「カクレンジャー」30年ぶり続編、実現の裏にキャストの奮闘 小川輝晃&広瀬仁美が明かす紆余曲折の制作秘話
1994年から1995年にかけて放送されたスーパー戦隊シリーズ第18作「忍者戦隊カクレンジャー」の30年ぶりとなる正統続編「忍者戦隊カクレンジャー 第三部・中年奮闘編」が、東映特撮ファンクラブ(TTFC)で配信中だ。当時のメンバーが再集結した30周年記念作品が実現するまでの道のりは長く、キャストやスタッフがさまざまな壁に直面していた。オリジナルキャストの小川輝晃(サスケ/ニンジャレッド役)と広瀬仁美(鶴姫/ニンジャホワイト役)がインタビューに応じ、制作発表までの舞台裏を語った。
【動画】「忍者戦隊カクレンジャー 第三部・中年奮闘編」予告編
キャスト自ら企画提案も「これでは無理だ」
スーパー戦隊シリーズは、『忍風戦隊ハリケンジャー 10 YEARS AFTER』(2013)を皮切りに、当時のキャストが再集結しての“周年作品”が制作されてきた。直近では、『特捜戦隊デカレンジャー20th ファイヤーボール・ブースター』『爆竜戦隊アバレンジャー20th 許されざるアバレ』『忍風戦隊ハリケンジャーでござる! シュシュッと20th Anniversary』といった20周年新作が連続したが、30周年での新作は「カクレンジャー」が初めてだ(ただし、他の“周年作品”とは異なり、タイトルで周年であることはうたっていない)。
企画のきっかけは、「カクレンジャー」25周年イヤーに行われた小川と広瀬による絵本制作だった。小川は「応援してくださる方々の期待に応えたいという思いがありました。『カクレンジャー』としては僕だちだけで作品は出せないということで、姫(広瀬)が絵を描く仕事をしているので、僕が物語を書いて、彼女が絵を描く形で絵本を作り、結果的にそれを歌にしてCDを出しました」と当時を振り返る。
「やはり『カクレンジャー』ファンは周年作品を待っていて、その当時も『30周年で何かやってくれるんですか?』という話を受けました。『みなさんが声をあげたら叶うかも』と言ったところ、熱意あるファンのみなさんが声をあげてくださったことが、本当に大きかったです」(小川)
そこから、小川が中心となって作品の企画書を作成。広瀬と交流があるプロデューサーに提出するも、「これでは無理です」とまさかの答えが返ってきた。
「私たちがやりたいことをたくさん詰め込んで、夢の風呂敷をバンッと広げたような内容でした。その中から、いい部分を少しずつつまんで、現在の作品になっています。彼(小川)が内容などをすごく考えてくれて、私は『話はこういうのがいいな』とか『全員集まるにはどういう順番が必要かな』など考えて、サポートしていました」(広瀬)
若づくりして演じることはやめよう
「カクレンジャー」テレビシリーズは、全53話を「第一部」(第1話から第24話)、「第二部・青春激闘編」(第25話から最終話)と二部構成にわけたストーリー展開が特徴だ。完全新作は「第三部・中年奮闘編」と銘打ち、テレビシリーズ“第54話”とも言えるその後の物語が描かれた。
前述のとおり、本作品のタイトルには30周年を記念した作品であるということは表現されていない。 「第三部・中年奮闘編」というサブタイトルも、本編内で各話タイトルのように表示されるだけだ。これは、本作品を30周年という一過性のお祭りに終わらせず、40年、50年と経っても色あせない、テレビシリーズの地続きの話を作りたいというプロデュース陣の想いによって付けられたそうだが、30年経った5人のいまの姿を描くことは、キャストによるこだわりだった。
「30年前の5人の姿を踏襲して『俺たち、まだできるぜ』と若づくりして演じることは、やめようと思っていました。そうではなく、30年経ったいまの等身大の姿をお見せできたらいいなと、話を詰めていきました。『第三部・中年奮闘編』は、それを具現化した秀逸なサブタイトルです」(小川)
話が本格的に進んだのは、2022年夏のこと。実現にあたり、当時のキャストが出演できるかが最大の問題となっていた。
「土田大(サイゾウ/ニンジャブルー役)は声優として多忙なため、スケジュールが確保できるかわからない状態でしたが、(メガホンを取った)坂本浩一監督に打診ができた段階で、5人でご飯を食べながら、どんな話にするかを考えようということになり、そこで初めて5人での話し合いの場を設けました」(小川)
「とりあえず集まってみたら、みんなやる気でしたね。特にケイン(・コスギ、ジライヤ/ニンジャブラック役)は、『トップガン マーヴェリック』みたいな作品がいい! と話していました(笑)」(広瀬)
「夢は見るから叶うもの」
小川と広瀬は2022年、TTFCが制作した「『劇場版 仮面ライダーリバイス』スピンオフ配信ドラマ『Birth of Chimera』」にゲスト出演。悪役を務めたケインとの共演はもちろん、坂本浩一監督とも現場を共にすることとなった。
「坂本監督が撮る劇場版『仮面ライダーリバイス』の悪役にケインが決まっていたので、『カクレンジャー』の布石として僕たちをキャスティングして、少し匂わせをしていたんです。当時は、まだ新作が制作できるか不透明だったので、確実にできる方向に持っていくために、いろんな作戦を打とうとしたうちの一つが『Birth of Chimera』でした」(小川)
結果的に、小川と広瀬の出演情報が解禁されると、SNSでは「カクレンジャー」がトレンド入り。坂本監督は、この反響を受けて「カクレンジャー 第三部」の企画に自信を深めたという。その後、TTFCが手をあげ、TTFCオリジナル作品として制作が正式決定することになった。
かくして誕生した30年ぶりの正統続編は、8月4日に配信されると、SNSなどに反響の声が続々と投稿された。広瀬は「『できたらいいね』から始まった30周年企画をみなさんにお届けできたのは、本当に嬉しいです。毎日エゴサーチしているのですが、『よかった』という声が本当に多いんです」と安堵の表情を見せる。
小川は「今、教える仕事もさせていただいているのですが、子供たちには『夢っていうのは、見るから叶う』ということを常に言っています。ひまわりを咲かせたいのなら、ひまわりの種を蒔かないと始まりませんよね。だから、自分が『これを咲かせたい』というものを、まず思うことが大事なんです」と夢を実現させる大切さを説く。「今回でいうと、自分たちが一から企画を考えて、『やれればいいな』から『やるぞ』になって、最終的に『やれた』になりました。夢は見たら叶うということを、この作品を通してみなさんに伝えたいです」と力強く語っていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
「忍者戦隊カクレンジャー 第三部・中年奮闘編」東映特撮ファンクラブ(TTFC)にて配信中