略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
別人格を作り上げた作家L・アルバートの独壇場だった『作家、本当のJ.T.リロイ』に対し、本作は影武者にさせられたサバンナ・クヌープのPOVで物語が進む。見比べるのも一興だろう。世間の注目に戸惑うサバンナとセレブの仲間入りを喜ぶミーハーなローラとの温度差、徐々に起きる立場の逆転に思わず苦笑。自分を客観視できなかったのがふたりの共通点であり、弱点だったね。結局は創造した異色の経歴ゆえに詰んでしまった女性たちの失敗談であり、強い自意識に囚われる恐ろしさを教えられた。ローラ役のL・ダーンが本人に似せていて、素晴らしい。メディアの狂乱の一端を担ったコートニー・ラブが出演しているのは、一種の禊?
太宰治をモチーフにした“女にだらしない男”の心中話と思いきや、意外にもコメディ方面に舵を切る。すぐに女に手を出す主人公は、女性視点からはNGなのだが、大泉洋が軽妙に演じたせいで愛すべきダメ男となっている。そしてそんな大泉を翻弄する女優陣がまた開き直った演技を披露し、男女の妙味が伝わってくる。ケラさんの脚本力もあるが、演者はみなキャラにハマっている。たくましくも美しいヒロインを演じた小池栄子は声のトーンや話し方をしっかり作りこみ、戦後のどさくさを独力で生き延びる女性を怪演する。彼女と大泉の相性のよさも本作の魅力のひとつ。この二人でダメ文豪シリーズを作ってほしい。
冒頭から遺体処理で、実際に起きた事件を次々と見せていくファティ・アキン監督の大胆な手法に驚く。「なぜ彼(彼女)は事件を起こしたのか?」と犯人の心情を探らないので、見る側が連続殺人鬼ホンカに同情も共感も感じない作りだ。言動や汚部屋などでホンカの不愉快極まりない人間性を表現されていて、屋根裏部屋のシーンでは、画面から悪臭が漂ってきそうな雰囲気だ。オエッ。凡人では理解不可能なホンカの本性を暴く監督視線のおかげで、彼から肉扱いされる被害者女性たちの哀れな境遇に思いを寄せてしまう。戦後の復興に置いてきぼりにされた女性もいれば、戦争の傷をひきずる老女もいる。残酷な事件を残酷に描いた怪作だ。
カメラを複数使い分け、鮮やかな編集によって完成した1ショット撮影が緊張感を生む作品だ。実際に映像を見ても主演の二人だけでなく、エキストラまでが完璧なタイミングを要求されただろうし、相当に困難な撮影と思われる。しかし、やはりそれは二の次。仲間の命を救おうと厳しくも辛い道のりを駆け抜ける若き兵士に次々と襲い掛かる恐怖やドラマがシンプルな物語をより一層深いものにし、人間が持つべきモラルや正義について考えさせる。どんな演技も上手にこなすG・マッケイと『GOT』のトメン王子ことD=C・チャップマンの無垢にも見えるフレッシュさが生きた。M・ストロングやA・スコットが脇役という贅沢さにも驚く。
正統派ユダヤ教徒のラビの娘に生まれた場合、相当に厳しい躾をされるのは容易に想像できる。そんな“くびき”だらけの人生から逃げ出したロニートと厳格なコミュニティに残った元恋人エスティのそれぞれの人生模様と選択、さらにはエスティの夫であるラビが宗教と愛の狭間で揺れる姿が濃密に描かれていて、見ていて窒息しそうな気分になった。癒しと呪縛ともいえる、相反する側面を持つ宗教への恐れも湧くほど。主演のR・ワイズとR・マックアダムズ、A・ニヴォラは些細な仕草やまなざしでキャラクターが置かれた状況や感情を正確に表現する熱演で、言葉にならない思いがあふれだす。映画終了後は彼らの今後が気になる、愛の物語だ。