略歴: 映画ライター。視覚に訴えかけるビジュアルの派手な映画がお気に入り。「SCREEN」「SCREEN ONLINE」「Movie Walker」「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「SFマガジン」「映画.com」等で執筆。他に「キングスマン:ゴールデン・サークル」ノベライズ、「グレートウォール」ノベライズ、「X-ファイル 2016」ノベライズ、「フランケンウィーニー」ノベライズ、「「ターミネーター:新起動/ジェニシス ビジュアルガイド」翻訳など。ウェブで映画やTVドラマのニュースを追いかけ中
近況: 映画『デューン 砂の惑星』シリーズの約1万年前が舞台のドラマ「デューン 預言」@U-NEXTが配信開始。色調や美術は映画版をかなり意識している様子。初期のベネゲセリットをめぐる物語がこれからどうなるのか、今後の展開に興味津々。
1960年代に実在したオートバイ乗りのクラブを題材に、世間の主流には属したくない人々を描くが、彼らの感性は普遍的なものだろう。もうバイクに乗らなくなった男が、ずっと胸の中で鳴り響く排気音に聞き入っているという場面が、この物語を象徴している。
かつてあったが今は失われたものを描くので、感傷的になりすぎないように、二重の枠組みを用いる。一つは、失われた後で振り返って描くという時制。もう一つは、当事者ではなく、近くにいた人物が語るという視点。それでも物語は充分に叙情的で胸を打つ。
実生活でもオートバイ乗りのトム・ハーディやノーマン・リーダスが、嬉しくてたまらなそうにバイカー役を演じている。
2017年日本公開の『リュミエール!』を見逃した人に朗報。本作は、同作同様、1895年にシネマトグラフを発明したリュミエール兄弟による長さ50秒の短編を、リュミエール研究所所長ティエリー・フレモーがナレーションで解説する作品で、同作には未収録だった作品も含めて110本を紹介。
風景を映し出す初期の作品は、そこにあるものを観客に見せようとして撮影されたものだが、撮影者はそこにある何を撮ろうと意図したのか、なぜそこにカメラを置いたのか、なぜその瞬間にカメラを回し始めたのかを思うと、そこに記録ではない創作という行為が芽生えていることに気づかされて、まさに映画の誕生を目撃している気持ちになる。
故エイミー・ワインハウスを描いた映像作品には、オスカー受賞のドキュメンタリー映画『AMY エイミー』(2015)があるが、にもかかわらず、サム・テイラー=ジョンソン監督が、なぜ彼女の映画を撮らずにいられなかったのかは、本作を見るとよく分かる。
生前のゴシップ記事では、お騒がせ者や、誰かや何かの犠牲者として描かれがちだった彼女を、この映画はひとりの懸命に生きた人間として描く。彼女の父親や恋人の魅力的な一面も見せる。祖母との関係も細やかに描写する。何より、さまざまな事態に直面したときに彼女の中で湧き上がる感情が、生々しくむき出しに描かれて胸を打つ。ドキュメンタリーとは違う彼女の人物像が鮮烈。
無数の人間たちがそれぞれに動いている大きな空間を描く光景が、何度もスクリーンに広がり、そのたびに圧倒される。海に面した城塞都市に、海から何隻もの戦船が接近して勃発する激しい海戦。巨大な円形闘技場を含む、華やかな大都市ローマを俯瞰する大きな景観。その闘技場の客席で罵声を浴びせ、喝采し、感情を露わにする市民たちの大群衆。リドリー・スコット監督が描くこれらの光景がみな、絵画のような趣でありつつ、壁面の手触りをも感じさせ、古代ローマはこうだったのではないかと思わせる。
リドリー・スコット監督は、主演のポール・メスカルを企画中の新作の主役にも起用。本作で彼に惚れ込んだのに違いない。
普通の中年男ポールが、ある日突然、見知らぬ多数の人々の夢の中に登場するようになってしまうーーーこの設定のユニークさ、大胆な発想が、何より魅力。監督・脚本は『シック・オブ・マイセルフ』のクリストファー・ボルグリ。暗喩は分かりやすく、一種の風刺ドラマなのだが、そうであることをさておきたくなるほど、さまざまな夢の情景がどれも風変わりで不穏なのに少々ユーモラスな気配もあって面白い。次はいったいどんな夢が出てくるのかと、続きが見たくなる。
そんな物語の主人公を演じるニコラス・ケイジも適役。何かと私生活が話題になりがちなこの俳優が、情景ごとにさまざまな顔を見せ、芸達者ぶりを披露してくれる。