「御上先生」堀田真由の心に響いた神崎の言葉 「わからなさ」と向き合った殺人犯役

松坂桃李が主演を務める日曜劇場「御上先生」(TBS系・毎週日曜よる9時~)。文部科学省のエリート官僚・御上孝が、教師として高校に赴任し、令和の学生たちとともに日本にはびこる権力に立ち向かう大逆転教育再生ストーリーで、回を重ねるごとに、俳優陣の熱演と二転三転する深い物語性が大きな反響を呼んでいる。中でも、第1話の冒頭で描かれた試験会場での刺殺事件と、その後の展開はショッキングだった。事件の犯人・真山弓弦(まやま・ゆづる)を演じている堀田真由がインタビューに応じ、心身ともに厳しい役に挑む心構えや撮影現場の様子、作品への熱い思いなどを語った。(以下、第8話までの内容を含みます)
【画像・ネタバレあり】プランオカミ2、発動!「御上先生」第8話
“自分はわかっている”と思い込む方が怖い

2015年にドラマデビューをした堀田は、同年放送のNHK連続テレビ小説「わろてんか」で主人公の妹役を務め、本作主演の松坂とも共演している。さらに、2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、北条義時の二番目の妻を演じて注目を浴びた。その後、NHKドラマ「大奥 三代将軍家光・万里小路有功編」(2023)のヒロイン役などでその実力を示した彼女は、2024年放送の日曜劇場「アンチヒーロー」で本作のプロデューサー・飯田和孝と出会う。同作は自身にとって、とても大切な存在であるといい「また新しい挑戦を一緒にやらせていただけることは、とてもうれしかったです」とほほ笑む。「今回、飯田さんはもちろん、スタッフのみなさんもほぼ一緒で、お1人お1人に対して信頼感があったので、自分の考えを伝えやすい環境でしたし、わからないことは素直にお聞きできるリラックスした現場でした」
複雑な環境に置かれた弓弦は、思いつめたあげくに、国家公務員採用総合職試験の会場で見知らぬ他人を刺殺した。第2話以降の登場シーンは拘置所の接見室が主で、共演する相手も極端に少なく、難しい芝居が要求された。「どんなキャラクターでも自分でない他者なので演じるのは難しいですが、今回は人を殺めてしまう、到底想像ができないところにある人でした。接見室は無機質な空間で、心を見透かされているような感覚です。自分1人で考えるだけではなく、みんなで悩みながら語り合いながら、弓弦という人物を作っていきました」
堀田は、弓弦を完全に理解して演じたわけではないという。「理解できるけど共感できない役や、理解も共感もできない役など、役にはいろいろありますが、今回に関しては、どこか理解はできるけど本当は理解してはいけないし、でも受け入れないと演じられないという、自分と役の気持ちを合わせることが難しい役でした。自分にはない感覚ばかりで、ずっとわからなさを抱えたまま現場にいました」と正直に吐露する。そのうえで、「わからないことは悪いことではない」ことにも気づいたという。
「これまで、もしかしたら“わかったつもり”になって演じていたものもあったかもしれないと思いました。芝居に限らず、生きていく中でも、“自分はわかっている”と思い込む方が怖いなと。先入観もそうですよね」とフードを目深にかぶっていた犯人が当初男性だと思われていたことにも言及した。「今作はそういう、違う角度から物事を考えられた作品です。これからこのお仕事を続けていくうえで、すごく大事な時間だったと思います」
「アンチヒーロー」撮影後も続く共演者との交流

それは、「アンチヒーロー」で得たものとはまた別の感覚だったようだ。「『アンチヒーロー』は5か月くらい撮影していたのもあって、自分でも気づかないうちに役と同化している感覚でした。それまでは、現場でギアを入れる切り替えみたいなものがあったのですが、役にすんなり入っている自分がいて、不思議だなと思っていました」という。確かに、弓弦とはまったく違ったアプローチだ。「長谷川博己さんや北村匠海さんといった共演者のみなさんとは撮影後も交流させていただいています。これから日本は世界と戦うためにどういう作品を作っていかなきゃいけないか……なんて深い話をできる方々と出会えたような気がしています」
御上が常に生徒たちに言う「考えて」という言葉は、作品のテーマの一つでもある。それは、御上の生徒の一人で、弓弦の事件に責任を感じて彼女にコンタクトをし続けた神崎拓斗(奥平大兼)を通して、弓弦にも届いた。「第5話の3人のシーンで、御上先生と神崎くんが『本当に悪いヤツはここにはいない』、『自分の責任だと思わないと進めない』と言ってくれて。その台詞に、わたし自身がハッとしました。詩森(ろば・脚本)先生の描かれる世界は本当に素敵で、重みを感じるような好きな台詞ばかりですが、わたしが弓弦としてお2人から聞いたその言葉が、特にすごく響きました」
自身を振り返りながら、堀田は今作での「気づき」を語る。「わたしもそうですが、自分ではなくて、世の中の責任としていることがすごく多いなって思います。それは会社とか学校とかの組織でもそうで、自分自身が考えて行動するだけで、もしかしたら隣の人の弱さに気づけるのかもしれない。自分自身がどうしていきたいのか、とにかく考えなきゃいけないんだなって思いました」(取材・文:早川あゆみ)