大島渚監督の次男、衝撃デビュー!唐十郎のドキュメンタリーで映画界に新風
日本ヌーベル・バーグの旗手と呼ばれた大島渚監督の次男である大島新が、映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』で長編監督デビューを飾った。本作は、鬼才・唐十郎と、唐が座長を務める「劇団唐組」の劇団員たちを追ったドキュメンタリー。約半年間、唐十郎を追い、カメラを回し続けた大島監督に話を聞いた。
大島監督が本作を作り始めたきっかけは、テレビ「情熱大陸」だった。「“情熱”で唐さんを取材したとき、唐さんは“ドキュメンタリーの被写体としての自分”を演じている感じがすごくしたんです。極端に言うと、インタビューをしているときに彼が話す言葉はとてもセリフ的で、自己演出を強く感じました。彼の虚実入り乱れた姿に、“テレビサイズではとても語り切れない”と思わされました」
「情熱大陸」の取材が終わってしばらくして、大島監督は正式に長編ドキュメンタリーの出演を唐にオファー。唐に快諾されて、撮影は始まった。
作品の主役は、「情熱大陸」と違い、唐だけではない。彼が主催する「劇団唐組」の劇団員たちも重要な役割を担っている。「今の唐さんを表現するとしたら、唐組を見せないと表現できないなと感じたんです。唐さんは、ああいう形態じゃないと自分の力を発揮できないとご自身でもおっしゃっているとおり、自分の劇団で内向きのベクトルで突き詰めていくという形態を40年以上続けている。でもだからこそ劇団唐組の舞台は、凄まじいパワーを感じさせるんです」
そして、大島監督は唐組の劇団員たちもまた“偏執”的だと言う。
「きっと一度経験した者にしか分からないのだと思いますが、唐組の紅テントの舞台で、セリフを話し、観客の喝采を浴びたときの恍惚感がすべてに勝っているんだろうなって思うんです。だから、あんなにもタフな生活を続けていくことが出来るんじゃないかと思う」
確かに、家賃2万円ほどの部屋に住み、“偏執”的な唐の意見に振り回されながらも、必死についていく劇団員の姿からは、ほとばしるような強いエネルギーが伝わってくる。作品にも登場する紅テントで、汗を飛ばしながらセリフを話す彼らは、現代の私たちが知ろうとしても知ることができない何かを知っているようだ。『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』は、そんな強大なエネルギーにあふれている。
パワーに満ちあふれた唐に惹(ひ)かれた大島監督だが、彼の父親もまた、パワフルな映画監督・大島渚だ。大島監督は本作で監督デビューするまで、偉大な父親の名前を背負いながら、テレビのディレクターとして多くのドキュメンタリーを手掛けてきた。
「映画を撮るということには、やはり複雑な思いがずっとありました。大島渚の息子だということは、これからもずっとついて回ることですし、小さいころには、エロ監督の息子と呼ばれて、嫌な思いをしたこともありました。境遇に対する反発はありましたけど、“モノ作り”には惹(ひ)かれていましたね」
20代までは父親を意識し続けていた監督が、30代になり、唐に出会った。唐だからこそ、映画にしたい。そのとき映画への思いも、父への思いもなく、ただ自然に思えたという。40年前、日本の映画界に新風を巻き起こした巨匠を父に持った大島新監督は、観るものを “シアトリカル=演劇的な”な世界に引き込む新しいドキュメンタリー『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』で、ドキュメンタリーという分野に、新たな風を吹き込んだ。
映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』は12月1日よりシアターイメージフォーラムにて公開。
オフィシャルサイト< http://www.theatrical-kara.jp/>