『フリーダ』『アクロス・ザ・ユニバース』のジュリー・テイモア監督、新作はシェイクスピア劇「テンペスト」
舞台「ライオン・キング」でトニー賞を受賞し、その後は映画界で『フリーダ』『アクロス・ザ・ユニバース』などを制作してきたジュリー・テイモア監督が、新作『ザ・テンペスト / The Tempest』(原題)について、現在開かれているニューヨーク映画祭の記者会見で答えた。
物語は、ナポリ王アロンゾー(デヴィッド・ストラザーン)とミラノ大公アントーニオ(クリス・クーパー)らを乗せた船が嵐に遭遇して難破し、一行は絶海の孤島に漂着してしまう。この島には、12年前に弟アントーニオによって大公の地位を追われ、追放させられたプロスペラー(ヘレン・ミレン)と娘のミランダ(フェリシティ・ジョーンズ)が、魔法と学問の研究をしながら暮らしていた。だが実は、船を襲った嵐は、大公の地位を追放されたプロスペラーが、手下の妖精アリエル(ベン・ウィショー)に命じて用いた魔法の力によるものだった……。原作では、プロスペラーはプロスペローという男役であるが、今作ではヘレン・ミレンが演じたために、名前がプロスペラーという女性に変更されている。
映画『タイタス』の後に再びシェイクスピアの戯曲を映画化したことについて、ジュリー監督は「実は『テンペスト』が、わたしが1986年にシェイクスピアの作品で一番最初に演出した舞台だったの。それから、舞台でこの作品を3度演出していて、ずっと好きだった作品でもあるの。だから、『タイタス』を製作した後に、次にシェイクスピア作品を映画化するなら、この『テンペスト』だとずっと思っていたの」と長年の映画化の経緯を語った。さらに彼女はその「テンペスト」の中でも、妖精アリエルとプロスペローとの、許しと同情を誘う力強いシーンが見所であると付け加えた。
リハーサルのプロセスについては「ヘレン・ミレンは、撮影の1か月前からリハーサルに入っていたけれど、実は脚本の読み合わせだけは、1年前から行っていたの。なぜなら、ヘレン・ミレンのキャラクターを女性に変更したから。でも、母親という言葉を付け加えたり、女性でもマスター(主人)などの言葉を残したりすることで、どういうプロスペラーのキャラクターを通して、どういう方向性でこの映画を製作していくのか、徐々に決めていくことができたの」と語った。主役をヘレン・ミレンにしたことで、表現の仕方と背景を少し変えたようだ。
また、ベン・ウィショーが演じた妖精アリエルについて「わたしは、ベン・ウィショーが好きでキャスティングしたんだけれど、彼は我々が撮影していたハワイでの撮影が(スケジュールの都合上)無理なことが分かったの。そこで、あえて他の俳優をキャスティングせずに、その制限された環境(スタジオでの撮影)の中で撮影したことが、むしろプラスになったの。もし、彼が他のキャストと共にハワイで撮影していたら、ハワイの地に足を降ろしていたわけで、この映画のようにベン(妖精)を自由自在に、水、空気、炎などにCGで変化させることはできなかったわ。ただCGでも、できる限りリアルに見せるように努力したつもりよ」と語った。思わぬ俳優のスケジュールの都合が、功を奏したようだ。
この映画は、シェイクスピアの作品が、これだけビジュアルでも楽しめるのかと思わせてくれる映画で、斬新なアプローチをしている。また、映画だけでなく舞台などもこなす俳優たちが、脇を固めているのも注目の一つである。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)