもありますよね。乙丸がわかっていないことの方が多いかもしれないんですけれども、乙丸なりにお姫様のことを考えて行動している感じはします。
本多:僕は、百舌彦が一度クビになりかけたときに道長様が父上(段田安則演じる兼家)に反抗してまで助けてくれたとき。
矢部:あのとき、観ていてビクッ……! ってなりました。乙丸も他人事じゃないっていう。従者はいつだってクビになりうる、失敗できないって。
本多:百舌彦は割と道長様に助けられてばっかりなんですけど……。そのクビになりかけたきっかけが、道長様が直秀さんに間違えられて放免に捕らえられてしまったことなんですけど、あのときは百舌彦が恋人のために布を買うのを道端で道長様が待ってくれている間に起きた出来事だったんですよね。普通そんなことないじゃないですか。なんだか道長様のそういう優しさに包まれてばかりですかね。自分が活躍したなって思うのは……矢部さん、馬を引いたことあります?
矢部:一度だけ、越前に行くときに引きました。
本多:馬ヤバいっすよね……。
矢部:確かに。速さをコントロールするのとか難しいですね。
本多:僕、未経験だったんですけどロケ行っていきなり「馬引いてください」と言われて。乗馬とかはよくあると思うんですけど、馬を引くのを習うって聞いたことないですし。当日に練習したんですけどめっちゃ難しくて、馬を引く方の肩がカッチカチになりました。ある日、夜のシーンで松明を持つシーンがあって、片手で馬を引いて、もう片方で松明を持って。しかも、その日のセットがめちゃ生い茂ってるセットやって。そっちに近づくとセットが燃えるじゃないですか。かと言って馬の方に逃げると馬が熱い。あれをやり遂げた自分は褒めてあげたかったですね……。
Q:馬と言えば、道長やまひろが馬に乗っているとき、乙丸と百舌彦が必死に走ってついていく姿も印象的でした。走るシーンは実際に大変ですか?
本多:“乙丸と並走してほしい”と言われた場面があって、矢部さんはばーって走っていったんですけど、僕は“意外と速いみたいな演技をしてください”って言われていて、本気出したら矢部さんより速くなっちゃうので、そこを抑えるっていうのがちょっと大変だったですかね(ややドヤ顔)。
矢部:えー、結構本気で走られてましたよ(疑いの目)。
本多:いやいや。矢部さんはめっちゃ本気でした。
矢部:いやいや、僕はだいぶ抑えていましたから。
本多:ホントですか……?(疑わしそうな目)
矢部:引き離しすぎたらあれかな~って(ややドヤ顔)。
本多:そうですか。
矢部:でも次の日めっちゃ筋肉痛でした……。
本多:僕は次の次の日に遅れてきました。でもその後また走るシーンがあって、僕の足が速すぎて馬を抜いちゃってNGが出たっていう(ややドヤ顔)。だから矢部さんよりは速いです。
矢部:だったら僕は馬より速いですよ。
本多:そういえば腕を振らずに走るのがちょっと大変でした。平安時代って歩くときも、走るときも腕を振っちゃダメなんですよね。
乙丸:乙丸は(姫様の)笠を持っているからフォームが崩れないんですよ。きれいに走れるんです(ややドヤ顔)。
本多:その「きれい」っていうのは主観ですから。誰も言ってないし!
矢部:なんか変だなっていう印象をもたれているとしたら、僕の方が「きれい」な理由は笠を持っているからです。僕は走るより、たどり着くシーンの方が大変で、馬の後ろで転んじゃったことがあります。スタジオで撮ったんですけど、スタッフさんに“馬の後ろは危険だから近寄らないでください”って言われて、ビビりすぎちゃって転んじゃって、あのときはヒヤッとしました。
まひろと道長の恋をどう見ている?
Q:乙丸と百舌彦はどのような気持ちでまひろと道長の恋を見守っているんでしょう?
矢部:やっぱり幸せになっていただきたいなっていう。ちょっと複雑な気持ちもありますけどね。
Q:乙丸は百舌彦を通して道長に“もういい加減にしてください”みたいに苦言を呈することもありましたよね。
矢部:今思えばかなり出すぎた発言ですよね……。
本多:本当ですよ! でもあれが乙丸の一途さであって。
矢部:でも百舌彦さんもきっと同じように感じていると思うから、(道長の恋を)切り捨てられなかった。
本多:やめといたらいいのにな、とは思うんですけど。でも道長様はすごく素敵な男性ですし。道長様と結ばれたら、多分幸せになるんだろうなとは思うけど、道長様には家庭があるから、なんかややこしくなってもな……みたいな。恋バナを聞く友達みたいな。秘密を知っているけど、あ~何も言えへんな、みたいな感じですかね。難しい恋をされてるなっていうのはありますね。
Q:乙丸と百舌彦は二人の恋愛を知る数少ない人物ですよね。
矢部:抱えていましたね。ずっと続いてらっしゃるし……。
本多:惹かれ合っているんでしょうね。かといって結ばれちゃうと、それはそれでまた変わってくるんですかね。つかず離れずのあの感じがいいんですかね。(乙丸と百舌彦が映っていないときでも)2人が会うときには、きっとそばにいると思うんですよね。だいたい会うのは夜やから。乙丸も百舌彦も待っている間にはなんか喋ってるんでしょうけど、その後にそれぞれ主人を連れて帰る道中は、あまり喋らないと思うんですよね。
矢部:そうですよね。何があったかとかは絶対聞かないはず。
本多:主人の思いを察する時間が切なくもあり、特別な時間なんじゃないかなと。
Q:最後に視聴者に一言お願いします。
本多:例えば舞台が戦国時代とかだと主人に仕えていても謀反を起こしたりするじゃないですか。でも、僕ら(従者)にはそれがなくて。現代においては裏切りが一切ない関係っていうのはあまりない気がするので、親友とも違う奉仕する対象の人が人生の中にいたら、違う豊かさみたいなのが生まれるんじゃないかというのは思いました。
矢部:乙丸にとって自分の仕事が日々小さいなと思ってしまったり、果たして意味があるのかなとか思うことがあったとしても、それがまひろ様が書いて1000年後まで残る「源氏物語」や、歌の中に、もしかしたら乙丸とまひろ様の関係の痕跡が残っているかもしれない。それを現代の人が読むことがあるかもしれないと思うと、それはすごくロマンがあることで、自分が日々生きることを肯定できる気がします。
本多:為時邸を訪ねるといつも乙丸が掃除しているから“掃除しかしてないんか”って思うけど、屋敷の前が綺麗っていうのも、もしかしたら「源氏物語」の中に残っているかもわかんないね。
矢部:そういうことですね。
まるで漫才コンビのような劇中さながらの息ピッタリの掛け合いでインタビューに応じた矢部&本多。最近、チェロを始めたという矢部に、本多がすかさず「なんかのインタビューで“もう飽きた”って言ってましたけど」とツッコミを入れるなど、口を開けばコントが始まるといった感で、共に従者役として苦楽を共にする中で固い絆が確かに芽生えているようだ。(編集部・石井百合子)