猿渡 由紀

猿渡 由紀

略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

猿渡 由紀 さんの映画短評

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  • カード・カウンター
    ゆっくりと紐解かれ、意外な結末へと導く
    ★★★★★

    冒頭のモノローグからさすがポール・シュレイダーの脚本と感じさせ、引き込まれていく。寡黙で冷静に見える主人公ウィリアムがどうして刑務所に入ることになったのか、その背景が次第に明かされていくと、このキャラクターとストーリーはますます興味深くなる。話はスローなペースで進むが、最後には予想しなかった展開と、余韻を感じさせるラストが待ち受ける。内側に多くのものを抱えるウィリアムを繊細に演じるオスカー・アイザックは絶賛もの。お相手役にコメディエンヌのティファニー・ハディッシュをキャストしたのも、新鮮でセンスが良い。彼女が持つ自然なチャーミングさは、ダークなこの映画が必要とする一抹の明るさを与える。

  • マイ・エレメント
    笑って、泣けて、とびきりロマンチック
    ★★★★★

    移民2世で、異人種の女性と結婚したピーター・ソーン監督のパーソナルなところから生まれたこの映画は、ファンタジーの世界を舞台にしながらも、すべての面でリアルな感情に満ちている。そこは期待通りだったが、ここまでロマンチックだとは予想しなかった。「火」と「水」が少しずつ惹かれ合っていくところ、本当に恋に落ちるところ、ずっと胸がキュンとしっぱなし。ほかにも、親子愛、親への感謝、子供が自分の道を歩いていくことなど、誰もが共感できる要素が詰まっている。「火」「水」などエレメントの特性を活かしたユニークなキャラクターはとてもオリジナルで、そこから生まれるユーモアも楽しい。笑って泣けて感動する大傑作。

  • スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
    “芸術”としてのアニメーションの可能性を見せる
    ★★★★

    2018年のオリジナルもビジュアルが画期的だったが、この続編はさらに上をいく。コミックふうだったり、水彩画や印象派のようだったり、時には実写も入れたりと、ひとつのシークエンスの中でもいろいろミックスされるのだ。背景、ディテールも美しく、どのショットも停止して眺めたくなるほどだが、話の展開のテンポは早く、すばらしい映像が猛スピードで目の前を通り過ぎていく感じ。他と一線を画すアニメーション作品だ。ストーリー面では、過去にあまり見せ場がなかったグウェンに焦点が当たるのも良い。「次に続く」で終わるのはコミックらしくもあるが、映画なのだから一応完結してほしかったと思う人もいるかも。

  • 逃げきれた夢
    沈黙の中にもリアルな感情がたっぷり
    ★★★★

    大学を出て、公務員になり、教頭になって、定年まであと1年。外から見れば順調な人生のはずなのに、幸せではない。いったいどこでこうなったのか。だが、生徒に対しても、自分をほぼ無視する妻や娘に対しても、本心を隠し、平然を装って頑張る。そして時には空回りもする。彼の笑顔には人の良さが滲み出ているだけに、それは痛々しく、リアルで、共感できる。せりふのないところでも微妙な感情表現をする光石研をはじめ、役者たちはみんなすばらしい。良い感じで「間」を取り、静かに進んでいくが、(特にラストは)思わぬ形で緊張させてみたりする。これで商業映画デビューを果たすという二ノ宮監督の今後に期待したい。

  • トランスフォーマー/ビースト覚醒
    監督とキャスティングでモダンかつ新鮮になった
    ★★★★★

    「バンブルビー」はチャーミングで個人的に好きだったが、派手なロボットのアクションを望む声にも応え、この最新作には両方が盛り込まれている。監督、主演ふたりの顔ぶれを見ても、このシリーズをモダンで新鮮なほうに持っていこうという意図は明らか。それは成功したと言えそう。好感度抜群のアンソニー・ラモスは観客が応援したくなるものを自然に持っているし、ドミニク・フィッシュバックもマイケル・ベイ時代のヒロインより(この手の映画とはいえ)リアルさがある。ユーモアもたっぷり。とくにミラージュの声にピート・デビッドソンを選んだのは大正解。90年代のニューヨークが舞台でノスタルジックな雰囲気があるのも良い。

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