剛力彩芽、10キロ増量でライオネス飛鳥役 パブリックイメージに葛藤した20代を重ねる
爽やかな笑顔でファンを魅了し、瞬く間に人気モデル、女優になった剛力彩芽。そんな彼女も2020年に18年間所属した事務所を退所し独立。剛力が30歳の節目に「新しい挑戦をしたい」と臨んだのが、Netflixシリーズ「極悪女王」(独占配信中)のライオネス飛鳥役だ。日頃から華麗なダンスを披露するなど運動能力には定評があった剛力だが、線の細い彼女が「女子プロレスラー?」と驚いたファンも多かったのでないか。なぜ剛力が本作に挑んだのか……? 剛力が、熱い思いを語った。
独立後のハングリー精神が出演のきっかけ
本作は、1980年代に日本中を震撼させた女子プロレスのヒールユニット「極悪同盟」を結成し、稀代の悪役レスラーとして一世を風靡したダンプ松本の半生を、フィクションとして描いた物語。企画・脚本・プロデュースを鈴木おさむ、総監督を『孤狼の血』シリーズの白石和彌が務める。剛力は、ダンプ松本(ゆりやんレトリィバァ)のライバルとして彼女の前に立ちはだかるベビーフェイスのタッグチーム、クラッシュ・ギャルズのライオネス飛鳥を演じた。
ライオネス飛鳥は、タッグを組んだ長与千種(唐田えりか)やダンプの同期として女子プロレス界に入門したが、群を抜いて運動神経とプロレスのセンスがあり、すぐにデビューにこぎつけるエリートだ。
ダンスを得意とし、運動神経は抜群の剛力だが、華奢な体型でおおよそプロレスラーにはほど遠いビジュアルだ。自身も「正直オーディションのお話があるまで、プロレスはほとんど見たことがありませんでしたたし、痛いし、怖いんだろうな……と」という認識だったという。
実際オーディションでも、総監督を務めた白石和彌から“水着を着ますし、体重も増やしていただきます。来るところ間違っていませんか?”と言われたという。それでも剛力は「やりたいです。頑張ります」とためらいはなかったという。
その理由について、剛力は「オーディション開催の時期が、ちょうどわたしが30歳になる節目だったんです。前事務所から独立させていただき、今までやったことがないような挑戦をしてみたいと強く思っていた時期でした」と当時の心境を明かす。
増量が順調だったのは初めの1週間だけ
覚悟を持って臨んだオーディション。剛力の熱意が通じて見事ライオネス飛鳥役を射止めた。そこから始まった肉体改造では、強い思いで挑んだものの「こんなに体重を増やすことが大変なのか……と痛いほど身に沁みました」と語る。
スポーツ自体には幼少期からなじみがあった剛力。プロレス技や体を動かすことへの順応はできたが、思ったように体重が増えない。「最初の1週間ぐらいは好きなものを制限なく食べることができて幸せだったのですが、だんだん食べても増えなくなって」
それでもトレーナーや栄養管理士がしっかりとサポートし、健康的に筋肉をつけながらプロレスラーの体型を作り込んでいき、10キロの増量に成功。プロレスラーらしい筋肉をつけ、撮影に臨むことができた。
そうした俳優たちの努力によって、プロレスシーンはカットを割らずに一連で撮ることができるまでになった。「最初は何もできなかったところから考えると、見違えるようにできるようになっていて感動しました」
相方を守るライオネス飛鳥が最高にカッコいい!
演じたライオネス飛鳥についても、当時の試合の映像などから入念に研究した。その中で剛力は「飛鳥さんの真面目さにすごく共感しました。本当にプロレスが大好きで、まっすぐな思いで挑む姿が素敵でした」と語ると「一番大切にしていたのが、長与千種さんをしっかりと守ろうとしているところ。何かあったらどんなことをしても助けるという気持ちがめちゃくちゃ格好いい。だからわたしも長与千種さんを演じる唐田えりかを、どうやったら輝かせることができるんだろうということをすごく考えました」と役づくりのポイントをあげる。
プロレスが大好きにもかかわらず、人気が出るにつれてプロレス以外の仕事も増える。「それもプロレス」という千種に対して、「それは違う」と疑問を呈する飛鳥。徐々に互いの考え方、それぞれ理想のプロレスとのギャップに悩まされていく姿もドラマのなかでは描かれている。
求められる自分となりたい自分のはざまで苦悩する二人の姿に、自身が重なったとも。デビュー当時から明るく元気で溌溂といったパブリックイメージが強かった剛力だが、「わたしもデビューしたばかりのころは“フレッシュな女の子”というイメージを持たれている方が多かったと思います」と自己分析すると「もちろんそういった一面も持ってはいますが、どちらかというとそこまで“わー!”っていうタイプではないんです。基本的には人見知りなので(笑)。25~26歳ぐらいのときは、“本当の自分なんて理解されなんだろうな”って。人前で無理して笑いたくないというマインドになってしまったこともありました」と振り返る。
求められるイメージを理解し受け入れながらも、一方では抗いたい自分もいる。そんな葛藤を繰り返しつつも、結局は「笑ったり元気で楽しいことが好きなんだな」という思いにたどり着いた。そこからは「あまり周囲の目は気にしないようになりました。それでも“人にどう見られているのか”というのは頭の片隅に置いていますけれどね」と語った。
ライオネス飛鳥を演じたことで「自分を信じ続ける強さ、潔さ」を身に沁みて感じたという剛力。作品に入る前にあまり知識がなかったというプロレスについても「とても奥が深いし、表現という意味でも役者と通じるものがあるなと感じました。エンターテインメントという部分で、人を喜ばせたり、熱中させたり……とても近いものなんだと思いました」と多くの刺激を受けたことを明かしていた。(取材・文・撮影:磯部正和)