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なぜ人はスパイ映画に惹かれる?『アマチュア』監督が目指した新時代スパイ像【来日インタビュー】

来日したジェームズ・ホーズ監督
来日したジェームズ・ホーズ監督

 オスカー俳優ラミ・マレックが主演&製作を務めたアクションサスペンス映画『アマチュア』。CIA屈指のIQを持つ分析官が、愛する妻の命を奪ったテロ組織に対して、知能をフル回転して孤独な復讐に挑む。殺しの経験がない“アマチュアスパイ”を描いたのは、ドラマ「窓際のスパイ」を手がけたジェームズ・ホーズ監督だ。ラミやヒロインのレイチェル・ブロズナハンとプロモーションのために来日したホーズ監督がインタビューに応じ、スパイ映画に対する思い、ロンドンの駅や“空中プール”を使用した大規模ロケの裏側を語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)

【画像】『ボヘラプ』以来7年ぶり!来日したラミ・マレック

チャーリーの妻サラには裏設定が存在した!

(C)2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

Q:ラミ・マレックを主演に起用するというのは、監督の選択だったのですか?

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ラミは私より先に、プロジェクトに関わっていました。彼はこの企画をしばらく育てていたんです。他のキャストは、全てスタジオと私の選択でした。

Q:『アマチュア』は監督にとって、『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』(2023)に続く2本目の長編映画です。このプロジェクトに惹かれた理由は何だったのでしょうか?

私はスパイ映画が大好きで育ったんです。『アマチュア』は自分でも観に行きたくなるタイプの映画です。最近は、このジャンルの作品があまり作られていません。オリジナリティーのある物語を見つけることは難しいですし、近年のスパイ作品はカーチェイスやスピードボートばかり。今作は、アクションとキャラクターのバランスがとてもよかったので、そこに強く惹かれました。

Q:スパイ作品といえば、監督は過去にドラマ「窓際のスパイ」を手がけていますね。シリーズ構成のドラマと2時間尺の映画で、製作の違いはありますか?

テレビシリーズは、キャラクターの造詣を掘り下げられます。「窓際のスパイ」の時、ゲイリー・オールドマンが1シーズンにつき1人の監督を希望したんです。映画のように統一感がある作品にしたいと。当初は大変でしたが、結果的に素晴らしい判断でした。映画は2時間未満に収める必要があるので、どうしても省略する部分が出てきます。だからリズムも違います。映画では、テンポと集中力が求められるのです。

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Q:映画の冒頭、チャーリーと妻サラ(レイチェル)の日常生活が描かれた後、突然全てが変わってしまいます。映画としてとても印象的な導入でした。

チャレンジでもありました。というのも、レイチェル演じるサラは、短時間しか登場しません。限られた時間で、ものすごく多くの情報を伝えなければならなかった。夫婦関係がしっかりしていて、将来性があるように感じられること、2人が風変わりなアウトサイダー的存在であること、チャーリーが失ったもの、何が彼を突き動かすのかを明確に提示する必要がありました。(冒頭の)世界がひっくり返る前の生活というのは、スパイ映画の核心だと思います。なじみのある世界が突然、信じられないものに変わる。平和だった街が、急に不穏な場所になる。角を曲がるたびに脅威があるような、そんな世界に変わる。常に背後を気にするような感覚。それこそが、スパイの世界を面白くしていると思います。

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Q:映画では、サラのバックストーリーがあまり語られていません。劇中で描かれていない、サラに関する裏設定は存在するのでしょうか?

あります。たとえば、彼女が向かうロンドンでの会議も細かい設定を詰めました。彼女は気候科学者という設定で、家に飾ってある写真は、彼女が撮影した気候に関するものなんです。尺の関係で描けなかったのですが、しっかり(設定が)存在します。

ジェイソン・ボーンやジェームズ・ボンドとの違い

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Q:監督はスパイ作品に対してどんな思いを抱いているのでしょうか? 人生で初めて観たスパイ映画は今も覚えていますか?

初めて観たスパイ映画は『007/死ぬのは奴らだ』(1973)です。はっきり覚えています。ボンド映画は大好きです。『007』は“イベント映画”で、ロンドンではみんなが次のボンド映画を心待ちにしているんです。他に覚えているのは『大統領の陰謀』(1976)。厳密にはスパイ映画ではありませんが、2人のジャーナリストが追い詰められて監視され、危険にさらされる。『アマチュア』では、1970~1980年代の“パラノイド・スリラー”から多くの影響を受けました。

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Q:映画史を振り返ると、『ミッション:インポッシブル』『007』『ボーン』シリーズなど多くのスパイ映画が存在します。観客が、これほどスパイ映画に惹かれる理由は何だと思いますか?

“ひとりの人間が世界に立ち向かう”という構図が魅力なんだと思います。孤独な男が不可能な状況に立ち向かう。 さきほどお話しした「世界がひっくり返る」感覚もあると思います。 主人公はたった一人で、頭脳と知恵を駆使して困難を乗り越えなければなりません。追い詰められた状況からどう抜け出すか、どう任務を達成するのか。観ている側にとって、それが冒険になります。『アマチュア』ではそれがより強調されていて、チャーリーはずっと“アマチュア”のままです。彼はジェイソン・ボーンにもジェームズ・ボンドにもならない。少しオタクっぽくて、地味で、過小評価されているタイプのヒーロー。それこそが魅力だと思っています。

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Q:劇中では、チャーリーがヨーロッパ各地を回ります。プロデューサーは、典型的なスパイ映画のようなロケはしたくなかったと語っていますが、監督もロケ地はこだわって選択したのでしょうか?

