「光る君へ」吉高由里子、まひろと道長の第2章を語る 「彼の存在がこの世にいる理由」
大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で主人公・紫式部(まひろ)を演じる吉高由里子が、クランクインから約1年2か月を経て、紫式部と藤原道長(柄本佑)のこれまでとこれからについて語った。吉高はまひろと道長の関係を「もう恋愛とかを超えてる次元にいて、おそらくまひろにとって道長はよりどころなのかなと。まひろが陰にいる時は道長が光っていて、まひろが光る時は道長が陰で支えてくれているような……」と語る。
本作は、平安中期の貴族社会を舞台に、のちに1000年の時を超えるベストセラーとなった「源氏物語」を生み出した紫式部の生涯を、大河ドラマ「功名が辻」(2006)や、社会現象を巻き起こした恋愛ドラマ「セカンドバージン」(2010)などの大石静のオリジナル脚本で描くストーリー。物語の軸となるのが、紫式部と、平安貴族社会の最高権力者となる道長との関係。初回で幼少期に道長(三郎)と出会って以来、数奇な縁で結ばれながらも道長は源倫子(黒木華)と源明子(瀧内公美)の二人の妻を持ち、まひろは長らく独身を貫いたのち父・為時(岸谷五朗)の友人である宣孝(佐々木蔵之介)に押される形で結婚した。劇中、多くの女性が結婚に価値を見いだすなか、まひろは独自の価値観を貫いていたが、そんな生きざまを吉高はどう見たのか。
「自分を見ているようですよね。現代だと特に女性は家庭に入るのか入らないのか、という波が来ると思うんです。今の令和の時代も当たり前が変わってきているような気がしますし、結婚していないから幸せじゃないとか、結婚しているから幸せだとか、結婚がすべてではない気がしていて。それは多分仕事が楽しいというのもあったと思うんですけど、まひろも同じなのかなと。そこに居場所があるからなのかもしれないですね。だからまひろに対して“なんで結婚しないのかな”とか、“いつまで仕事を続けるのかな”といった疑問を抱くことはなかったです」
第27回「宿縁の命」では、まひろが道長との不義の子を出産。道長がその事実を知らぬまま、賢子と名付けられた娘はすくすくと成長している。かつて道長に駆け落ちを持ちかけられたころには妾になることを拒んでいたまひろだが、彼の子を産んだことで変化はあったのか。
「宣孝と結婚した時点で正妻、妾といったことへのこだわりはなくなっている気がします。若い頃って経験がないから、怖いもの知らずでものを言えてしまうところもあると思います。自分の可能性を多く見積もったりもするんだと思うんですけど、ある程度年を重ねたらそうはいかないですよね。きっと、まひろはそういうことを悟ったというか、(恋愛において)これ以上ないというピークがわかったんじゃないかなと。初めは妾として養ってもらう感じがすごく嫌だったと思うんですけど、もう選択肢がないところまで来てしまって、最後はすがるような思いでもらってくれる人のところにいったという感じがします。だからもはや道長の子がいるから云々なんていう次元にいないはず。自分も家族も生きるのに必死で、赤ちゃんも気づいたらお腹の中で必死に大きくなってくれて、あっという間に産まれたといった感覚なのかなと」
遠く離れても惹かれ合うまひろと道長だが、道長が公卿のトップに立ってからというものの悩みは尽きず、まひろも作家としての道を歩み出したことで二人の関係も徐々に変化していく。ドラマの大きな見せ場の一つが「源氏物語」誕生秘話だが、これは二人にとっての第2章とも言える。第31回「月の下で」ではまひろが道長たっての望みで物語の執筆を開始。道長には、亡き皇后・定子(高畑充希)に今もなお囚われ続ける一条天皇(塩野瑛久)を娘の中宮・彰子(見上愛)に向けるために「枕草子」を超える物語を完成させたいという親心、そして政治的な思惑があったが、吉高は現段階での二人の関係をこう解釈する。
「変わったのは立ち位置、環境もですが、物理的な距離が近くなったことでしょうか。一緒にいたいと願い続けていた2人がようやく近くにいられるようになるわけですが、すごく近いのに遠いようにも感じたりして。まひろにとって、三郎時代の道長の方が近かったような気もします。それは心の距離でもあるのかなとも思ったりして。惹かれあうのはずっと変わらないと思うんですけどね。まひろは道長のことを思い続けていると思うし、その気持ちが爆発しないように一生懸命蓋をして、自分から距離を置いているようなところもあると思います。一方で、一緒に戦う、一緒に同じ方向を目指す同志としてはすごく心強くて。まひろにとって道長は、よりどころなんじゃないかなと思います。彼が生きていること自体が生き甲斐というか、この世にいる理由なんじゃないかとも思います」
初めは道長の依頼を受け、一条天皇のために物語を執筆していたまひろだが、やがて物語を生む喜びに目覚めてからは自分のために書くのだと大きく変化していく。第32回はまひろの作家としての矜持が芽生える記念すべき回ともいえるが、なぜまひろはその境地に至ったのか。
「帝のために書いた物語が偽物のように感じたんじゃないかなと思います。自分の中での違和感というか、“わたし”が書いたものではないという感じ。それで書き方、向き合い方を変えていったら、もう帝のための物語でもなくなってしまって、自分が面白いと思う物語を書きたいと思ったんでしょうね。作家が書きたいという気持ちにたどり着くのって、おそらくとても大変なことで。書きたい気持ちがあっても、書きたいものが明確にならないと書けない。まひろは多分バチッと何かと出会ったんじゃないかなと思って。もともと猪突猛進型なので、書くのに夢中になって、誰かを満足させることはどうでもよくなってしまって、物語が頭の中を駆け巡ったんじゃないかなという風に思います」
その境地に至る描写として、前話・第31回では色とりどりの美しい和紙がまひろに舞い落ちてくる場面があった。まひろの“閃き”を表すかのような美しいシーンだが、吉高はこの瞬間を「ああこれで前半が終わるんだ、という気持ちになりました」と振り返る。
「何時間でも撮っていたいぐらいで“終わっちゃうんだ”という一方で、“ここから第2章が始まるんだ”という気持ちにもなりました。おそらく第1回から31回までは、まひろの自宅の外での経験が『源氏物語』につながっていくまでの前書きだったんじゃないかなとも思うんです。大石先生が、『源氏物語』を読んでいない人にも“あれはこの人でこれはこの人なのかな”と楽しめるように種を蒔かれていたんじゃないかと。ここからその1つ1つが花を咲かせていくのかとか思うと、“なるほど。あのマダムめ”って(笑)。産みの苦しみを乗り越えてやってきたとおっしゃっていたので」
そう第2章の始まりを肌で感じながら、「衣装もいる場所も変わりましたし、風景もガラッと変わったので、自分で用意せずとも第2章に押し出されたような感じがしましたね。最終回を撮り終えたとき、自分は何を考えるんだろう、何を思うんだろうなと、 わからない気持ちが込み上げてきたりもします」とこれからに思いを馳せていた。(編集部・石井百合子)