大山くまお

大山くまお

略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。

近況: YouTube「ダブルダイナマイトのおしゃべり映画館2022」をほぼ週1回のペースで更新中です。

サイト: https://www.youtube.com/channel/UCmdesdmNuJ2UPpAQnzkh29Q/featured

大山くまお さんの映画短評

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  • シンシン/SING SING
    役を演じることは「人間に戻る」ということ
    ★★★★

    実際の刑務所で実際に行われている更生プログラム「舞台演劇」の模様を、名優コールマン・ドミンゴと実際にプログラムに参加した元囚人たちが演じる。劇映画の形を取っているが、肌触りはドキュメンタリーに近い。罪を犯した男たちが協力し合い、お互いを理解して舞台を作り上げていく。何よりも役を演じることが、「人間に戻る」ためのプログラムになっているのが心に響く。誰かにレッテルを貼られ、虚勢を張り、悪ぶっていた男たちが、役に向かい合うことで自分を見つめ直すというわけだ。派手な見せ場に頼らず、抑制的でありながら、感情がほとばしる脚本、演出、そして何より演技が見事。

  • HERE 時を越えて
    「光陰矢の如し」という言葉を噛みしめる
    ★★★★

    フィラデルフィアのとある古い一軒家を舞台に、その家で暮らしたさまざまな家族の姿を定点カメラからの映像で描く。中心になっているのが戦後を生きたトム・ハンクス演じるリチャードの家族。家族にとって楽しい時間は短く、辛い時間は長いという実感がそのまま作中の時間に表れている。自分の家族との時間を照らし合わせながら観れば、「光陰矢の如し」という言葉の重みがよくわかるだろう。この世はすべて“ライフ・オブ・サークル”なのだとわかっていても、去っていく家族を思うと涙が出る。それにしても、家族が抱える悩みはアメリカ建国の父、ベンジャミン・フランクリンの時代から同じということか(彼らの家は窓から見える)。

  • ノスタルジックで瑞々しくてキラキラしているけど、後味はどこまでも苦い。1999年を舞台に、思春期の少女たちの恋と友情と戦いを描く。同じ年頃の少女を恋する少女と、性加害を受ける少女の親友。目に見える敵は、男の加害性を煮染めたような一人のコーチだが、実際は親であり、警察であり、伝統であり、韓国社会そのものだろう。彼女たちのきれいな心を守ろうとする戦いはずっと続いている。「天国にはいけない」というタイトルと現代の韓国の若者たちが自虐的に使う「ヘル朝鮮」という言葉が対応しているように見える。エンディングで流れる紫雨林「恋人発見!」のイ・ユミとパク・ソヨンによるカバーが良すぎて繰り返し聴いていたい。

  • Four Daughters フォー・ドーターズ
    自分たちとも深く関係のある家族の物語
    ★★★★

    家族を捨ててイスラム過激派組織に加わった10代の姉妹。残された母親と妹たちにプロの俳優を加えて、家族の歴史を演じさせるというドキュメンタリー。チュニジアの政治、宗教、性的虐待などが複雑に絡む中、これまで過去を断ち切ろうとしていた家族たちは、真実と虚構を行き来しつつ、自分の過去を見つめ、家族の関係を見直し、とても普遍的な結論へとたどり着く。これは遠いアフリカの国の話ではなく、日本で暮らす自分たちとも深く関係のある話である。残酷な話だが、希望もある。家父長制に疑問を持つ人、男性からの抑圧に悩まされている人、親からの強い干渉に悩まされている人、思春期の頃にとにかく混乱してしまった人に見てもらいたい。

  • ネムルバカ
    モラトリアムとロックンロール
    ★★★★★

    やりたいことはあるのに手応えがない平祐奈の先輩と、やりたいことが見つからない久保史緒里の後輩が、小さなアパートで寄り添ってグズグズしながら暮らしていく。コスパとタイパとスマホが幅を利かせている今も、若者たちはこんな風にモラトリアムな季節を過ごしているのだろうか。原作が発表された約20年前とのギャップが少し心配になる。凡庸な(と書くと作曲者に失礼だが)ポップスに中指を立ててロックンロールをぶちかます展開も、おじさんには心地よく響くが今の若い子たちにはどうなんだろう。主演の二人はもちろん、バンドメンバーもとても良かったので、テレビ東京の深夜で30分ドラマのスピンオフが観たい。

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