劇場版『ウルトラマンアーク』従来のパターンにメス 辻本監督が覆した構成&全投入した“むーちゃん”愛【ネタバレあり】

特撮ドラマ「ウルトラマンアーク」テレビシリーズ最終回の興奮が冷めやらぬ中、劇場版『ウルトラマンアーク THE MOVIE 超次元大決戦!光と闇のアーク』が現在公開中だ。見事ゴールまで辿り着いたテレビシリーズの余韻を損なうことなく、劇場版ならではの見心地感を追求した本作。メガホンを取った辻本貴則監督が、従来とは異なる成り立ちと、作品の見どころについて力を込めて語った。(以下、劇場版のネタバレを含みます)
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これまでのニュージェネ映画とは異なるフォーマット

ニュージェネレーションシリーズでは毎年恒例となっている劇場版(※『ウルトラマンZ』を除く)。従来はウルトラマンゼット&ウルトラマントリガー(映画『ウルトラマントリガー エピソードZ』)といった具合に、前作と最新のウルトラヒーローの共闘が大きな目玉となっていたが、近年は『ウルトラマンデッカー最終章 旅立ちの彼方へ…』『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』と前作に頼らないフォーマットが模索されており、本作では、さらにこれも定番となっていた「テレビシリーズの後日談」という映画の立ち位置にもメスが入れられることとなった。
これに関して、辻本監督は「テレビシリーズ全25話をかけて最終回まで描いておきながら、さらなる敵が襲来して地球が再び未曾有の危機に見舞われる展開は、正直しんどいと思いました」と忌憚(きたん)のない意見を述べる。また、劇場版はテレビシリーズ最終2話(第24&25話)と同時に撮影されるスケジュールが組まれており、前作『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』の田口清隆監督も、シネマトゥデイのインタビューで「どうやっても僕らの頭は最終回に持っていかれるんですよね。(略)そんな中、劇場映画は、それよりもさらにひとつ高い山を作らなくちゃいけないわけです」とその苦労を語っていた。
『ウルトラマンアーク THE MOVIE』では、すでに完結したテレビシリーズを重んじた結果、劇場版で起こる出来事を第21話と第22話の間に置くこととなった。しかしながら、この立ち位置はスムーズに決まったわけではなかった。当初は前日譚にする案もあったというが、「前日譚だとアークアーマーを描くことができないし、わざわざタイムトラベルさせるのもややこしい。紆余曲折あって“どこか後半の話数の間でやるしかないね”という話になったとき、越知靖監督が撮った第22話(『白い仮面の男』)がとても奇妙な始まり方をしていたんですよ。“この前に何があったの?”みたいな感じで描かれている。そこに着目した(メインライター&シリーズ構成の)継田淳さんが“ここに持ってきたらいいんじゃない?”と提案して決まりました」
第22話「白い仮面の男」は、「楽園」を作ろうとする白い仮面の男が、人類が抱える最大の憂い「怪獣」についての記憶を消し去ろうとするエピソード。その冒頭、ウルトラマンアークに変身する主人公の飛世ユウマ(演:戸塚有輝)がサポートロボのユピーと共に靴を放って天気占いに興じる場面があるが、セピア色の映像から、この時点ですでに白い仮面の男の策略に陥っていることが示唆されており、ここをユウマがナレーションで振り返る形で、映画とテレビを繋ぐ役割を果たすこととなった。
ディグル星人サスカルがユウマに課す「3つの試練」

一方、劇場版として1本の軸を持ちながらも、3つのエピソードから成るオムニバス形式となったのは、岡本有将プロデューサーの発案であった。それを受けた辻本監督は「やはり単に強敵が現れて最後に倒すという従来のパターンをアークでは避けたかったので、この案に乗ることにしました」と方向性が固まった。また、劇場版の脚本執筆の段階で、辻本監督はテレビシリーズのパイロット(第1~3話)の撮影に入っており、「こちらから投げたのは“3つのエピソードが最終的にひとつにつながる”という最低限のお題だけで、プロットはほぼ継田さんのアイデアです」と振り返る。
劇場版は竹中直人演じる宇宙賢者ディグル星人サスカルが、ユウマに課す「3つの試練」から成り立ち、そのバラエティーに富んだ内容が見どころとなっており、特に第1と第2の試練は作り手の遊び心を感じさせる。
まず、第1の試練では、犬怪獣のムーゴン(※正式名称は犬狼怪獣ドグルフ)が登場する。辻本監督と言えば大の愛犬家として知られており、自身が担当したエピソードでは、特撮セットの看板やテレビで流れる映像などで、しばしば愛犬のむーちゃんが登場しており、辻本監督回となると、ファンの間では「むーちゃん探し」が恒例行事となっている。ちなみに本作「アーク」では、怪獣防災科学調査所SKIPの伴ヒロシ所長(演:西興一朗)が飼っていた犬の写真としてSKIPのオフィスに飾られている。

