樋口幸平、スーパー戦隊時代からの進化 『ネムルバカ』で見せる5年間の集大成

高校卒業後プロのサッカー選手になるべく上京するも怪我で断念。その後スカウトで芸能界デビューを果たした俳優・樋口幸平(24)。スーパー戦隊シリーズ第46作「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」(2022~2023)の主演でブレイク後、数多くの映画・ドラマに出演してきた。そんな樋口が新作映画『ネムルバカ』(3月20日全国公開)で挑んだのは、独特な存在感を放つ大学生役。デビューから5年、俳優としての“武器”を見つけつつあるという樋口が、デビューから本作までの5年間を振り返りながら、役者としての進化、デビュー10周年へと向かう次の5年間への意気込みを語った。
『ネムルバカ』は、漫画家・石黒正数の同名タイトルを、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズの阪元裕吾監督が実写映画化した青春ドラマ。女子寮の同じ部屋に住む大学生の後輩・入巣柚実(久保史緒里)と先輩・鯨井ルカ(平祐奈)の緩くもどこか心地よい日常を切り取りながら、2人に訪れる変化を活写する。
阪元監督特有の“間”の心地よさ

樋口が演じた大学生・伊藤は、ルカに想いを寄せる田口(綱啓永)の友人という役どころだ。「伊藤は個性的なセリフが多く、現実世界にいたら仲良くなりたくないと思うくらい、変わり者のキャラクターです(笑)」と樋口は説明する。伊藤はセリフ回しも独特だが、「独特だからこそ、人々に刺さる、芯をつくセリフになっています。台本を読んでいて、この作品における大事なシーンで、大事なセリフを伝えているキャラクターだと思いました」とキーパーソンとしての役割を担っている。
阪元監督は、若者たちの成長をリアルな会話と独特なテンポで描くことに優れている。『ベイビーわるきゅーれ』では女子高生殺し屋コンビの日常を、『ネムルバカ』ではモラトリアム真っ只中の男女の大学生活を長回しで映し出す。「あまりカットを割らないのでとても観やすくて、あの“間”が心地いいんです。カットが変わった時に起こる笑い、その時間がすごく良くて、『ネムルバカ』で阪元監督とご一緒できたことは僕の俳優人生において財産になったと思います」と樋口もすっかり“阪元ワールド”の虜だ。
撮影現場では、阪元監督の“笑い声”が演技の助けになったこともあった。「監督は僕たちが芝居をしている時、本番中でも『声、入ってるよね?』と思うくらい笑うんです。役者としては、監督が笑ってくれたら『これで合ってるんだ』と思えるので、撮影後半は監督を笑わせたくてアドリブを入れてみたり、『監督が笑ってくれるなら、観客にも絶対届くだろう』という気持ちにもなれました。段取りの時も、『まずは好きにやっていいよ』と自由に演じさせてくれたり、『こういうのいける?』と僕たちに提案してくださるので、監督と一緒に映画を作っている感覚になれました」
いつか一緒に…“親友”と念願の映画共演

田口役の綱とは、19歳の頃に知り合い、以降二人はプライベートでも親交を深めてきた。綱はスーパー戦隊シリーズ第43作「騎士竜戦隊リュウソウジャー」(2019~2020)でレギュラーキャストを務めるなど、樋口とも共通点が多い。
「番組で共演していた当時、『いつか一緒にドラマや映画で共演できたらいいね』と夢物語のように話していたんです。彼は当時スーパー戦隊を経験していたので、俳優という道でやっていく覚悟ができていたと思うのですが、僕は右も左もわからないフワッとした状態で……。そんな二人が、こうしてメインキャストとして共演できたのは、この作品が初めてなんです」と樋口は感慨深げに語る。
樋口は「10代の頃から作り上げてきた関係性が、映像にも出ていると思います」と出演発表の際、綱との関係性についてコメントしていた。二人にしか生み出せない空気感は、劇中の何気ないシーンに表れているという。「田口と伊藤がタバコを吸うシーンは、『ライターでつけ合いっこしない?』と二人で相談したり、作品が決まってからずっと考えていたことをそのまま出しています。ツッコミの速さや間の取り方は、普段僕たちが会話する時と一緒なんです」
ここからの5年間が人生の岐路になる

芸能界デビューから5年。樋口は「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」「体感予報」「離婚弁護士 スパイダー ~偽りと裏切り編~」などのドラマや、映画『追想ジャーニー リエナクト』に出演し、役者としてのキャリアを積み上げてきた。作品を重ねる度に「自分自身よりも、役として見てほしい」という意識が芽生えてきたといい、『ネムルバカ』では「伊藤というキャラクターとして、作品のいいスパイスになりたい」という思いで役を全うした。
樋口自身も「かけがえのない時間」と今も大切にしている「ドンブラザーズ」では、1年かけて役者としての土台を構築した。しかし、当時の自分からさらに成長するためには、その土台を崩して、進化し続けることが重要だったと振り返る。
「もちろん、スーパー戦隊のお芝居で土台にあったものは大切にしています。しかし、そこから派生するのではなく、作品ごとにその土台を変えていかないといけないと思っています。一つの土台にプラスしていくというよりは、(新しい土台を作る)素材集めをしている感じ。『ドンブラザーズ』も大きな素材であり、作品に応じて、今自分が持っている素材から引き出していく感覚に近いと思います」
役者として成長していく上で、共に切磋琢磨する仲間の存在も大きい。『ネムルバカ』には、親友の綱はもちろん、「ドンブラザーズ」で1年間共演した志田こはくもキャストに名を連ねている。「台本を見た時、『え、志田さんだ!』と嬉しさがありました。一緒のシーンではなかったのですが、数年経って、成長した状態で『ネムルバカ』で共演できたのは、お互い頑張っている証拠だと思います。当時17歳だった志田さんも20歳になり、すっかり成長した女優さんになったなって勝手に思ったりしてます。仲間と切磋琢磨することは好きなので、これからもいろいろな人に巡り会い、現場で成長した姿を見せ合えればいいなと思います」
デビュー10周年に向けて、樋口は「ここからの5年間が人生の岐路になると思っています」と気を引き締める。「これから先は、自分が今までやってきたことをぶつける5年間になると思っています。(デビューから)5年間で培ってきたものを、これから先の5年間でぶつけ続けて、みなさんにずっと応援していただける俳優になれるよう成長し続けていきたいです」
また、俳優として海外での活動にも意欲的だ。「『体感予報』はアジア圏での反響も大きく、実際にイベントを実施したり、アジア圏での雑誌の取材もたくさんもやらせていただきました。今でもたくさんの方々から応援をいただいているので、本気で海外も視野に入れて頑張りたいと思っています。自分が目指したい道を進みながら、その中で海外の皆さんとも触れ合える瞬間をたくさん作っていきたいです」。今後の展望を生き生きと語る樋口の姿からは、さらなる高みを目指すパッションと覚悟が感じられた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)