オスカー監督コーエン兄弟、自伝的との論評を否定!『シリアスマン』はすべてフィクション!
映画『ノーカントリー』で第80回アカデミー賞作品賞をはじめ、監督賞など見事4冠に輝いたジョエル&イーサン兄弟監督が、第82回アカデミー賞で作品賞などにノミネートされ、日本での公開を2月に控える『シリアスマン』について、「自伝的作品ではない」と否定した。本作はコーエン兄弟の出身地である米ミネソタ州ミネアポリスで主に撮影され、コーエン兄弟もなじみの深いミッドウエスタン郊外にあるユダヤ人コミュニティーを舞台に描かれた物語だ。
『シリアスマン』の時代設定は1967年。米中西部郊外にマイホームを構え、大学で物理学を教えるいたって平凡でまじめな生活を送るユダヤ人の主人公・ラリーに次々と襲い掛かる不幸を、「これでもか!」というほどこっけいに描くブラック・コメディー。設定を現代ではなく、1967年にしたことについてイーサンは「その時代が僕らにとって重要だった」と振り返る。また、厳密にいえば何が決め手だかわからないと率直に語ったイーサンだったが、現代を舞台にすることは「ない」とジョエルが口を開いた。「正直言って、現代を背景にして、このストーリーっていうのはちょっと想像できないと思うよ。ミッドウエストのユダヤ人コミュニティーについての映画をやりたいっていうことは、僕らがその中に息づいていなきゃダメだってことだからね」とジョエルは、彼らの子ども時代を背景にしている作品だからこそ、現代の設定にしなかったことを明かした。
コーエン兄弟の子ども時代を反映させた作品なのに、主人公が大人であることについてイーサンは、「大人の視点と子どもの視点がもっと等分に分かれていたと思うんだけど、脚本を書いているうちに、大人の方に引き寄せられていったんだ」と制作過程で変化があった様子。そして、「舞台となっているのは確かに僕らが育った場所なんだけど、僕らはこの作品を自伝的なものだとは思っていない」と告白した。本作については、コーエン兄弟の自伝作品だという声が多く挙がっていたのだが、一方のジョエルも「僕らはヘブライ学校に通い、成人の儀式をし、同じようなコミュニティーの中で暮らし、父親は大学の教師だった。でも、ラリーとダニー親子に起こったことは、すべてフィクションだ」と本作で描かれるエピソードについては、自伝的要素を否定した。
とはいえ、ジョエルもイーサンも自らが育った場所を物語の舞台にしていることなどから少しの「私的」要素を認めており、「僕らはユダヤ人だ。僕らがどこで育っていようが、それが僕らのアイデンディティーの重要な部分を占めている」とジョエルは語った。そんな物語の背景の中、不幸の連続が主人公を襲うのだが、「誰かに悪いことが起きるというのがコメディーの常とう手段だ。誰かの不幸っていうのは他人にとってはこっけいだからね」とイーサンはニヤリ。またジョエルも「良いことより、悪いことが起きるほうが、より面白いストーリーのネタになるんだよ。悪いことの方が別のことにつながっていく。そうしてストーリーがダイナミックになるんだ。僕らはそのことをたのしんでいるんだよ」とこれまでの作品同様、本作にもコーエン兄弟らしさが随所にちりばめられている様子をうかがわせた。
映画『シリアスマン』は2月26日より公開