2024年前半の成功作・失敗作…大作が次々コケるも救世主登場
昨年の俳優、脚本家のダブルストライキの影響もあり、やや貧弱なラインナップを強いられた2024年前半のハリウッド。予定通り公開された期待の大作もぱっとせず、6月初めの段階で興行成績は昨年に比べ20%以上ダウンしていた。だが、先月半ば、ようやく待ちに待たれた救世主が登場して、少し明るいムードに。ここまでの成績表を振り返ってみる。(文:猿渡由紀)
【動画】大ヒットでボックスオフィスの救世主となった『インサイド・ヘッド2』
低迷していたボックスオフィスを一気に持ち上げてくれた救世主とは、ピクサーの『インサイド・ヘッド2』。公開初週末に北米だけで1億5,400万ドル(約246億円)を売り上げたこの映画は、公開からわずか19日で世界興収10億ドル(約1,600億円)を達成してもいる。アニメーション映画として、これは史上最速だ。これまでの記録は『アナと雪の女王2』の25日だった。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル160円計算)
北米で1億ドル(約160億円)以上のデビューを果たしたのも、今のところ、今年はこれが唯一。かつては全ての作品を大ヒットさせていたピクサーだが、パンデミックがあったとはいえ、『バズ・ライトイヤー』をはじめちょっとがっかりな成績が続いていたため、社内も祝福ムードに沸いていることだろう(ただし、最近レイオフがあったので、複雑な気分もあるかもしれない)。
今年前半2番目のヒット作は、『デューン 砂の惑星PART2』。現在までに北米で2億8,200万ドル(451億円)、全世界で7億1,100万ドル(約1,138億円)を売り上げている。ただし、本来は昨年秋公開のはずだった。俳優のストライキで、ティモシー・シャラメやゼンデイヤが宣伝活動を行えないことから、今年に延期されたのだ。この映画は来年のオスカーでも複数部門で大健闘が予想される。延期のおかげで今年、同作と視覚効果賞のオスカーを争わずに済んだのは、『ゴジラ-1.0』にとって幸運だったかもしれない。
『猿の惑星/キングダム』も成功した。世界興収は現在までに3億9,100万ドル(約626億円)。だが、『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』から始まった前三部作の世界興収が全て4億ドル(約640億円)超えで、『猿の惑星:新世紀(ライジング)』は7億ドル(約1,120億円)だったことを考えると、手放しで喜ぶというところまではいかない。今作も新たな三部作を想定しているが、次の製作についての発表は今のところない。
『ゴジラxコング 新たなる帝国』も、堅調に全世界で5億6,700万ドル(約907億円)を売り上げた。また、北米ではバレンタインデーに公開された『ボブ・マーリー:ONE LOVE』も、小粒な映画ながら全世界で1億8,000万ドル(約288億円)弱を売り上げ、成功している。
では、次に失敗作を見てみよう。まずは『ボブ・マーリー:ONE LOVE』と同じ日に公開された『マダム・ウェブ』。この女性中心のスーパーヒーロー映画は、ダコタ・ジョンソン、シドニー・スウィーニーなど注目の女優が出演したにもかかわらず、世界興収はギリギリ1億ドル(約160億円)程度と、大赤字。スピンオフも計画されていたが、実現するとは思えない。
大きな期待が寄せられていた『マッドマックス:フュリオサ』も、がっかりだった。1億6,800万ドル(約269億円)の製作費をかけ、アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワースというトップスターを据えたこのアクション映画の世界興収は、現在までに1億7,100万ドル(約274億円)。カンヌ国際映画祭でのお披露目をはじめとするマーケティング経費を考えると、完全に足が出た。前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、製作費はほぼ同額ながら、全世界興収は3億8,000万ドル(約608億円)で、作品部門を含む10部門でオスカーにノミネートされている。今回の前日譚が次のアワードシーズンでどこまで健闘するかは、今のところ不明。
斬新なアクションスタイルでしっかりとファンを掴んでいるマシュー・ヴォーン監督の『ARGYLLE/アーガイル』が大きくコケたのも、意外だった。製作費は2億ドル(約320億円)、世界興収は9,600万ドル(約154億円)。ただ、この映画は Apple TV+ が製作し、ユニバーサル(日本は東宝東和)に劇場配給を依頼したもので、ほかと単純に比較はできない。Appleにはがっつりとした“本業”があり、映画製作は会社の生命線とはほど遠く、ブランド展開の一つだからだ。そうは言っても、ヴォーン監督には腑に落ちない結果だっただろうことに変わりはない。
そして何より、『バービー』のライアン・ゴズリングと『オッペンハイマー』のエミリー・ブラントが共演した『フォールガイ』。この二人はオスカー授賞式でも一緒にプレゼンターを務めたし、アメリカではスーパーボウルでもテレビスポットが流されるなど、たっぷりとマーケティングがなされた。しかし、製作費1億2,500万ドル(約200億円)に対し、世界興収は1億7,400万ドル(約278億円)にとどまり、赤字の結果に。批評家、観客、どちらの評価も高いだけに、より残念な気持ちが否めない。これを理由にオリジナルなアイデアがさらに避けられ、続編をはじめとするシリーズものに頼ろうとする風潮が強まらないことを願いたいものである。