チャック・ベリーも所属!ロックンロールの金字塔となったレコード会社映画化
ロックンロールの歴史に大きな影響を及ぼした伝説のレコード会社、チェス・レコードの設立者レナード・チェスとフィル・チェス兄弟を描いた映画『フー・ドゥー・ユー・ラブ/Who Do You Love』(原題)が完成し、主演のレナード・チェスを演じたアレッサンドロ・ニヴォラに話を聞いた。同作は、チェス兄弟がクラブを経営していた時代から、レーベルを立ち上げ、数々のアーティストと契約し、成功するまでを描いた作品だ。
かつて、チェス・レコードと契約していたアーティストの中には、マディ・ウォーターズ、チャック・ベリー、ハウリン・ウルフ、リトル・ウォーター、エタ・ジェイムズ等がいて、後に出てきたロック界の大物たちにも多大な影響を及ぼしている。
白人のチェス兄弟は、黒人が多く住む居住区でクラブを経営していたが、その当時のことについて、「当時、白人オーナーが黒人の居住区で店を経営するのは、かなり珍しいことだったんだ。あの辺は、けっこう危険な区域で、レナードは常に銃を持っていたらしいよ。レナードの息子マーシャルの話では、クラブの周りでは頻繁に銃声が聞こえて、銃声が鳴るたびに、マーシャルはカウンターに隠れて、その上からレナードが守ってくれていたらしいんだ。ただ、レナードも弟のフィルも労働階級出身のタフなやつで、それに彼らは移民であるため、むしろ黒人と接している方が、白人と接しているよりも、ずっと居心地が良かったと思うんだ」と語ってくれた。
チェス兄弟はクラブの経営を始め、そのクラブで演奏していた黒人ミュージシャンと契約し、レコード会社の設立に至るが、特に音楽業界での知識のなかった彼らが、どうしてこれほどの黒人ミュージシャンたちと契約できたのか尋ねてみた。すると、「最初、レナードがこの音楽業界に入ったのは、単に金もうけをしたかったからなんだ。始めた当時は、彼にはそれほど音楽の知識もなかったしね。その点について撮影前に、マーシャルと話をしてわかったんだが、実際にレナードは、ストリートで演奏しているミュージシャンの方が、その辺のバーで演奏しているミュージシャンより、よっぽどうまいと判断して、ストリートのミュージシャンを雇い、刺激的な演奏をバーでさせていたんだ。それも、あくまで金もうけのためだけどね。そんな金に困っているミュージシャンたちだったから、契約もしやすかったんだよ」とその種明かしをしてくれた。
だがアーティスト、マディ・ウォーターズと出会うことで、レナードに変化が訪れる。アレッサンドロは、「マディとの関係を通して、レナードは音楽界での教育を受けていったんだ。そのため、晩年の彼は、相当な知識を持った音楽界の重鎮として存在することができたんだ」と話す。
レナードは、エタ・ジェイムズと不倫関係にあったが、それ以上にレナードは彼女のドラッグ依存症を見捨てる事ができなかったのではないだろうかと言うと、アレッサンドロは、「そうなんだ! レナードは、エタだけではなく、所属するアーティストのマネジャー的な活動もしていたんだ。ただ、そういう活動をしていたために、あるメディアから、チェス・レコードはアーティストから金をだまし取っていると指摘されてしまったこともあったんだ。要するに、もともと教養もなく、貧しい暮らしをしていた黒人ミュージシャンが、突然大金を手に入れてしまったため、当然その使い道や管理の仕方を良くわかっていないアーティストがたくさんいたんだよ。その良い例として、あるときマディ・ウォーターズが新車が欲しいと言ったら、彼のためにレナードが買いに行ったりしていたことがあったんだよ」とレナードが所属アーティストのビジネス・マネージャー的な存在でもあったことを明かした。
レナードは、休暇を取って家族と出掛けることをほとんどしなかったが、アレッサンドロによると「おそらく、彼は仕事人間だったと思うんだ。彼の楽しみは、スタジオでのレコーディング・セッションだったから。それに、彼は非常に意志の強いビジネスマンでもあるんだ。マーシャルは、レナードが家に帰らずに、ずっと仕事をしていたときがよくあったと言っていたよ」ということらしい。
チェス・レコードから生まれた好きな曲についてアレッサンドロに尋ねてみると、「ずっと前から、僕はブルースのとりこになっていて、この映画に参加したのもその影響が大きいからなんだ。チェス・レコード作品との出会いは、大学にいたときにルームメイトが黒人で、僕が当時好きだったリッキー・ネルソンの「My Babe」を聴いていた時に、そのルームメイトから、この曲のオリジナルを歌っているリトル・ウォルターを教えてもらったんだ。それ以来、チェス・レコードのアーティストに徐々にハマっていったんだよ」とチェス・レコード作品との出会いについて教えてくれた。
また、レナードの弟フィルについて「フィルは、レコーディングだけでなく、ビジネス面で多くかかわっていたんだ。もちろん仕事量はレナードよりも少ないけど、彼が音楽界にもたらした影響も大きいんだ。それなのに、レナードがロックの殿堂に招待されたときに、フィルは呼ばれなかったんだ! それに別のチェス・レコードを描いた作品『キャデラック・レコード~音楽でアメリカを変えた人々の物語~』でも、フィルは描かれてさえいなかったんだよ。だから今作で、フィルを描けて良かったと思うんだ」と語ってくれた。
今後について、「『リトル・ミス・サンシャイン』のアビゲイル・ブレスリンと共演している『ジェイニー・ジョーンズ/Janie Jones』(原題)、それと、ついこの間生まれた女の子の赤ちゃんの面倒を見なければいけない!(笑)」と話したアレッサンドロ。父親と俳優とで忙しくなりそうだ。(取材・文:細木信宏 Nobuhiro Hosoki)