略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
ピンク・フロイド結成時の中心人物ながら一枚のアルバムを残してバンドを去ったシド・バレットは謎の多いアーティストだが、その謎を探る試みとして興味深い。
彼を知る人々の証言が豊富で、それらの食い違いをそのまま並べて多角度検証しているのが面白い。初期フロイドのライブを収めた『TONITE! LET'S ALL MAKE LOVE IN LONDON』のP・ホワイトヘッド監督が当時を語るのも貴重。
シドが何を考えていたのかは、これまでの書籍や映像作品で提示されたものと同様、よくわからない。それでも証言によりしっかり外堀を埋め、非ウェットな人生物語に仕立てたことに本作の意義が見える。
2010年代の『猿の惑星』トリロジーはサルの指導者シーザーの戦いと成長の物語だったが、この新作は数世代後のドラマ。代が変わるほど腐敗が進むのはサルの国も同様のようだ。
サルの国が完全に地上を支配し、退化の進んだ人間は迫害されるという社会の構図。人間だけでは飽き足らず、独裁者はサルの世界にもヒエラルキーを築き、下々の者を虐待する。現代の人間社会の擬人化(擬猿化!?)というべきか。
純真なサル、ノアを主人公に据え、世界の汚れた現実を見据えるつくりはもちろん、人間という生き物の不信をも視野に入れている点が面白い。ノアと、人間の少女ノヴァの関係はこの後どう変化するのか? 次が見たくなる。
ミステリーではない。が、それでも並々ならぬ緊張感に見入ってしまう。
本作の磁場となるのは子どもを失った母親の歪んでいく胸の内。周囲の好奇の目にさらされ、SNSの悪意ある書き込みに圧迫され、狂気スレスレの感情へといたる過程は密にして凄まじい。石原さとみの怪演は目を見張るばかりだ。
それでも晴れ間がかすかに覗くのが吉田作品の妙。個人的な視点となるが、父親目線で見たとき、狂妻に振り回され、キレそうになりながらも必死に持ちこたえる夫の踏ん張りに救われる。青木崇高、こちらも好演。
19世紀イタリアの政教分離はその昔、世界史の授業で習った程度で、どんなものかは具体的には知らなかったが、そういう意味で興味深く観た。
幼い子どもが親と引き離される。ユダヤ教徒の子と親それぞれが改宗を迫られる。改宗に応じた子と、改宗しない親との溝が深まる。これはまさに、カトリックが主権を握っていた時代の残酷物語。主人公の少年が、同じユダヤ人であったキリストの像に抱く幻想の描写も印象深い。
時の教皇が聖職者らしくない横柄な態度をとっていることも脳裏にこびりつく。権力を握った人間が増長するのは、昔も今も変わらない。
この映画に何を求めるかで、評価は分かれるだろう。怪獣バトルと都市破壊のスペクタクルを見たいなら、本作は確実にその欲求に応える。
地下世界での巨サル対決からして凄まじく、地上ではローマもリオデジャネイロも破壊される壮絶さ。ぶっ壊し方は『トランスフォーマー』のそれに近く、映像にはスピード感も宿る。この破壊で何人の犠牲者が出たのか気になるが、純正娯楽作にそれを問うのは無粋というもの。
人間側では疑似母娘のドラマも面白いが、ダン・スティーヴンスふんする獣医の、医療やら操縦やらバトルやらのハイテンションの大活躍が、このスペクタクルの中では何よりフィットする。