アカデミー賞監督賞は個性派揃いのデッドヒート!ブラディ・コーベットが手堅そうだが…
第97回アカデミー賞
全員が同賞初ノミネートとなった監督賞。ジャック・オーディアールとコラリー・ファルジャという2名のフランス人が候補入りし、ジェームズ・マンゴールドは大作映画も手掛けているが、インディペンデント映画で活躍してきた個性的な作風の監督たちが揃った印象に。下馬評では『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカーが優勢に見えたが、前哨戦では『ブルータリスト』のブラディ・コーベットが一歩リードか。勢いのある『エミリア・ペレス』のジャック・オーディアールと『サブスタンス』のコラリー・ファルジャにもチャンスはありそうで混戦模様だ。(文・今祥枝)
ショーン・ベイカー 『ANORA アノーラ』

ニューヨーク大学映画学科を卒業後、2000年に『フォー・レター・ワーズ(原題) / Four Letter Words』で監督デビュー。以来、一貫してインディペンデント映画に携わってきた。2015年には3台のiPhoneのみで撮影した『タンジェリン』が注目を浴び、続く『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』が批評家に絶賛されて国際的な知名度を得た。製作、監督、脚本、編集を兼ねた『ANORA アノーラ』が第77回カンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)を受賞。アカデミー賞では監督賞のほか、脚本賞、編集賞でもノミネートされており、賞の行方が注目されている。
ショーン・ベイカー
1971年2月26日生まれ
アメリカ・ニュージャージー州出身
主な監督作
『レッド・ロケット』(2021)
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)
『タンジェリン』(2015)
ブラディ・コーベット 『ブルータリスト』

子役としてキャリアをスタートし、2010年代半ばまでは『ファニーゲーム U.S.A.』などの映画やテレビ作品に出演していた。2015年に監督・脚本・製作を務めた『シークレット・オブ・モンスター』で長編映画監督デビューを果たし、第72回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門監督賞と初長編作品賞を受賞。『ポップスター』でも注目され、ドラマシリーズ「クラウデッド・ルーム」では3話分の監督を務めた。一大巨編の『ブルータリスト』は風格もたっぷりの作風で、前哨戦でゴールデン・グローブ賞ほか手堅く受賞を重ねて、同賞受賞に最も近いと言えそうだ。
ブラディ・コーベット
1988年8月17日生まれ
アメリカ・アリゾナ州出身
主な監督作
『ブルータリスト』(2024)
『ポップスター』(2018)
『シークレット・オブ・モンスター』(2015)
ジェームズ・マンゴールド 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』

カリフォルニア芸術大学とコロンビア大学で映画を学んだ。脚本家としてキャリアをスタートさせた後、1995年に『君に逢いたくて』で映画監督デビューして以降、『17歳のカルテ』や『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』などで注目される。人間ドラマを描くことに定評があるが、『ウルヴァリン:SAMURAI』や『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』などの大作映画でも手腕を発揮。アカデミー賞では『LOGAN/ローガン』で脚色賞候補になり、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』では念願の監督賞と脚色賞にノミネートされた。
ジェームズ・マンゴールド
1963年12月16日生まれ
アメリカ・ニューヨーク州出身
主な監督作
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)
『フォードvsフェラーリ』(2019)
『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005)
ジャック・オーディアール 『エミリア・ペレス』

父は脚本家、叔父はプロデューサーという映画一家に育つ。1994年の長編監督デビュー作『天使が隣で眠る夜』がセザール賞の新人監督作品賞を受賞して以降、同賞の常連に。カンヌ国際映画祭では、『つつましき詐欺師』で脚本賞、『預言者』がグランプリを受賞し、『ディーパンの闘い』がパルムドールを受賞。『預言者』はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたほか、『ゴールデン・リバー』がベネチア国際映画祭の銀獅子賞を受賞と輝かしい経歴を持つ。スペイン語で撮影されたフランス映画『エミリア・ペレス』で、初のアカデミー賞監督賞候補にして受賞を狙う。
ジャック・オーディアール
1952年4月30日生まれ
フランス・パリ出身
主な監督作
『ゴールデン・リバー』(2018)
『ディーパンの闘い』(2015)
『預言者』(2009)
コラリー・ファルジャ 『サブスタンス』

2003年に発表した短編映画デビュー作がいくつかの映画祭で賞を受賞し注目される。2010年にパリの名門映画学校ラ・フェミスに入学。当時から暴力的な作風でジャンル映画の製作に意欲的に取り組んでいた。衝撃的な復讐スリラー『REVENGE リベンジ』で監督・脚本・編集を手掛けて長編映画監督デビューを果たすと、数々の独立系映画祭で賞を受賞。長編映画2作目となる風刺的なボディ・ホラー『サブスタンス』では監督・製作・脚本・編集を手掛けて、第77回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞の候補となり、一躍脚光を浴びている。今回唯一の女性監督。
コラリー・ファルジャ
1976年11月24日生まれ
フランス・パリ出身
主な監督作
『サブスタンス』(2024)
『REVENGE リベンジ』(2017)
『セクシー・ビースト』(2000)