日本でも人気の作家、ハーラン・コーベンの「唇を閉ざせ」が傑作に仕上がる
人気作家ハーラン・コーベンの小説「唇を閉ざせ」を映画化し、セザール賞監督賞をはじめ、見事4部門を受賞した映画『テル・ノー・ワン』(英題)のギョーム・カネ監督に話を聞いた。本作は、妻エリザベスを惨殺された医師べックが、その8年後に受け取った妻の生存をにおわせる謎のメールに翻弄(ほんろう)されていくミステリー・サスペンス。
‐ストーリーのどういった点に惹(ひ)かれ、映画製作に至ったのですか?
(ギョーム・カネ監督)妻を殺され8年も苦しみ、自分を見失った主人公が謎のメールによって変化していく姿がとても魅力的だった。それにこの物語の舞台は太陽がギラギラしていて、人々がエンジョイするような夏なのにもかかわらず、主人公は孤独なんだ。さらにラブ・ストーリーがこの物語の主軸にあるということかな。物語がスリラー要素だけだったら映画化はしていなかったはずだよ。
‐ハリウッド大作並みのカーチェイス・シーンを5時間ほどで撮影したというのは本当ですか?
(ギョーム・カネ監督)あれはかなり大変な撮影だったよ。最初は3日間の撮影許可を得ていたにもかかわらず、当日になって役人がパリにつながる道だからという理由で5時間くらいしか許可できないと言ってきたんだ。ラッキーだったのは、撮影シーンを事前に絵コンテにして用意していたことで、何をすべきかすべてわかっていたんだ。時間がなかった分、2台のカメラをフル活用して、時には僕自身が撮影監督を務めながら撮影をしていったんだ。結果的にはそれが緊張感を生んでいい感じになったと思っているけどね(笑)!
‐脇役の多かったフランソワ・クルゼをこの大作の主役に起用した理由は何ですか?
(ギョーム・カネ監督)何より僕はフランソワの大ファンでね! コマーシャルや脇役ばかりにキャスティングされるのがファンとして耐えられなくって(笑)。彼を主役に選んだとき、一番この作品に金を出していた出資者が手を引いてしまって、本当に焦ったよ。連中はヴァンサン・カッセルを要求してきたんだけど、彼では若過ぎて役柄に合わないと思っていたんだ。それにヴァンサンではフランソワのように臨機応変にはできなかっただろし。その証拠にフランソワはセザール賞で主演男優賞を受賞しただろ?
‐原作者であるハーランから何かアドバイスはありましたか?
(ギョーム・カネ監督)彼は3度セットに来てくれたんだけど、僕らのやり方を尊重してアドバイスはしてこなかったよ。それに脚色する際にも一切口を出してはこなかった。完成した作品をハーランは鑑賞してくれたんだけど、だいぶ気に入ってくれたみたいでうれしかったよ!
主役だけでなく脇役にも演技派をそろえ、映画はハリウッドとは一味違った濃厚なサスペンス・スリラーに仕上がっている。(取材・文:細木信宏)