40歳の独身男は孤独なの?髪の毛も薄くなり…ランチは母親の手作り弁当『アンダー』-ロンドン映画祭
第53回ロンドン映画祭に参加している映画『アンダー』(原題)のロベルト・キャストン監督に話を聞いた。田舎町に住む40歳の独身男を描いた本作、ベルリン映画祭ではC.I.C.A.E賞(国際芸術映画評論連盟賞)を受賞している。
本作の主人公は、母の手作り弁当を持って農場で働く40歳のアンダー。やや太り気味で髪も薄くなり始めた主人公の雰囲気そのまま、哀愁を漂わせながらコミカルに進んでいく本作だが、農場でケガしたアンダーの代わりに働く青年ホセの登場で意外な展開となる。外から見た農家のショットで始まり、同様のショットで終わる。その家の中身がまったく違っていく過程がそのまま人間ドラマとなっているのだ。
スペインでは40歳の独身男性は肩身が狭いものだろうか?「田舎では、あまりいないからね。でもそれほど珍しいことでもない。アンダーにとって問題なのは、変化を恐れて誰かを愛する機会を逃したら、そのまま孤独で過ごすことになりかねないことなんだ。そして、それは自分は誰なのかわからないままになってしまうことでもある」とキャストン監督。さらに「アンダーだって女性と過ごすことくらいはあるけど、それが愛してもいない人だったら、同じことさ」と愛と孤独が本作のテーマであると話す。
「今回の作品は、現実的な映画だ。文化や宗教的な背景の中で、物事はゆっくりと進んでいく。その背景を抜きにしたら感情もわからないと思う。この映画では感情が重要だった」と述べるキャストン監督に、注目してほしいシーンを尋ねると「それは難しいな。円のようになっている作品だからね。全体として観てほしいから、全編見逃すなということになるね」と笑う。次回作は「今度は4人がメインキャラクターになる。最初うまくいっているものが、バラバラになって、最後にはまたまとまる。愛と孤独がテーマだよ」と本作と同様のテーマを扱うようだ。
「人生がそうなんだ。孤独だということは愛がないということで、愛があれば孤独ではないよね? 家族愛、友愛……あらゆる種類の愛だよ」と哲学的にも聞こえるキャストン監督の言葉だが、本作に難解なところはない。共感を呼ぶキャラクターとキャストン監督自身が手掛けた脚本で、彼の言わんとするところがストンと府(ふ)に落ちるものになっている。それがC.I.C.A.E賞受賞の理由かもしれない。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)