「御上先生」吉岡里帆が貫く“抑え込む美学” 是枝文香役で新発見

松坂桃李主演の日曜劇場「御上先生」(TBS系・毎週日曜よる9時~)が大きな反響を呼んでいる。エリート文科省官僚・御上孝(松坂)が、私立高校の教師に赴任し、令和の18歳とともに日本にはびこる権力に立ち向かうという大逆転教育再生ストーリーだ。生徒役の若手俳優たちの熱演もあり、涙と感動と同時に提起される社会問題に、ネット上でもさまざまな意見が交わされている。同作で、御上と生徒たちに大きく影響を受けるクラスの副担任・是枝文香を演じている吉岡里帆がインタビューに応じ、役との向き合い方、撮影を通じて感じたことを語った。
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是枝文香は「抱え込んでいく役」

通常は放送されながら台本が書かれることの多い連続ドラマだが、今作の場合、早い段階で脚本家・詩森ろばの手による全話の台本が揃っていたという。吉岡は「詩森さんが脚本で参加された映画『新聞記者』に大変心を動かされ、今回の『御上先生』でも、何がやりたいのか明確な内容にすごく感動しました」と自身の心境を吐露し、「現場には、この台本に共感して、届けなきゃ、届けたいって、強い思いを持って参加している方ばかりな印象です」と撮影現場の熱量の高さを明かした。
是枝は、熱心で生徒の信頼は厚い国語教師だが、御上が来たこともあって3年2組の担任を下ろされ、副担任になった。当初は、御上の強引にも見える言動に反発を覚えるものの、徐々に影響を受けていく。「是枝はどんどん抱え込んでいく役です。自分の弱さを見せるような場面がほとんどないですし、卑下したり悲しんだりする気持ちすら抑え込む。常に生徒の本質を見ようとして、自分に何ができるかを考えている人です」と真面目な是枝の人物像を語る。
演技面では、「御上先生や生徒の話を聞くたびに反省して、少しずつ成長していくキャラクターなので、周りの皆さんのお芝居をしっかりと受けとめるということと、自分のキャラクターを前に出しすぎないことを気を付けています」と吉岡。「各回でメインになる生徒がいるので、その子がより引き立つようにとか、御上先生の素晴らしさが際立つようにする役割を担うと思っています」と自身が意識しているポイントを挙げた。
自分が爆発することはプラスにならない

自分のことは一旦置いておくというキャラクターを演じるのは、かなりもどかしい体験なのではないかと問うと、「抑え込んだ毎日を過ごしているので、辛い時はもあります」と笑いながら応えつつ、「でも、自分が爆発することは作品にとって何もプラスにならないので、“抑え込む美学”を信じています」と前向きだ。「生徒のためになりたいのになれないと、自分のできなさを痛感する役で、わたし自身が弱ってしまったり、何もできないと落ち込んだりもしますが、その気持ちがきっと、役と向き合えている証拠なんだと思っています」と胸中を明かした。
「自分のふがいなさを感じる役はこれまでも演じてきていますが、是枝はやっぱり特別で、それが24時間続くという感じなんです。いままではもう少し早いスピードで成長できたんですが、簡単には成長できない。でも、そこがミソだなと思っています」と是枝役の面白さも明かす。「これまで植え付けられた教育や、浴びてきた言葉によって形成されている人間は、そう簡単には変われないんだというところに、すごくリアリティーを感じます。それはきっと、視聴者のみなさんも感じてくださっていることだと思うんです。だから、そこのリアルを体現したいと思っています」
「是枝みたいに我慢している人は視聴者の中にもたくさんいらっしゃると思います。そういう方とリンクして、つながりたい。結果は出なくても自分なりに努力していること、裏ではいろいろ考えていることは、いつかちゃんと伝わる可能性があるんだと、思ってもらいたいです」
謙虚さと自分を卑下することは違う

是枝は、御上の影響でキラキラと出来上がっていく生徒たちを見て「自分も変わらなきゃ」という感情になっていくが、吉岡自身も「変えたい」と思った部分があるという。「謙虚さと自分を卑下することは違うんだという意識です。この現場にいると、自分の持ち味を最大限に出して、そこに誇りや自信を持つことがすごく求められている気がして。是枝は自分を卑下する気持ちに陥りがちなキャラクターではあるのですが、そうはならずに、凛とした謙虚さの中に新しい要素を取り込んでいく強さが必要なんです。『自分なんか』と逃げずに果敢に挑戦して、変わる努力をするということを、意識しています」と現在の心境を明かした。
さらに、「受ける芝居が多いのですが、ハッとする瞬間をすごく大事にしています。『そういう考えもあったのか』『思いもしなかった』と気づく瞬間ですね」と真摯に語る。「御上先生はもちろんですが、生徒によって是枝が変わっていく感覚を、逃さないようにしています。ですから、台詞はそんなに多くないんですが、皆さんが送ってくれるエネルギーを取りこぼさないよう、常にものすごく集中しています」という。「頭と胃がキリキリするくらい集中して過ごしているので、こういう作品の取り組み方があるんだ! と新しい発見もしました」
2日放送の第7話では、吉柳咲良ふんする椎葉春乃が抱えるものが描かれる。「椎葉さんの問題もまた、今の社会問題に直結しています。それにどう対峙し、どう解決していくのか。吉柳さんは心の奥に刺さるような素敵なお芝居をされているので、ぜひ注目してください。そして、是枝はまたヘマをします(笑)。本当に成長が遅いのですけど、それも含めて、考えさせられるシーンが出てくるので、観てくださる方々も一緒に考えてくださったらうれしいです」とアピールした。(取材・文:早川あゆみ)