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ヒット連発の塚原あゆ子監督、テレビドラマと映画の違い語る 『ファーストキス 1ST KISS』の新たな試みとは?

『ファーストキス 1ST KISS』メイキングより塚原あゆ子監督(中央)、松たか子(右)
『ファーストキス 1ST KISS』メイキングより塚原あゆ子監督(中央)、松たか子(右) - (C) 2025「1ST KISS」製作委員会

 映画『ラストマイル』、『グランメゾン・パリ』と監督作が立て続けのヒットとなり、今邦画界で最も注目される監督の一人である塚原あゆ子松たか子とアイドルグループ・SixTONES松村北斗の共演による映画『ファーストキス 1ST KISS』(公開中)では、ドラマ「カルテット」(2017)や映画『花束みたいな恋をした』(2021)、『怪物』(2023)などの人気脚本家・坂元裕二と初タッグを組んだ。会話劇に定評のある坂元脚本にどのように臨んだのか。塚原監督が撮影の裏側を語った。

松たか子&松村北斗、メイキングカット<5枚>

 本作は、結婚して十五年目に夫・駈(かける/松村)を亡くした硯(すずり)カンナが、タイムトラベルする術を手に入れたことから自分と出会う前の駈と再び恋に落ち、彼を事故死から救おうとする物語。映画公開が発表された際に坂元の脚本を「全ての人に深く刺さる、壮大で素晴らしい台本」と評していた塚原監督。これまでにも坂元はドラマ「最高の離婚」(2013)や映画『花束みたいな恋をした』などで恋愛や結婚の核心を突いた名ゼリフが注目を浴びてきたが、本作でも健在。「恋愛感情がなくなると結婚に正しさが持ち込まれる」「好きなところを発見し合うのが恋愛で、 嫌いなところを見つけ合うのが結婚」など耳の痛いセリフが登場するが、塚原監督が挙げたのは「寂しさの正体」。

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 「作品は夫婦のラブストーリーなんだけど、親とか兄弟とか昔仲良かった人などにも言えることで。あの時あんなに仲良かった、大好きだった、気が合ったのに、距離が離れた、ちょっとしたボタンのかけ違いといったさまざまな事情で今は一緒にいない人っていますよね。そうした存在に思いを馳せる話だと思うのですが、ふと彼らはどうしているかなって思った時にちょっと寂しい気持ちになる。そうしたノスタルジーに近いような、胸を突くような愛情を、寂しさの正体と呼ぶのだなという風に理解したので、その言葉はとても刺さりました」

8年前の仲睦まじかった頃の駈とカンナ

 そんな坂元作品に挑むにあたり、自身がテレビドラマからキャリアをスタートしていることもあり「いかに映画としての広がりを足していくのか」が課題となったという塚原監督。

 「私の感覚で言うと、お皿を洗っていても理解できる、画面を見ずに理解できるのがテレビドラマなんです。もともとはラジオから派生したもので、セリフ、音、曲で理解できるように作っていくものですが、映画は逆で画が先にあって音は後から生まれた文化ですよね。だから例えばシーンとした映画館で鑑賞した時に何がチャレンジできるかみたいなことを考えればいいのかなと思いながらやってみました。大きなスクリーンではセリフなしに画で語れることは多いはずですよね。あとは、個人的には映像作品に対して集中して観なくちゃいけないとは考えていなくて。流し見みたいなこともステキだと思うし、否定的ではないんですが、映画となるとそうはいかない。集中して観た時に音がなかったり、画だけの場面もあることで世界を感じるように作った方がいいのかなと思いました」

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 脚本と対峙するにあたっては坂元に限らず、「脚本に流れる機微を大切にしたい」という塚原監督。その意図をこう語る。

 「なるべく本打ち(※脚本の打ち合わせ)の時に話した内容を台本に載せたいんですね。ストーリーの中の各シーンの位置付け、脚本家が何を表現したかったのか、このセリフは何を言わんとしているのか、といったことです。その方が作品が豊かに出来上がることが多いので。例えば「溜め息をつく」と書かれていたからといって、ただ溜め息をついたからと言って表現できるわけではない。ため息をつかないことで生じることと、つくことで生じること、どちらがキャラクターの体を通して吐き出された時に合っているのかも含めて台本とすり合わせていきます」

タイムトラベルでミッションの“トライアンドエラー”を繰り返すカンナ

 坂元脚本で顕著なのが、笑いとシリアスの絶妙なバランス。本作では夫・駈が事故死するショッキングな場面から幕を開けながらも、妻・カンナがタイムトラベルのすべを手に入れ、夫の運命を変えるミッションに挑むようになってからはコミカルな場面が続く。そうした緩急を表すために普段は行わないアプローチもあった。

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 「緩急の部分は坂元さんも意識して書かれていると受け取ったので、それを見せるために音楽をはじめ、過剰なくらいガイダンスしたつもりです。カンナがタイムトラベルでミッションを成功させるためには夫を好きにさせなければいけないと、トライアンドエラーを繰り返すところ。あそこは、コミカルなシーンですよという見方のガイダンスとなるような曲を入れていますが、普通はやらないことです。ちょっと恥ずかしいというわけじゃないけど語りすぎることはしたくないので。だけど今回はどう見たらいいのか困惑する人もいるんじゃないかと思ったので、思い切ってやらせていただきました」

 俳優への演出にあたっては、事前にすり合わせなどは今回はあまりなかった。

 「こちらからあれこれ言ってしまうと決めてしまうことになるので。お芝居をする際に戸惑うかもしれないと危惧するような時は、こんな風にやろうと思っているけれどどう思いますか? と聞きに行くこともありますが、そうではない限り、現場を見てもらって吐き出してもらった方がセリフの感度がいいんじゃないかなと思うので。あんまりこすらないように、喋らないようにしていました」

 『わたしの幸せな結婚』(2023)は興行収入28億、『ラストマイル』は59億、『グランメゾン・パリ』は35億円を突破。加えて昨年は10月期のTBS日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」と連ドラの制作もあり多忙を極めた塚原監督。そのバイタリティーはどこからくるのか。「プレッシャーは?」と率直に問うと、こんな答えが返ってきた。

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 「作品が面白かったって言われれば“やった!”と思うし、賞をいただくと“やる気が出るね”とスタッフと喜びますが、だから“次も外せない”という思考にはならないです。“なんでこの人は気が狂ったように仕事しているんだろう”と思われているかもしれませんが(笑)、撮った順番でいうと一昨昨年が『ラストマイル』、一昨年が『グランメゾン・パリ』、昨年が『ファーストキス 1ST KISS』という感じで、たまたま公開や放送時期が重なっただけで実際はそこまで過密なスケジュールではないんですよ」

 インタビュー中、一度も「苦労した」「大変だった」と口にしなかった塚原監督。「モチベーションになっているのは、例えば素晴らしい台本を読んで触発されて自分でも挑戦できそうなことが見つかったとき」とさばさば語る姿からも、心底モノづくりを楽しんでいることが伺えた。(取材・文:編集部 石井百合子)

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