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神山健治監督、アニメは最大の武器 『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』に見出した可能性

『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』を手がけた神山健治監督
『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』を手がけた神山健治監督

 J・R・R・トールキンのファンタジー小説「指輪物語」を3部作で実写映画化した『ロード・オブ・ザ・リング』。同作の200年前を舞台に、騎士の国・ローハンの運命を左右する戦いを描いたアニメーション映画『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』が劇場公開される。同作を手がけたのは、日本のアニメ業界を牽引する神山健治監督だ。日本が誇る手描きアニメーションでファンタジー巨編の映画化に挑んだ神山監督が、制作におけるこだわりや、実写三部作を手がけたピーター・ジャクソン監督との交流について語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)

【動画】実写3部作につながる!『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』日本版予告編

 小説「指輪物語 追補編」のエピソードに基づく本作。ヘルム王に恨みを抱く男・ウルフの反乱によって、滅亡の危機に瀕したローハンを舞台に、ウルフの幼なじみであるローハンの若き王女・ヘラが、国の未来を左右する戦いに身を投じる。

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わずか11ページしかない原作エピソードを映画化

主人公・ヘラ - (C) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

Q:手描きのアニメーションで『ロード・オブ・ザ・リング』を映像化することに対して、当初は「とても難しいのでは」と考えていたそうですが、本作を引き受けた決定打は何だったのでしょうか?

決定打は、自分で映画を撮ってみたいということでした。『ロード・オブ・ザ・リング』の映画を撮るチャンスなど、そう多くはないだろうと思ったからです。ただ、作画のアニメーションで作ってほしいというオーダーでしたので、2,000騎の馬が登場する合戦シーンなど、手描きだとどう考えても難しい。それだけのアニメーターを集められるかどうかなど心配事が多く、気軽にOKはできませんでした。

Q:初めて『ロード・オブ・ザ・リング』実写映画を観た時、監督自身はどのような感想を抱きましたか?

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ピーター・ジャクソン監督が『ロード・オブ・ザ・リング』を撮るまでは、トールキンの世界を実写映画化することは不可能と思われていた。ホビットやエルフがいる世界観を、説得力をもって描き出せるのか。ファンタジーはSF以上にハードルが高いと思うんです。そんな中で、『ロード・オブ・ザ・リング』を観た時、本当に中つ国があるとしたらこういうことなんだろうなと思うぐらいの衝撃を受けました。続編2作も公開初日に観に行くぐらいファンになりましたし、1作目は何度も映画館に足を運びました。

Q:原作でわずか11ページほどしかないヘルム王の物語をベースに、どのように物語を拡大していったのでしょうか?

 ヘルム・ハンマーハンドのエピソードは原作ファンや映画ファンの間でも、よく知られています。しかし、エピソードとしては短く、原作も客観的に書かれているので、どういう人間だったのかは、そこまで掘り下げられていません。だからこそ、映画にしてヘルム王が何を思って、なぜローハンが一度衰退してったのかを描く面白さがあります。

また、物語を通して、最後までこの顛末を客観的に見届ける登場人物が必要だろうということになり、末の子供が娘であったという小説の1行をベースに、オリジナルキャラクターのヘラを生み出しました。女性が王位を継ぐことがない世界ですし、ヘラはローハンの歌には歌われていませんが、「こんな人がいたんだよ」という語られないヒーローとしてすごく映画的だと思い、単純な王女の話にはならないように物語を膨らましていきました。

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黒澤映画を感じる瞬間「少なからずある」

「ローハンの楯の乙女」の運命を背負うヘラ - (C) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

Q:プロデューサーのフィリッパ・ボウエンは、主人公のヘラを「スーパーヒーローのようなウォーリアープリンセスにはしたくなかった」と語っています。監督が思うヘラの魅力、彼女を描くにあたって意識したことはありますか?

