略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
それまでまるで名前が出なかったのにサプライズでオスカー候補入りしたおかげで作品の知名度が急上昇したのはいいが、キャンペーンが問題視されてややミソがつくことにもなってしまった。しかし、アンドレア・ライズボローの演技はまさに体当たりで恐れを知らず、名俳優らがこぞって彼女を推したのも納得。人生で間違った選択ばかりしてきた人が立ち直ろうとするストーリーはとくに新しくはなく、最初から最後までほぼすべてのシーンに出て映画を引っ張っていく彼女こそ、見るべき理由。撮影監督ラーキン・サイプル(『エブリシング・エブリウェア~』)は、35mmのフィルムを使い、良い感じに昔のアメリカ的なビジュアルを作り上げた。
「17歳の瞳に映る世界」「プロミシング・ヤング・ウーマン」の1年前に北米公開された、もうひとつの優れた「#MeToo」映画。ワインスタインを思わせる大物の映画会社のアシスタントの1日を追いつつ、みんながボスのセクハラを知りながら隠蔽している状況を見せていく。勇気を持って声を上げても「君の代わりは山ほどいる」と脅されるだけ。事実、彼女に与えられた仕事は誰にでもできるような雑用。リスペクトはなく、就業時間は長い。憧れの会社に入れた後の現実はこうなのだ。ドキュメンタリー出身の監督は、多数のアシスタントに取材をした上で脚本を書いたそう。音楽を入れず、冷静かつリアルに描いていくのが余計に胸に迫る。
高齢ゲイ男性の話をゲイであるトッド・スティーヴンス監督が語る「スワンソング」は優れた映画だったが、これも同様。当事者が書き、監督したからこそのディテール、視点と感情に満ちている。今は日本でもパートナーシップ制度が広まりつつあるが、ひと昔前の人たちはカミングアウトなど考えられなかった。老人と若者のふたりの主人公を描きつつ、若い世代のゲイ同士の間にも違いがあることを見せていくところが、非常に興味深い。前の世代はAIDSという恐怖に直面し、実際に友人を亡くしたのだということにも、もちろん触れる。トランスジェンダー当事者を起用した「片袖の魚」もすばらしかった東海林監督の今後がさらに期待される。
迫力満点で、ドラマとユーモアがあって、いい感じでばかげていているのがこのシリーズの魅力。今回もそれらの要素はたっぷり詰まっている。クライマックスの(いつもながら)ありえないカーアクションも爽快。昔のような超メロドラマ的恋愛要素がやや恋しい気が個人的にはするものの、20年以上もの間にキャラクターも歳を取ってきてもはや親になっているので、自然なこと。そうやってずっと見つめてきたキャラクターにまた会えるのは嬉しい。ただ、なんとなく見てきたか、初めて見る人だと、過去とのつながりがぴんと来ず混乱するかも。最後に用意されたサプライズもファン向け。シリーズ終了を目の前にますますギアアップしている。
ジェイソン・ブラムは、見ていて良い気持ちがしなかったが翌日も頭を離れず、この映画を買うと決めたそう。まさに同感。一見何気ないオープニングシーンからゾワゾワさせ、女性たちが会話を始めると不快感と衝撃は頂点に達する。だがその後にもっととんでもないことが起こるのだ。主人公は見た目も綺麗で、子供向けの本を書こうとしている幼稚園の先生。そんなナイスな女性の頭の中はヘイトだらけ。人には差別をしても動物には優しいというギャップもまたリアルだ。監督は中国系の母とブラジル系の父を持つ女性で、自らの体験に想を得たと思われる要素も。白人女性を演じた女優たちの勇気にも拍手したい。