猿渡 由紀

猿渡 由紀

略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

猿渡 由紀 さんの映画短評

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  • 西部戦線異状なし
    戦争の無意味さを痛烈に感じさせる傑作映画
    ★★★★★

    貴重な若い命を次々に無駄遣いする戦争とは、なんと無意味でばかげたものなのか。冒頭から観る者を激しい戦いのど真ん中に連れて行く今作は、その事実をあらためて感じさせる。さっき真横にいた戦友が、一瞬にしてあっさり死ぬ。バトルの後、地面に横たわる大量の死体。その状況は何度見てもやるせない気持ちにさせられる。そんな中、彼らの命を救うパワーを持つ国のお偉いさんは、安全で立派な部屋の中にいて話をしているのだ。そこにもフィルムメーカーのメッセージを感じる。オスカー受賞作をリメイクするというのは基本的に大胆なことながら、本来の言語で新しい視点からパワフルに語る今作は、断然作られる意味のあった傑作といえる。

  • スペンサー ダイアナの決意
    作り手の憶測によるダイアナ妃の3日間
    ★★★★★

    「実際の悲劇にもとづく寓話」と最初に断りがあるとおり、これは作り手によるダイアナ妃の解釈。クリスマスの3日間という外から見られない状況が舞台で、ストーリーは完全に憶測だ。ビジュアルは美しい。衣装、セットは見事で、「燃ゆる女の肖像」の撮影監督クレア・マトンは、まさにおとぎ話のようなムードを作り上げている。孤立したダイアナ妃の悪夢、妄想なども出てきて、途中、ホラー的な雰囲気にも。ただ、アン・ブーリンへの異様な執着は個人的にあまり信憑性を感じないし、それ以前にここで描かれるダイアナ妃はただかわいそうな被害者で、いまひとつ奥行きに欠けるように思う。クリステン・スチュワートの頑張りは評価。

  • キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱
    時代の先を行った偉大なる女性は、妻であり母だった
    ★★★★★

    子供の頃にキュリー夫人の伝記を読んだことがある人は多いことと思うが、今作は、女性としての彼女に焦点を当てる。完全な男社会だった20世紀初めに、女性の、それもとりわけ優れた科学者であるのはどんなことだったのか。「ペルセポリス」の女性監督マルジャン・サトラピと主演のロザムンド・パイクは、この偉大な人物を、欠点もあるひとりの人として描いていく。映画は途中時間がジャンプし、彼女と夫が発見した放射性元素が、その後レントゲンやガン治療など良いことに使われる一方、広島やチェルノブイリの悲劇を起こしていくことにも触れる。科学は政治とつながっているのだということをあらためて思い出させられた。

  • ザ・コントラクター
    ずっと信じてきたものは正しかったのか
    ★★★★★

    アクション映画はクリス・パインのお得意ジャンルながら、激しい銃撃戦も多数あれば水中に潜るシーンもある今作はかなり壮絶。だが、ただ迫力あるアクションを見せるのではなく、今作は、自分がずっと信じてきた社会の理想や組織、愛国心に疑問を覚えるようになる主人公の心のジャーニーを描くもの。そこには少し「ボーン」シリーズ的な、シリアスで政治的なトーンがある。ストーリーは無駄なくスピーディに展開。好感度のあるパインは、その間ずっと観客に思い入れをさせ続ける。パインの元同僚を演じるのは、これで3度目の共演となるベン・フォスター。相性はばっちりのこのふたりが組むのは、いつでも歓迎だ。

  • アフター・ヤン
    見終わってからずっと余韻が残る、深く美しい作品
    ★★★★★

    アイデンティティ、家族、文化、愛、喪失、記憶、さらに人間という生き物についても深く考察していく、瞑想的、詩的な作品。私たちはプログラミングされているのだろうかなどといった、せりふのひとつひとつに重みがあると同時に、沈黙も何かを語る。それでいてお高くとまった頭でっかちの映画になっていないのは、子供の頃に韓国からアメリカに移住したコゴナダ監督の個人的な思いに生まれているからだろう。街の全景や車、電話などが進化している一方(何より話の中心となるのはAIの人間なのだ)、伝統にこだわるお茶の店が出てくるなど、やりすぎない未来図も興味深い。コリン・ファレルは今最も面白い役者のひとりだとも再認識。

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