略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
和やかなはずの家族夕食会が参加者の爆弾発言で、喧々諤々の討論会に早変わりし、矢継ぎ早に進む会話の妙を楽しむドラマだ。ドイツ人にとっての名前の意義をはじめ、彼らが抱えるナチズムへの反省や哲学や文学に裏打ちされた思想論、心の奥に秘めていたディスまでが次々と爆発。秘密や思いやりの嘘が人間関係にもたらすインパクトに気づかされ、あれこれ考えてしまう。口調や考え方でキャラの人間性を伝える脚本が上手いし、役者陣も好演。雪崩式にトラブルが起こる展開には新しくはないが、音楽家の秘密が暴かれた後は「どう決着つけるの?」と不安に!? その分、オチを楽しめた気がするので、監督の狙いにまんまとハマるのをお勧めします。
登場人物の記憶とアンティークにまつわる思い出から老女クレールの人生を再構築する人間ドラマで、フラッシュバックの多用で集中力が削がれた。記憶が事実か否かという疑問も抱くし、マジックリアリズム要素も凝りすぎな感じ。ただし物語の核である老女と娘の関係性の変化は説得力があるし、女性として共感する部分も多い。心にしみる。クレール役のC・ドヌーブは認知低下の老女という難しい役どころだが、いかんせん美しすぎる。女性にとっての理想の老い方ではあるが、『愛、アムール』のE・リヴァくらい枯れてないと嘘っぽい。しかし監督の祖父母の家というお屋敷や庭、そこに点在するアンティークの美しさは格別なり。
反共軍事同盟としてベトナム戦争に参戦したオーストラリア軍が体験した知られざる激戦の映画化で、史実に忠実に描いている。激しい攻防戦のなか、仲間を救うために上官に逆らい、身の危険を承知で “デンジャー・クロース”を要請する兵士の姿から戦闘のリアリティと緊迫感が伝わってきて、見ているだけでも体がこわばる。歴史を振り返ると、政治的には過ちだったとされるベトナム戦争だが、参戦した当事者たちの心情はいかに? 名もなきヒーローとなった戦死者へのC・ステンダーズ監督の敬意が伝わる作品だ。
昨年、200周年を迎えたプラド美術館の原点と歴史をベラスケスやティツィアーノ、ゴヤらが描いた多数の名画とともに辿る、満足度が高いドキュメンタリーだ。作家が作品に込めた思いや制作の背景解説など興味深いことばかり。15~17世紀に栄華を極めたスペイン王室が底無しの財力と洗練された審美眼で集めたアートの魅力が圧倒的なのは当然として、館長や各部門の責任者、修復スタッフやリノベに携わった有名建築家、また収蔵品に影響を受けたアーティストの言葉からプラド愛がビンビン伝わってくる。案内人を務めるJ・アイアンズのナレーションがまた非常に魅力的。物語を朗読するかのようにドラマティックでうっとりした!
ロボットのような正確無比な演技で有名なロシアの新体操選手。そのひとりだったM・マムーンのリオ五輪出場までを追い、厳しいトレーニングの合間に見せる葛藤や不安から人間らしさが浮かび上がらせた。しかし、主役を凌駕するのがカメラを全く気にしない大物指導者イリーナ。ロシア新体操界の女帝である彼女の発破(とファッション)がすごすぎて、目が釘付け。罵倒としか思えない言葉でマムーンを崖っぷちまで追い詰める女帝に震える。スポーツじゃなく、戦争なのだ。鋼のハートを持つ人しかオリンピックには届かないわけで、アスリートを尊敬するのみ! コーチの「あなたは人間じゃない、アスリートなの」という叱責に全てが集約されている。