当時の中つ国における女性は、別の国に行き、その国と同盟を結ぶために政略結婚する立場だったと考えられます。その設定の中で、彼女のキャラクター造形を作っていきました。「ローハンの楯の乙女」の運命を背負う彼女は、剣を握ってはいけないと言われているけど、実はこっそり剣術を教わっていたんだろうとか、乗馬も父親譲りで子供の頃から上手かったなど、活発で自由に生きてた女性だと思うので、ヘラは意外と現代的な女性なのではないかと捉えていました。

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Q:制作統括の橋本トミサブロウさんは、本作が『ロード・オブ・ザ・リング』の物語でありながら、日本の大河ドラマのような展開になっているともお話されていました。

少なからず影響はあると思います。アメリカで行ったQ&Aでも「”クロサワ”(黒澤明)を感じる部分がありますが、彼の作品を参考にしたのですか?」と言われました。私のお気に入りの映画の1本が黒澤明監督の『七人の侍』なので、黒澤映画のような感じでもあるのかなと思います。『七人の侍』も籠城戦がありますし、黒澤監督は世界で最初に騎馬戦を撮ったわけですから、少なからず黒澤映画の雰囲気を感じる瞬間はあると思います。

Q:キャラクターの動きやカメラアングルなどで、実写映画を彷彿させる箇所がいくつもあります。これは監督が意図して狙ったものでしょうか? それとも偶然でしょうか?

両方あると思います。今回、WETAデジタルが『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』の設定画、デザイン画、 CGデータを貸してくださって、ホーンブルグの砦(角笛城)は当時の3Dモデルを使用しています。物語としては200年前なので、若干の変更は加えていますが、基本的に『二つの塔』を観ている人が「これは…」と反応する理由は、実写映画とデザインを共有しているからだと思います。

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カメラワークに関しては、私も気づいていなかったところがあります。完全に色がついてから観直した時に、実写映画にそっくりなシーンを見つけたり、「あの場所で撮ろうと思ったら、カメラはここしかない」と知らぬ間に影響を受けていたようなシーンがありました。自分でも観てニヤリとしたので、観ていただく方にもニヤリとできるかもしれません。

ピーター・ジャクソン監督からの“贈り物”

ローハンの民を導くヘルム王 - (C) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

Q:製作総指揮に名を連ねるピーター・ジャクソン監督は、今年10月のニューヨーク・コミコンで行われた本作のパネルディスカッションに、メッセージ映像を送っていました。本作に関して、ジャクソン監督と連絡を取り合ったり、実際にお話をされたことはありますか?

もちろんありました。ファイナルカット前の映像を見せた時に、ジャクソン監督から「私だったらこうする」というノートが届いたんです。その内容がすごく面白くて、改めて彼が素晴らしい映画監督であることを実感しました。それを反映させたり、直接会って話したりもしました。私たちは、それを「リクエスト」と呼んでいました。

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ジャクソン監督の提案を採用して、「これが僕の精一杯できることです」とファイナルカットをお見せした時、ジャクソン監督はセオデン王の刀と同じレプリカを用意してくれて、「リクエストに応えてくれてありがとう」とその刀をプレゼントしてくれました。彼とはそこまで時間と言葉を共有したわけではありませんが、映画監督として思うところを映像上でやり取りできたのは、すごく豊かな時間でした。

Q:『ロード・オブ・ザ・リング』と日本アニメの親和性について、『ローハンの戦い』の制作を経てどのように捉えていますか?

日本人の役者さんで『ロード・オブ・ザ・リング』を実写映画にすることは、すごく難しいと思います。私が「機動戦士ガンダム」を観ていた子供の頃、「アニメは日本人が作れる洋画なんだ」とよく言われていました。 金髪で西洋人っぽい名前のキャラクターが出てきても、アニメは違和感がありません。でも、日本の役者さんがどれだけ頑張っても、西洋人風の名前のキャラクターを金髪のカツラを被って演じるのは難しいこと。アニメはそれを超えられていました。

 そういう意味では、今『ロード・オブ・ザ・リング』を日本のアニメで映像化する理由はなんだろうなと、改めて疑問自答する部分もありました。西洋の題材を描けるのは実写ではなくアニメだと改めて思いましたし、リアリティーを感じられるファンタジーを映像化することは本当に難しい。違和感がないところが、アニメのいいところ。日本人がこういう題材を監督する時、アニメは最大の武器になると改めて思いました。

映画『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』は12月27日(金)全国公開

『LOTR』3部作から200年前の物語、「攻殻機動隊」神山健治が長編アニメ映画化!『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』日本版予告編 » 動画の詳細
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