略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
アメリカでは2020年に配信で公開されたのだが、多くの州で中絶の権利が制限されそうになっている今、よりタイムリーで意義深い。スタイネムをはじめとする女性たちがこのように闘ってくれたのに、逆戻りさせては絶対にいけないのだ。全女性のために活動したにもかかわらず、彼女らには女性の敵もいたという厳しい現実も今作は見せる。幼少期やインドで過ごした20代の頃なども4人の違った年齢の女優を使って語り、さらにジュリー・テイモアらしくファンタジー的なビジュアルが所々に入れられていて、全体的に詰め込みすぎな感じもしなくはない。それでも、人々が知るべき女性の人生が映画になったことを素直に祝福したい。
「ピッチ・パーフェクト」シリーズでもどんどん役が大きくなっていったレベル・ウィルソンが、コメディエンヌとしての才能を十分に発揮。彼女がとにかく笑わせてくれるし、ほかのキャストも良いので、細かいことはとやかく言わず楽しむべき。90年代に高校生だった主人公(ウィルソン)が20年間昏睡状態に陥り、覚醒後高校に戻るという設定で、その間世の中がどう変わったかが物語の大きなポイント。だが、昔が良かったのか悪かったのか、ポリコレが強い今がどうなのかについて何か言うことはしない。代わりに「自分らしくあること」というメッセージを送るのだが、そこにはやや使い古された感を覚えた。
多くの国で貧富の格差が進む今、この映画で起こることは現実味があり、それが恐怖を高める。金持ちの登場人物の中では思いやりのある人も容赦なくひどい目に遭うところが、よりリアルでもあり、辛くもある。あまりにも暗く、希望のないストーリーなので、好き嫌いが分かれるのは必至。少なくとも、良い気分になれる映画では決してない。しかし、このホラー/スリラーが。我々の社会がどれほど不安定でギリギリのところにあるのかをはっきりと伝えてくるのは確か。鮮やかなグリーンを使ったビジュアルやサウンドも効果的。論議を呼ぶこと間違いなしの、大胆で野心的、かつオリジナルな作品だ。
今作で長編監督デビューを果たすマイキー・アルフレッドはスケートボーダーで、「Mid90sミッドナインティーズ」のプロデューサーも務めた人。「Mid90s~」はジョナ・ヒルのパーソナルな物語だったが、今作はアルフレッドが自分で自分のストーリーを語る。高校卒業を前に、ティーンが夢と現実のはざまで悩むというのは青春映画の定番。数あるこれらの作品と差別化するには具体的な要素が鍵になるが、今作は主演にアルフレッドの友人でもあるスケートボーダーをキャストし、リアルなL.A.のバレー地区の風景を描いたことでそれを達成した。「Mid90s~」同様、自分が知っていることを背伸びせずに語ることで成功したと言える。
良いストーリーを、余計な野心を持たずに素直に語る、心温まる映画。すごく新しいわけではなく、展開はだいたい想像がつくものの、女優たちが優秀で、彼女らの関係に信憑性があるために、思い入れできる。普通の人たちを優しい視点からユーモアを持って描くのは、さすが「フル・モンティ」のピーター・カッタネオ。一方で、危険な戦地へ夫を送り出す妻たちの辛さ、不安さ、悲しみも、まっすぐに見つめる。戦争の裏にいる、普段スポットライトの当たらない女性たちに焦点を当てたことも評価したい。エンドクレジットに登場する、この映画にインスピレーションを与えた実在の合唱団の女性たちに拍手。