イスラム武装集団に拉致され、暗殺された実話の修道士7名を描いた作品がニューヨーク映画祭に登場!
今年のカンヌ国際映画祭でグランプリの栄冠に輝いた映画『オブ・ゴッズ・アンド・メン / Of Gods and Men』(原題)がニューヨーク映画祭(N.Y.F.F 48th)に出展され、グザヴィエ・ボーヴォワ監督とプロデューサー兼脚本家のエチエンヌ・コマールが記者会見に登壇し、話題の新作について語ってくれた。
同作は、厳律シトー派修道会に属するフランス人のトラピスト修道士7名が、アルジェリアの内戦に巻き込まれ、イスラム武装集団によって拉致され暗殺された1996年に起きた実際の事件を基に映画化された作品だ。現地のコミュニティの精神の支えになるために、自ら内戦の激しい場所に残り、使命を全うする修道士たちが描かれている感動の力作。
まず、日々の修道士の活動をどのようにリサーチしたのかについては、「実在した修道士たちの何人かはジャーナルを記していて、主人公であるクリスチャンは一章ずつに分けてその当時の状況を執筆していたんだ。1996年に起きた事件当時は、暗殺の内容ばかりが書かれた記事が多かったが、10周年にあたる2006年にはこの事件のことが書かれた書物がたくさん出版された。それ以外にも、実際に修道院を訪れて観察したよ」と脚本家エチエンヌ・コマールが情報収集の過程を語ってくれた。
また、「この頃のアルジェリアにはフランスの修道院は結構あったようだし、今でも同じアフリカのモロッコなどにたくさんあるらしい」とも教えてくれた。過去のアルジェリア戦争も含め、アルジェリアはフランスと歴史上深いかかわりがあったことがうかがえる。
さらにボーヴォワ監督は「宗教関連ではないが、アフガニスタンの内戦の中でも、地域の人たちのために、この修道士たちのように使命を感じて助けている外科医や眼科医などがいることを知らなければいけない」と語ったように、戦地の中で活躍している人たちに目を向けさせる意図があったようだ。
映画内には、修道士たちが拉致される前に、7名の修道士がチャイコフスキーの「白鳥の湖」を聴いている感動的なシーンがある。このシーンについてコマールは、「最初は、彼らが皿を洗いながら共に歌ったりする長いシーンを入れようとしたんだ。でも脚本にはプロの歌手でもない彼らが歌っているシーンが結構あって、おもしろくならないと感じた。そこで発想を転換させて、逆に曲を聴いているシーンにしたらどうかと考えたんだ。それからいろいろ曲を聴いてみて、ある時チャイコフスキーの『白鳥の湖』を聴いたら、すぐにシーンを思い浮かべられて涙が出てきたよ」と語ってくれた。さらに、コマールには新たな意図があり、「実は主人公のクリスチャンをイエス・キリストに置き換え、あとの修道士たちをその弟子とすることで、『最後の晩餐』を想定したシーンを作り上げたつもりなんだ」と明かしてくれた。重厚なチャイコフスキーの曲が、表情豊かな俳優たちを交錯させ、最も印象深いシーンになっている。
同作は、神の使命を受けてコミュニティのために従事する修道士が、命の危険にさらされたときの苦悩とその選択が克明に描かれ、完成度の高い作品になっており、現在、フランスの代表作としてアカデミー賞外国語映画賞に提出されることになっている。
(取材・文:細木信宏)