略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
ハリウッドには喋る動物のアニメーション映画が昔からたくさんあるものの、これは最初のシーンからほかと違うと感じさせる。クラシックなスパイ映画ふうの音楽が流れる中、柔らかい日差しが入るダイナーで、悪人であることを自認する主要キャラクターが粋な会話を交わすのだ。ただしそれをやるのは狼と蛇。そこが面白い。ビジュアルも独特にスタイリッシュ。CGに2Dのスタイルを組み合わせるのは、最近ピクサーの「あの夏のルカ」と「私ときどきレッサーパンダ」がやっているが、これも「ルパン三世」や日本の漫画、「スパイダーマン:スパイダーバース」などを思わせる。良いメッセージはあっても、あえて強く押し出しすぎないのもクール。
1993年のオリジナルは、公開時は批評も興行成績もぱっとせず、決してヒットとは言えなかった。しかしその後、家族みんなで見られるハロウィン映画として定番の存在に。その間、ベット・ミドラーは続編を作ろうと言い続けてきたそうで、ついに実現した今作のミドラー、サラ・ジェシカ・パーカー、キャシー・ナジミーは、本当に楽しそう。前作とまるで変わっていない感じで、すんなりと役に戻っている。さらに、冒頭に出てくる、昔の彼女らを演じる3人の若い女優たちが、しっかりエッセンスをつかんでいてなんともお見事。前作同様、良い意味でのばかばかしさが魅力のコメディ映画。
シングルマザーのバニーは、わが子を自分で育てることを許されない。それを実現させるために仕事や住むところを確保したいとは思っているが、現実は厳しい。ソーシャルワーカーはもちろん子供たちを守ろうとしているのだけれども、バニーの視点から語られる今作は、観る者にも葛藤を感じさせる。5歳の娘の誕生日をなんとしても一緒に祝いたいと願うバニー。そしてクライマックスとラストは、とても切ない気持ちにさせるのだ。今作で監督デビューを果たしたゲイソン・サヴァットは、針金が飛び出たブラを我慢してつけ続ける様子などディテールに注意を払い、リアリズムを追求する。彼女の次回作が今から楽しみ。
最も幅広く才能豊かな女優のひとりであるアリソン・ジャネイが62歳にしてアクション映画の主役に挑戦。そのコンセプト自体は魅力的だし、ジャネイが演じるこのちょっと変わったアクションヒロインはたしかに観客を惹きつける。オスカーに輝いた「アイ、トーニャ」でもそうだったように、かわいげがまるでないキャラクターを恐れることなく演じているのはさすが。だが、途中で明かされるサプライズを、意外で面白いと思うか、非現実的でありえないと思うかによって、映画全体への受け止め方は変わるだろう。アンナ・フォースター監督のアクションシーンの見せ方はうまく、とくにクライマックスの海でのシーンはドラマチックだ。
現代社会が抱える怒りと不安を文字通り爆発させる、タイムリーなスリラー。2年前にアメリカで起きたBlack Lives Matterを再び目の前で見ているような気持ちになった。冒頭からいきなりアクションに持ち込み、ノンストップで突き進むこの映画が語るのは、人種差別と、警察による暴力。だが、その根深い問題にどう立ち向かうのか、兄弟の中でも考えに違いがあり、そこからギリシャ神話のような悲劇が生まれていく。彼らを演じる役者たちの演技は非常にパワフル。脚本家のひとりラジ・リは2019年の傑作映画「レ・ミゼラブル」の監督、脚本を務めた人。この2作品には確実につながるテーマがある。