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まずは原作小説に立ち返りました。原作では舞台が東西冷戦時代のプラハになっています。ですが、今のプラハは観光地で、スパイに狙われることはありません。なので、イスタンブールに舞台を移しました。ヨーロッパとアジアの境界にある都市で、今もなお“境界”を感じられる場所です。ロシアとの関係も深い。また、「窓際のスパイ」と同様に、観光映像のように都市を見せたくありませんでした。映画には、ビッグベンもエッフェル塔もブルーモスクも登場しません。代わりに、裏通りや、スパイが歩きそうな場所を選んでいます。また、マルセイユのようなビジュアル的に印象的な都市も使って、スケール感と色彩、質感を出したかったんです。観客にとっても、それが旅の一部になります。

Q:また、ロンドンのとある駅を完全に封鎖して撮影したシーンがあるとも伺っています。

ロンドンのセント・パンクラス駅で撮影しました。 かなり早朝に閉鎖しました。この駅は、パリや他のヨーロッパの都市への直通列車が発着するイギリス最大の国際駅です。この大規模な場所で、シーンを展開させたいアイデアが、最初からありました。撮影はメインカメラではなく、スマートフォンやCCTV(監視カメラ)で行っています。さらに、朝の通勤ラッシュが始まる前には完全撤収しなければいけませんでした。

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Q:ロケーションで印象的なのは、2棟の高層ビルの間にある“空中プール”です。予告編にも収録されているプールの崩壊シーンは、劇中でもお気に入りのシーンです。

あれは実写とVFX(視覚効果)のハイブリッドです。あのプールはロンドンにあって、できてからまだ3年ほどの新しい建物です。できる限り実際の場所で撮影して、悪役が水に引きずられるところまではロケで撮っています。 水に吸い込まれるように後ろに引っ張られる動きは、ワイヤーで演出しました。その後は、スタジオに巨大なタンクを用意して、プールの一部をセットで再現しました。そこでプールが壊れるシーンを撮影しました。スタントマンがワイヤーで落ちるシーンを撮り、地面にぶつかる直前で安全に止めています。さらに、装置で大量の水を高所から地面に流して、迫力ある水しぶきを撮影しました。私が大規模なシーンを撮るときは、できる限り“本物”を撮るようにしています。VFXチームにとっても、本物の水の動きや光の反射は参考になるので、よりリアルな映像に仕上がります。今回は、ロケ・セット・VFXの三位一体で完成しました。

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Q:あのシーン全体を撮るのに、どれくらい時間がかかりましたか?

スタジオでの撮影は1日でした。プールのリセットに5時間かかるんです。撮影後はプールの側面を作り直して、水を再び入れ直す必要がありました。ロケ地での撮影は2~3日ほどでした。ただし、その間に他のシーンも撮っていたので、あのシーンのためだけに長い時間をかけたわけではありません。特に時間がかかったのは、プランニングです。全体の構成をスケッチし、ストーリーボードにして、アニメーションにしてから、各カットを設計しました。本作で重要だったのは、「チャーリーが他人を巻き込まないように、責任を持って行動している」ことを描くこと。 彼は夜に実行しますし、下に誰もいないことを確認しています。そうじゃないと、無関係な人を巻き添えにしてしまいますからね。

人間味があるからこそ魅力的

(C)2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

Q:細かいシーンなのですが、チャーリーがフードを被っている姿は「Mr. Robot/ミスター・ロボット」のエリオット・オルダーソン(ラミが演じた天才ハッカー)を思い出しました。あれは意識して撮ったショットなのでしょうか?

実は、全然意識してなかったんです。むしろ逆で、あの世界観と混同されたくなかったんです。覆面という点では、自然なことだと思います。監視カメラから身を隠すためにフードを被り、輪郭を変えるというのは現実的な方法。だから自然な描写でした。

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Q:また、チャーリーが爆発現場から歩いて離れるシーンは、爆発音に驚く彼のリアクションがとてもナチュラルでした。ラミは『ダークナイト』でジョーカー(ヒース・レジャー)が病院を爆破するシーンを参考にしたと語っていますが、監督もそのように感じましたか?

実は、私の中ではそれがテンプレートではなかったです。むしろ、トム・クルーズの映画のように、爆発の中を無表情で歩く“鋼鉄の男”と逆のものを目指していました。実際、撮影当日もラミーは「オタクっぽくなりすぎない?」と心配していましたが、私は「この映画のタイトルにある通り、彼は“アマチュア”なんだ」と伝えました。スーパーヒーローではなく、人間味があるからこそ魅力的なんです。

Q:最後に、この映画を通して観客に届けたいメッセージを教えてください。

最初に言いたいのは、これはエンターテインメントだということです。とにかく「映画館で素晴らしい一時を過ごしてほしい」という気持ちが一番強いです。また、チャーリーを通して何かを伝えるとすれば、それは「自分らしさを大切にして」ということかもしれません。冒頭のチャーリーは、リスクを取らず、旅行にも行かず、ネクタイなしで外出することすらできない人物として描かれます。同僚たちにも少しからかわれています。でも、クライマックスにかけて、彼が正義を貫いて信じられないことを成し遂げることがわかっていきます。この映画で伝えたいメッセージは、「隣にいる人を過小評価しないこと。その人こそ、本当のヒーローかもしれない」です。

映画『アマチュア』は全国公開中

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