んで、全部、海さ流した。 (2012):映画短評
んで、全部、海さ流した。 (2012)全身女優・韓英恵
主演女優韓英恵は、映画『アジアの純真』で自身のアイデンティティーと重なる在日朝鮮人を熱演し、ドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」(フジテレビ系)で二重国籍に結論を下すまでの苦悩をカメラの前でさらけ出した。弱冠23歳だが、同年代の女優にはない、確固たる意思を感じさせてくれる眼差しは観るものを惹きつけずにはいられないだろう。そんな韓が本作で演じるのは、復興ままならない石巻で、周囲にケンカを売りまくっている無職の元ヤン少女。全身から放出される彼女の憤りは、社会や大人たち、ひいては観客にまで向けられているような迫力を感じる。
その一方で、偶然出会った、同じ匂いを発する少年のために一肌脱ぐ。それは嘘から始まった事だが、交通事故で亡くなった妹が忘れられない少年のために、身近な人を失った痛みが分かる彼女なりの優しさだ。決して、台詞で震災には触れないのだが荒廃した風景や、韓の表情が多くを物語る。
文化庁委託事業「若手映画作家育成プロジェクト」で製作された30分の短編だが、実に濃密な作品だ。でも本音を言えば元ヤン少女を人生、いや、韓の芝居を長編でもっと見たかった。