『1917 命をかけた伝令』驚異の119分リアルタイム感

　昨年末から、3週連続で全米ナンバーワンをキープしていた『スター・ウォーズ／スカイウォーカーの夜明け』（2019）から首位を奪取したこともあり、オスカー候補作の中、“今いちばん勢いがある作品”といっても過言ではない『1917 命をかけた伝令』。第1次世界大戦において、重要なミッションを与えられた2人の若きイギリス兵が体験する「ある1日」を描いた本作は、2年前にオスカー候補作だった“『ダンケルク』のその先”といえる驚異の映像体験といえるだろう。（文・くれい響）

　1917年、第1次世界大戦真っ只中のフランス。ある朝、2人の若きイギリス兵、スコフィールド（ジョージ・マッケイ）とブレイク（ディーン＝チャールズ・チャップマン）に命じられた重要な任務--。それは明朝までにドイツ軍を追撃し、最前線にいるマッケンジー大佐（ベネディクト・カンバーバッチ）に特攻作戦の中止命令を届けることだった。

　祖父から聞いた体験談を基に、サム・メンデス監督が長年温めていた企画であり、監督自身が初めて脚本も執筆した本作の醍醐味は、2人の主人公が任務を遂行し、明朝に予定されている特攻作戦を中止することができなければ、ドイツ軍による、同胞1,600人の全滅が免れないところにある。しかも、彼らが目指す部隊にはブレイクの実兄も所属している。つまり、戦争映画であると同時に、タイムリミットサスペンスの要素が絶妙なスパイスとなっている。

　さらに、ドイツ軍が仕掛けるブービートラップ（戦場における罠の一種）やドイツ占領下の町を越えると、そこにはカンバーバッチのほか、コリン・ファース、マーク・ストロング、リチャード・マッデンといったイギリス映画界を代表する俳優が待ち受ける。その出会いをクリアしていくことによって、さらに次のステージへと進む感覚は、まさにRPG的ともいえるだろう。また、過酷な道中で芽生えるスコフィールドとブレイクの友情など、メンデス監督が海兵隊員の湾岸戦争体験記を戦闘シーンなしで描いた『ジャーヘッド』（2005）のような青春映画としての要素も含まれている。

　そんな中、『ダークナイト』（2008）に刺激されたメンデス監督が、『007 スカイフォール』（2012）でダークなジェームズ・ボンド像を誕生させたように、本作でもクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』（2017）から影響を受けていることは否定できない。とはいえ、「陸」「海」「空」、3つの視点からストーリーが語られた『ダンケルク』に対し、こちらはひたすら主観、ひたすら1つの視点で描かれていく。それを如実に表しているのが、驚愕の119分リアルタイム、全編ワンカット（に見える）撮影である。

　厳密には時間経過などは、CGによって編集されてはいるものの（編集は『ダンケルク』でオスカーを受賞したリー・スミス！）、その無謀ともいえる挑戦によって、兵士たちの息遣いや砂埃が舞う塹壕、さらに縦横無尽に飛び交う銃弾など、戦場の最前線に放り込まれたかと錯覚してしまうような臨場感＆緊張感を醸し出す。そして、美しくもはかないラストシーンで捉えるカタルシス。これによって、『ブレードランナー 2049』（2017）に続く、ロジャー・ディーキンスの撮影賞受賞は、ほぼ確実といえる。

　賞レースに一歩遅れながらも、作品賞、監督賞・脚本賞・撮影賞のほかに、美術賞・作曲賞・音響編集賞・録音賞・視覚効果賞・メイクアップ＆ヘアスタイリング賞と、計10部門にノミネート。ノーラン監督ほど、アカデミー会員にアンチがいない（と思われる）メンデス監督だけに、編集賞・録音賞・音響編集賞の3部門止まりだった『ダンケルク』を超える結果を残すのは間違いない。

コリン・ファース、カンバーバッチら共演！『1917 命をかけた伝令』予告編