文・猿渡由紀
潜水艦内は本当に小さくて、深く沈みすぎると、
あっけなく潰れてしまう。その上、敵を迎え撃たなければならない。 そんな設定にすごいサスペンス性を見たんだ
97年の『ブレイキ・ダウン』の監督兼脚本家、また同年の『ゲーム』のプロデューサーを務めて注目されたジョナサン・モストウは、明らかにサスペンスもの好きだ。
「映画館で後ろのほうに座って、自分の映画を見ている観客が、ドキドキしたりとびあがったりしているのを見るのが好きなんだ」
『Uー571』の発想も、同じ理由から生まれた。 「潜水艦のプレッシャーホールというのは本当に小さくて、あまり深く沈みすぎると、潜水艦自体がまるで卵の殻のようにあっけなく潰れてしまう。それだけでも十分だが、その上に敵を迎え撃たなければいけない。第二次世界大戦の潜水艦という設定にすごいサスペンス性を見たんだ」
このテーマで映画を作ると決めてから、モストウは熱心にリサーチを始めた。膨大な資料を読み進めるうちに、暗号機をストーリーに絡めようというアイディアが浮かんだ。
「1941年、英国海軍の功績によってUボートからドイツ軍の暗号機が獲得された。その後ヒットラーが暗号のパターンを変え、それを読めなかったため、米軍は全艦隊の4分の1を、米東海岸のすぐそばで爆破されることになった。当時、アメリカはどうにかして暗号を読みたいと必死だった。42年に再びイギリスが暗号機を獲得し、44年にはアメリカもドイツ海軍の暗号機を奪うことに成功するんだが、この映画のストーリーはこれらのさまざまな史実に基づいて創作した。主役たちをアメリカ人にしたことで、撮影が始まった頃、イギリスのタブロイド紙に僕がイギリス人の功績をアメリカのものにしていると非難されたよ。
でも41年当時、イギリスは彼らを表彰すらしなかったじゃないか。この映画を通
して、これらに関わったすべての人々の勇気をたたえ、敬意を表するというのが僕の意図なんだよ」
撮影中、ある俳優のことを問い合わせる用事で、『U・ボート』のウォルフガング・ペーターセンと電話で話すことがあった。
「撮影現場で、潜水艦を目の前にしながらウォルフガングと話すなんて、なんだが夢を見ているみたいだったよ(笑)。
『U・ボート』はすばらしい映画だ。でも、あれはドイツの潜水艦をテーマにとったドキュメンタリー・ドラマ。海に挑む男という昔からあるテーマが基本の古典的ハリウッド娯楽作品である僕の映画とは全然違う。この映画を楽しんでくれた観客は、“この映画もいいけど、ドイツの潜水艦についての映画なら『U・ボート』がいいよ。あれも見るべきだよ”と、両方勧めると思う。比較されることなんてないと思うね」
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