辻本監督は、ウルトラマンシリーズ初参加となる「ウルトラマンX」の第5&6話(「星の記憶を持つ男」&「星を越えた誓い」)に登場するルディアンのデザインにも自らのオーダーで犬要素を落とし込んでおり、すでに愛犬家ぶりの片鱗がうかがえたが、本作に登場するムーゴンは、一見して犬がモチーフとわかるデザインである。さらに名前もむーちゃんならぬムーゴンと、まさに辻本監督のむーちゃん愛が炸裂しており、「僕の想いを全投入した一体です」と胸を張る。デザインもまた監督自ら手がけた。
「多少呆れられつつも“デザインもやっちゃっていいですか?”と(笑)。ただ、名前に関しては、僕が撮った『ウルトラマンX』の第18話でムーちゃん(※正式名称は宇宙化猫ムー)を出しちゃったんですよ。ただ『むー』は絶対に外せないなと思っていたところ、怪獣の名前で “~ゴン”ってよくあるじゃないですか。それでムーゴンの名前が閃きました。もう、この年になると、呆れられようが何しようが、自分がやりたいことを照れずにやれるようになるんですよ!(笑)」
劇中、ウルトラマンアークがムーゴンを撫でると、元気なく垂れていたムーゴンの尻尾がクルッと巻き尻尾に戻る演出も、犬を飼ったことがある人間からすると、まさに「わかってる」演出と言える。「ウルトラマンと怪獣の心の交流を描く際に、怪獣の方は何かしら動物的な反応を見せることで、その感情を表現したかった。今回の怪獣は犬がモチーフ。犬の感情は尻尾の状態を見れば一目瞭然なんですよ(笑)」
第2の試練は“とあるSF映画”のオマージュ?

続く「第2の試練」はSKIPの夏目リン(演:水谷果穂)をメインにしたエピソード。SKIPのメンバーのいずれかが宇宙寄生植物ガチュラに憑依され、各々が疑心暗鬼となる中、ある方法でその正体を突き止めようとするが……。この展開、映画ファンが想起するのは、ジョン・カーペンター監督の名作SF『遊星からの物体X』の有名なシーン。
「やはりどう見てもそうですよね(笑)。ただ、僕のほうから“『遊星からの物体X』をやりましょう”と言ったわけではなく、継田さんのプロットに書かれてあって“あ……これは絶対あれですよね”みたいなことで(笑)。元ネタはともかく、ああいうやりとりをSKIPのメンバーで見たいというのがプロットから伝わってきたし、僕としても照れずに思い切って撮りました」
もちろん、『ウルトラマンアーク』としての世界観にきちんと落とし込まれており、「それこそ最初は椅子に縛り付けようかという案もあったけど、それをやるとまんまパロディーになってしまうので、さすがにやめました(笑)。何より相手を思いやるのがSKIPですからね」と辻本監督。
分所でSKIPの面々が見守る中、等身大のウルトラマンアークがガチュラとバトル繰り広げる場面もなかなか新鮮だ。「等身大のアークをもっと観たいという欲求もあったし、何よりシチュエーションが面白いじゃないですか。ああいうのはテレビと異なる今回のような映画だからこそできるファンサービスみたいな感覚がありました」
テレビシリーズでは描かれなかったシュウの過去

そして「第3の試練」では、映画ならではのスケールの大きな展開に加え、SKIPに常駐しているが、肩書は防衛隊所属となる石堂シュウ(演:金田昇)に焦点が当てられている。シュウは同僚を宇宙人に殺害された過去があるが、テレビシリーズではあくまで背景に留められていた。「これに関してはテレビシリーズで回収し切れなかったので、やっぱり継田さんとしてもケリを付けたいと思ったのでしょう」と辻本監督はその想いを受け取り、映像化が実現した。
この「第3の試練」で登場するのがギルアークである。ニュージェネでもウルトラマントレギア、イーヴィルトリガーなどいわゆる悪のウルトラマンが登場してきたが、今回は変身前のヴィランが存在するわけではなく、シュウが変身者となる展開に驚いたファンも多いはず。
「登場させることが決まった段階で、変身者をどうするか? となったんですけど、やはりユウマのバディであるシュウが変身したら一番盛り上がるだろうと思いました。また、シュウを変身させることが決まった段階で同僚の木内の話など、いろいろつながったんでしょうね。非常によく脚本をまとめてくれたと思っています」とメインライターとしてコンビを組んだ継田の手腕を高く評価する。

また、シュウ役の金田昇は当初、ユウマ役のオーディションを受けていたといい「メタ的な話になるんだけど、ウルトラマンになりたかった男に最後に夢を叶えさせたいと思ったんですよね。ひとりの役者の人生として変身して最後には共闘を果たすと。今風に言うとエモいじゃないですか」とその狙いを明かした。
クライマックスでは、浮遊した大地が決戦場となるといったケレン味溢れる特撮シーンや、ウルトラマンアークとギルアークが対立を経て共闘を果たす展開も胸が高まるものがある。そして最後に繰り出す必殺技は、第二期ウルトラシリーズのファンを公言する辻本監督の拘りを見て取ることができ、近年では非常に攻めた描写と言えるだろう。「毎回、怪獣のやられ方は丁寧に描くようにしてますが、ニュージェネの映画という舞台で攻めた描写が実現できたのも良かったと思っています」と自信をのぞかせる。
最後に改めて劇場版の見どころを尋ねてみると、辻本監督は「『ウルトラマンアーク』は残念ながら劇場版をもって、全ての映像作品が終わってしまいます。それは毎年の流れのことではあるんですけど、最後だからと言って、湿っぽい感じにはしたくなかった。 “もう一度、ウルトラマンアークやSKIPの活躍が見られるんだ!”と、ファンの期待にしっかり応えられる楽しい作品に仕上がったと自負しています」と締め括った。(取材・文:トヨタトモヒサ)
『ウルトラマンアーク THE MOVIE 超次元大決戦!光と闇のアーク』は全国公開中