略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
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70年代のアニメ『ボルテスV』をフィリピンで実写化リメイク。TVシリーズをこのクオリティで全90話作ったフィリピン特撮界の『ボルテスV』愛と技術に拍手を送りたい。公開されたのは序盤の「超電磁編集版」で、ストーリーは元ネタの1話と2話のほぼ完コピ。博士もお母さんもどこかアニメに似た風貌なのに驚いた。家族愛が中心の大河ロマンにフィリピンの人たちは熱狂したんだとあらためてわかる。実写化されたからといってストーリーや設定の緻密さも70年代アニメそのままなので、「東映まんがまつり」を観る気分で劇場へ行こう。本当の魅力はTVシリーズにあると思う。主題歌のカバー曲が流れて、ボルテスVに合体する場面で大満足。
『Mr.ノーバディ』続編の監督に抜擢されたインドネシアのバイオレンス超特急、ティモ・ジャヤント監督によるNetflixオリジナルの本作は、とにかくハードな人体損壊アクション(2時間30分!)。少年を助けようとするティーンエイジの女殺し屋が、売春組織、警察、政治家の悪徳コングロマリットを血祭りにあげ、組織の殺し屋たちとも対決するストーリーに複雑さはないが、物語の背景には女性への暴力事件が年間30万件を超えるインドネシア社会がある。彼女が戦っている相手は、女性を殴り、搾取し、殺す男社会そのもの。だから彼女はとてつもなく怒っているのだ。主演のアウロラ・リベロは格闘技経験などが一切なというのが驚き。
パク・チャヌクが脚本と製作を務めたバイオレンス歴史アクション。秀吉の朝鮮侵略が行われていた朝鮮王朝を舞台に、奴婢と貴族という身分を隔てた男同士の友情と殺し合いが描かれる。残忍な日本の武将も登場するが(『ザ・グローリー~輝かしき復讐』のチョン・ソンイルが熱演)、それよりも腐敗しきった朝鮮の王や両班(貴族階級)が悪く描かれているのが面白い。王が逃亡するときに民衆から石を投げられたのは史実とのこと。歴史劇としてだけでなく、ソードアクションとしての見せ場も十分用意されているが、韓国映画らしく首も体の一部もスパスパと景気よく飛んでいく。観終わった後に思うのは、腐った体制は叩き潰さないとダメということ。
凄腕の巫女、老練な地官(風水師)、ベテランの納棺師、巫女の若き弟子の4人が、それぞれの力を合わせて、不穏すぎる墓に込められた秘密に挑む。韓国の巫俗(シャーマニズム)、土葬文化、五行思想、さらに日帝時代をはじめとする近現代史まで含めたストーリーがよく練り込まれている。不穏な雰囲気が満ち溢れる前半から、明らかにヤバいものが目に見えるようになる中盤、後半の展開に度肝を抜かれる人は多いはず。ドラマ『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』のキム・ゴウンによる巫女の儀式は一見の価値あり。この映画が韓国で爆発的なヒットを記録したのは、韓国社会には巫女の文化が日本におけるそれよりもはるかに身近にあるからだろう。
藤子・F・不二雄のSF短編的な想像力で、トゲのないコミュニケーションと摩擦のない友情に執着する若者たちの衝突と再生を描く。夢も目的も向上心もない主人公は、便利すぎるコミュニケーションツール(謎の生物「ふれる」)のおかげで、ぬるま湯のような友情に浸かっていたが、他者の登場によって関係性にヒビが入っていく。主人公たちの明確な成長は描かれず、最後は「決意」で終わるのがリアル。若い人ほどトゲのように刺さって痛い物語なのではないだろうか。けっして心地の良い物語ではない。永瀬廉、坂東龍汰、前田拳太郎、皆川猿時ら声の出演陣は全員本当に達者。それにしても高田馬場、都会の嫌な部分が集まりすぎ。