日本のモザイク文化に物申す!鬼才?変態?ギャスパー・ノエ監督がトランスした東京が舞台の新作映画
モニカ・ベルッチの暴行シーンが話題となった映画『アレックス』から約8年、フランス映画界の危険人物ギャスパー・ノエ監督が東京を舞台にした新作映画『エンター・ザ・ボイド』について語ってくれた。
デビュー作映画『カルネ』、その続編映画『カノン』で父親の一人娘に対する近親相姦(そうかん)的感情を描き一躍その名を知らしめ、ヴァンサン・カッセル、ベルッチというスターを配して目を疑うような暴力と極限の愛を描いた映画『アレックス』で確固たる地位を築いたノエ監督。ときに変態監督と呼ばれてしまうフランス映画界の危険人物が約8年の沈黙を破って発表したのが、ここ日本の東京という魔都を舞台にした兄弟愛と輪廻(りんね)転生の物語だ。
もともと日本、特に東京にシンパシーを感じていたというノエ監督は「東京の未来的側面が大好きなんだ。物語のメインとなる舞台を考えたときに、秋葉原か歌舞伎町のどちらか悩んだんだけれど、歌舞伎町で撮影に合うアパートと撮ってみたいと思える通りを見つけてね」と歌舞伎町をロケ地に選んだ経緯を説明。「ラブホテルがあるからとかセックスショット撮影があるからといった理由で歌舞伎町を選択したわけではなく、ネオンのキラメキや街の持つビジュアルに刺激された」と続ける。
近年、海外の視点から日本をとらえた映画が増えてきた。だがその中の日本は、観光的気分に支配された外部から見たイメージでしかないものがほとんど。しかしノエ監督が描いた東京はそれらとはまったく別物で、恐らく誰一人として見たことがない、トランスしたような東京がそこにある。さらに映画冒頭には激しい光の点滅や文字の点滅が繰り返される挑発的なシーンも。「あの光の点滅は映画『バベル』にあったレーザービームを使用したようなナイトクラブのシーンに似ているかもしれない」とのことで、公開時には映画『バベル』同様に物議を醸すかもしれない。
そしてもう一つ物議を醸しそうなのは、終盤に登場するラブホテルでの大胆な性描写だ。映画『アレックス』でも性描写があり、日本公開時には局部にモザイクがかけられた。当時監督は日本のモザイク文化に苦言を呈していたが、本作でも当然のように修正が入る。「もちろん美的に見て許される範囲ならばこだわらないけれど、僕のイメージにそぐわないものであるなら、申し入れを考えている」と柔らかな口調ながら、自身の作品に対するこだわりは強い。
そんなこだわりが単なるエゴとして片付けられないのがノエ監督の鬼才たるゆえんで、複雑な展開ながら計算された構成は過去3作からの明らかなレベルアップを感じさせる。この8年間は新作を待ちわびたファンには長い沈黙だったかもしれないが、「製作準備に3年かかったし、残りの時間は撮影やお金の調達、それにプロデューサーも変わったりしたから」と必要不可欠な時間だったことを明かす。最後にノエ監督は「今回は複雑過ぎて時間がかかったから、次はシンプルなものにしたいね(笑)」と早くも次回作について意欲を燃やしていた。
映画『エンター・ザ・ボイド』は5月15日よりシネマスクエアとうきゅうほかにて公開