大統領の料理人 (2012):映画短評
大統領の料理人 (2012)
ひとりの女性シェフのこだわりの生き方への共感
劇中に登場する料理の数々が興味深い! キャベツを丸ごと使ったサーモンのファルシから厚切りトリュフを贅沢にパンにのせたシンプルなものまで、エリゼ宮における仏大統領の食事情は五感に楽しくへ〜の連続だ。
丁寧に素材を選び、家庭料理の素朴さを残しつつ手の込んだ一皿一皿からは、女性料理人として男社会の厨房で奮闘するオルタンスの思いが伝わってくる。彼女にとって料理はアートであり、その哲学は生き方そもの。そのこだわりゆえに大きな壁にぶつかるのだが、エリゼ宮から一転して南極基地の料理人となり人生を見つめ直すパートでは、人々の温かさが身にしみる。美味しい料理は、誰をも優しい気持ちにさせるのかもしれない。
全体として現在と過去を交互に描く構成は難ありで大統領との関係性も描き足りないが、本作が十二分に魅力的である理由。それは料理以上にオルタンスの挫折と再生のドラマが、一つのことに打ち込むプロフェッショナルのあり方として共感を呼ぶ点にある。決して若くはない彼女の大胆な再出発には、励まされる思いがした。芯は強くもしなやかに。そんな主人公を好演する、カトリーヌ・フロのエレガンスにもまた憧れてしまうのだ。