相馬 学

相馬 学

略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。

近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。

相馬 学 さんの映画短評

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  • コーダ あいのうた
    ハンデキャップは“かわいそう”ではない!
    ★★★★

     元ネタの『エール!』はよくできたヒューマンコメディだったが、それをより繊細に描き込み、よりデフォルメしたのが本作。

     家族の絆を強調したドラマはもちろん、キャラのエキセントリックな部分も強調。セクシャルなアメリカンジョークを織り込みつつ、障がいを持つ者を“かわいそう”ではなく、生命力にあふれた人間として描いている点がいい。

     コメディ色は強いが、それでもシリアスに受け止められるのは、生活感のある日常描写ゆえ。漁師の家の子であるヒロインは、自信なげな表情や服装を含めて魚臭さが伝わってくるほどリアル。役者は皆ハマっているが、やはり主演のエミリア・ジョーンズの好演が歌声ともども光る。

  • ハウス・オブ・グッチ
    家名という重荷に耐えるか、それとも利用するか!?
    ★★★★

     名門ファッションブランドのスキャンダラスな実話も、R・スコットの手にかかると狂暴なドラマと化す。

     なにしろ、愛と欲望、野心と猜疑心が交錯する壮絶な物語。華やかな世界を題材にしつつも、それを強調せず、キャラの心理に肉迫する。名門を重荷に感じる男と、それを利用してのし上がる妻らの思いが交錯。グッチという大きな家名を背負った者たちの、それぞれの生き方が面白い。

     主要キャストはそれぞれに大熱演で、草食系グッチのA・ドライバーもイイ味を出しているが、やはり肉食系グッチ、ガガのインパクトが大。そして、このような強い女性にフォーカスしたとき、スコットの映画は狂暴なまでに吸引力を増す。

  • スティルウォーター
    M・デイモンが体現する、その行ないは正しいのか!?
    ★★★★

     アカデミー賞作品『スポットライト 世紀のスクープ』に続くT・マッカーシー監督作品が、このような作品になるとは思ってもいなかったが、見応えのある作品であることに違いはない。

     前作と同様に実話を基にしながらもフィクションに落とし込み、サスペンスという娯楽性を植え付けつつ、文学的に行間を読ませようとする。愛娘を助けようとして異国で暴れまくるアメリカ人の行動は正しいことなのか?

     その答を考えさせることこそ、本作の目指した地平。主演のM・デイモンは『最後の決闘裁判』もそうだったがが、共感と反発を同時に覚えさせる複雑なキャラクターに血肉を与えた。その役者としての円熟ともども、じっくり味わいたい。

  • クライ・マッチョ
    重厚というより芳醇、これもまたイーストウッド!
    ★★★★

     イーストウッドは巨匠のイメージが強く、重厚な作品を期待する向きもあろうが、彼の監督・主演作には、サラリと、ひょうひょうと人間ドラマを描くケースも少なくない。本作もその系譜に属する。

     歳の離れた者同士の旅物語は『センチメンタル・アドベンチャー』的で、老人と少年の交流は『グラン・トリノ』を連想させる。そこに『ブロンコ・ビリー』『運び屋』の軽妙さを織り込んだつくり。ユーモアと人間味の絶妙のバランスという、イーストウッド作品の一面を再確認できる。

     少年の成長劇であると同時に、自分の居場所を見つける老アウトサイダーの物語は、重厚でないからこそシミる。むしろ芳醇と呼びたい。

  • マークスマン
    イーストウッドに近づいた!?ニーソンの円熟
    ★★★★

     最近のL・ニーソン主演作は年齢的なものもあり従来の“最強オヤジ”から贖罪キャラへと変化しているが、そういう意味ではイーストウッドのキャリアの変遷と似ている。『人生の特等席』のR・ロレンツ監督と組むのも必然的だったのかもしれない。

     『許されざる者』のような孤独で幕を開ける物語は『センチメンタル・アドベンチャー』的ロードムービーに発展し、『グラン・トリノ』の伝承の色をまとっていく。

     カーチェイスやガンファイト、さらには格闘もあり、ニーソン主演作らしいアクションには事欠かないが、主眼はあくまでドラマ。イーストウッドの新作『クライ・マッチョ』と重なる部分もあり、併せて観ることをお勧めしたい。

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