「べらぼう」タイトルバックに渦、見返り柳、そして横浜流星の笑顔 演出・深川貴志が制作の裏側明かす

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で演出を務める深川貴志が、オープニングのタイトルバック制作の裏側を語った。タイトルバックは、プロデューサーを増田悠希が、監督をTAKCOMが務め、音楽をジョン・グラムが担当している。
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、“江戸のメディア王”として時代の寵児になった、蔦屋重三郎の生涯を描く大河ドラマ第64作。連続テレビ小説「ごちそうさん」(2013)や大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017)などの森下佳子が脚本を手掛け、NHKドラマ初出演の横浜が主人公・蔦屋重三郎を演じる。語りを、蔦重らを見守る吉原の九郎助稲荷(くろすけいなり)として、綾瀬はるかが担当する。
オープニングでは、登場人物の写真や浮世絵を使い、コラージュの技法を用いて蔦重の生み出す「渦」を表現したタイトルバックを起用。深川は「朝ドラも大河もタイトルバックがありますが、番組によって制作の方法や工程はまちまち。決まった作り方、ルールがあるわけではありません。NHKのディレクターが作る場合もあれば、どなたか(外部のクリエイター)にお願いするケースもあります。数社の制作会社さんに企画をお話しして選ばせていただいたり、直接クリエイターに依頼したり作り方も様々です」と前提を話したうえで、「今回はまず増田さんにプロデューサーをお願いしました。僕が直接クリエイターと話すのではなく、プロデューサーを通して話を進めていきました」と増田の起用の経緯を振り返る。
深川は、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2021~2022)の演出を務めた際も、100年にわたる親子3代の歩みを視覚化するタイトルバックの制作に携わった。「『カムカムエヴリバディ』のタイトルバックを担当した時は、クリエイターの方に直接、依頼したんです。今回はその時と同じ増田さんにプロデューサーをお願いしました。『カムカムエヴリバディ』の時の仕事が素晴らしかったからです。もう一度一緒にやってみたい気持ちがありました」と増田への信頼をにじませる。
クリエイターの選定も増田に任せたといい、深川は「蔦重は江戸時代の名プロデュサーなので『べらぼう』らしくというか。『テーマとやりたいこと』をプロデューサーと共有して、プロデューサーが今まで、自分が付き合っていた人、付き合っていない人も含めて、どんな人に託すかについては時間をかけました」と話す。
最終的にコラージュという形式をとった意図については「神田(神保町)で本を探していると、江戸時代に発行されたものがまだ残っていることの発見や驚きがありますが、時代劇となるとその存在を遠く感じられてしまう。あの時代と今が地続きであるということを、なんとかタイトルバックで感じてもらえればというのがコラージュを使うことを決めた理由です」と明かす。
キーワードになったのが「渦」。深川は「番組のセットや出演者を写真に収めることで、きっと物語の世界観を地続きで感じられると思いました。コラージュの中でも全体に『渦』を感じられるものにしたのは、蔦重が初回で『鼻を利かせ、風を読み』と描かれたことに関係しています。本や浮世絵で江戸時代に大きな『渦』を起こし、人々を『うずうずさせた』ということを表現したいって。そんな仕上がりにしたいねということをプロデューサーと話しました」と語る。
増田がディレクターとして薦めたのは、PerfumeのMVなどで知られる映像ディレクターのTAKCOM。土屋貴史名義で映画『花と雨』(2019※笠松将主演)、ドラマ「RoOT / ルート」(2024※河合優実×坂東龍汰主演)の監督を務めている。そうしてスタッフが決まった後は、タイトルバックの制作作業は増田とTAKCOMの手に委ねられたという。
「魑魅魍魎から芽が出て富士山へ……という部分は、長いストーリーをこのタイトルバックで感じられたらいいなという思いから」とディテールに触れる深川。「ドラマの中で北斎がどのように出るかまだわからないけど有名な浮世絵からどんな番組かが、世界の人にわかってもらえる。TAKCOMさんが取材をして、めちゃくちゃ勉強して作ってくれました。最後のカットには、「見返り柳」が出ています。吉原で育った蔦重の隣で、共に育っていることを感じます。コラージュという手法は、吉原のセットやたくさんの人を撮ったので作業は大変でした。増田さんやTAKCOMさんは毎日のようにセットに来られて、コラージュを仕上げていきました。みなさんに楽しんでいただければ幸いです!」
音楽は、大河ドラマ「麒麟がくる」(2020~2021)などで知られるアメリカ人の作曲家ジョン・グラム。「ジョンさんの曲もデモを早いうちにもらえたので、構想や方向性をどんどん固めていくことができました。蔦重の出方や、出る時間の長さのさじ加減も最後まで調整しました。映像の最初を何から始めるかも選択が難しかったと思います。視聴者の方にどう楽しんでもらうかを、TAKCOMさんは悩んだと思います。江戸時代の人にも楽しんでもらえるようになっていたらいいなという思いもありました」
映像内に横浜の笑顔を挿入したのはTAKCOMのアイデアだったといい、深川は「僕も撮影現場にはいましたけど、あの笑顔は間違いなくTAKCOMさんが引き出した表情です。TAKCOMさんが横浜さんと話しながら撮影し、狙った横浜さんの表情。僕がやっていたらここまでの表情は引き出せなかったと思います。どうやって引き出したんだろう(笑)」と笑顔で話す。
見る者を江戸時代に誘う躍動感あふれるタイトルバックに仕上がったが、この先の変更の可能性については「今出ている蔦重は若いので、これで最後まで行っていいものか……とは思っています」と答えた。(取材・文:名鹿祥史)