平沢 薫

平沢 薫

略歴: 映画ライター。視覚に訴えかけるビジュアルの派手な映画がお気に入り。「SCREEN」「SCREEN ONLINE」「Movie Walker」「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「SFマガジン」「映画.com」等で執筆。他に「キングスマン:ゴールデン・サークル」ノベライズ、「グレートウォール」ノベライズ、「X-ファイル 2016」ノベライズ、「フランケンウィーニー」ノベライズ、「「ターミネーター:新起動/ジェニシス ビジュアルガイド」翻訳など。ウェブで映画やTVドラマのニュースを追いかけ中

近況: 全米音楽スーパーバイザー組合賞2025のTV部門の最優秀作曲/録音曲賞(Best Song Written and/or Recorded for Television )を、ドラマ「アガサ・オール・アロング」の挿入歌「魔女の道のバラッド」が受賞してめでたい。古楽風の名曲ですよね~

平沢 薫 さんの映画短評

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  • デーヴァラ
    『300』の遺伝子を引き継ぐ英雄譚
    ★★★★★

     やはりザック・スナイダー監督の『300<スリーハンドレッド>』の遺伝子を引き継ぐのは、インド映画だと痛感。1990年代の海上密輸がモチーフだが、老人がかつての出来事を語るという枠組で、伝説的な英雄の物語が描かれる。その神話的世界に、『300』流のスローモーション/ストップモーションの反復、その周囲で舞う正体不明の粒子、という映像がよく似合う。

    『RRR』のNTR Jr.が主演し、前半は彼が英雄を演じる『RRR』系男性群舞たっぷりの男祭り、後半は彼がその息子を演じてラブコメ要素もあり、2つの味が楽しめる仕様。物語は神話的だが、舞踏の速度は現代的で、『RRR』ファンは踊りのキレも必見。

  • 白雪姫
    ディズニーアニメ仕様の小動物たちも愛らしい
    ★★★★

     色彩も造形も、画面の端までおとぎ話様式で魅了する。そのうえで、なるほどこれも不可欠だったと目からウロコなのは、小動物たち。冒頭からハリネズミ、ウサギ、子鹿、小鳥たちが、動きだけでなく、造形もディズニーアニメの小動物仕様で、言葉は話さず、たっぷり感情を表して、大きな役割を果たす。

     ヴィジュアルは名作アニメを意識し、白雪姫や妃の衣装を筆頭に、森の樹木の形、7人のこびとの行進の影などオマージュをたっぷり盛り込み、音楽には誰もが知る名曲も使いつつ、ストーリーは思いっきり現代的に脚色。この物語に欠かせない象徴的シーンは省略しないが、別の角度から焦点を当てる。古典への敬意と現代的感覚の融合が絶妙。

  • BETTER MAN/ベター・マン
    自分をサルの姿で描く、という大胆な発想
    ★★★★

     英国のボーイズグループ、テイク・ザットの元メンバーで、脱退後のソロ活動でも人気を集めるロビー・ウィリアムズの自伝映画だが、自分を「猿」の姿で描くという大胆な演出がポイント。その姿を提示して見せるだけで、最初から、これは寓話でファンタジーなのだと了解させる。なので、無名の少年が16歳で大スターになり、転落し、復活するという直球の物語が、素直にストンと胸に落ちる。本人がナレーションで語る胸の内が、あけっぴろげな告白に聞こえてくる。さらに『グレイテスト・ショーマン』のマイケル・グレイシー監督が歌で感動を盛り上げる。英国風俗のファンには、彼の実家の普通の英国家庭の描写も魅力的で見逃せない。

  • エレクトリック・ステイト
    へなちょこなロボットがみな愛おしい
    ★★★★

    『アベンジャーズ』のルッソ兄弟監督が、シモン・ストーレンハーグの同名原作から"ロボットと旅をする少女"と"廃棄されたままのマヌケな顔の錆びたロボット"という要素をピックアップして、新たな物語を創り上げたのが本作。大挙登場するトボケた造形の錆びて汚れたロボットたちが、どれも愛おしく、ルッソ兄弟がこんなにへなちょこなロボットが好きだったとは。ロボットの塗装された顔は表情が変わらないのに、そこにさまざまな感情が浮かぶのが見えてくる。

    原作ファンは同じ原作者のイラスト集が下敷きのドラマシリーズ「ザ・ループ TALES FROM THE LOOP」も要チェック。

  • 教皇選挙
    教皇選挙の舞台裏が選挙とは何かを問いかける
    ★★★★

     教皇選挙の舞台裏に、死した教皇の生前の行動をめぐる謎解きミステリーを絡めつつ、選挙とは何か、そこでやるべきことは権力争いなのかと問いかける、今、描かれるべき物語。渦中の人間群像を演じるレイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴーらベテラン俳優たちが、みな巧い。

     撮影は『アンモナイトの目覚め』のステファーヌ・フォンテーヌ。舞台はローマ郊外のバチカンだが、物語に合わせ、光は冷たく、映像は硬質。天井の高い建造物の内部に広がる大空間に、窓から差し込む光の筋。外から吹き込んでくる風。俯瞰で映し出される、小雨の中で傘をさしながら中庭を歩く教皇たちの群。幾つもの光景が強い印象を残す。

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