サンダンス映画祭で観客賞受賞の話題作『ハッピーサンキューモアプリーズ』は3人の美女のアンサンブル
去年のサンダンス映画祭で観客賞ドラマ部門を受賞した話題作『ハッピーサンキューモアプリーズ(原題) / Happythankyoumoreplease』について、監督、脚本、主演を担当したジョシュ・ラドナーが語った。
同作は、作家志望のサム(ジョシュ・ラドナー)は、ある日地下鉄で家族からはぐれた少年ラシーンを助け、福祉相談所に連れて行こうとするが、その少年には暗い過去があったために、彼の身の上を同情したサムは、数日自宅で預かることを決意するが、ひと騒動起きてしまうというコメディ/ドラマ作品。注目はサムがラシーンを紹介する20代の女性3人で、それぞれの個性が面白い。その3人の女性たちを演じるのは、映画『ウォッチメン』のマリン・アッカーマン、映画『アイアンマン2』のケイト・マーラ、映画『恋するベーカリー』のゾーイ・カザンと、すべて今注目度の高い女優たちがキャスティングされている点だ。
女優のキャスティングについて「これまで俳優をしてきた僕は、今回初めて監督という別の角度からオーディションをすることになった。けれど、オーディションをする俳優たちの気持ちは、(これまでの経験から)十分に理解していたんだ。ただキャスティングの過程には、避けて通れないものがあると思っている。それは感覚なんだ。メアリー役を演じたゾーイ・カザンの前に、何人かオーディションした女優がいたんだが、ゾーイがオーディションしたさいに、僕は彼女しかいないと思ったんだ。実は、残り二人の女優もそうだった。重要なのは、自分がどんな映画を製作し、どんな女優を配役するかちゃんと理解していることだ」と述べたように、この3人の女優が演じた役を、他の女優が演じていたら、全く完成度の低い映画に仕上がっていたかもしれないと思うほど、適役なキャスティングがされていた。
『ハッピーサンキューモアプリーズ(原題)』という個性的なタイトルについて「現代の我々の文化は、皮肉でいることのほうがある意味クールだと思われたり、何事も無意味だと思っている人が非常に多いと思うんだ。僕はこれを、毒性を持った文化だと思うんだ。だから僕は、人間は信頼と感謝という資産を持って生きなければならないと訴えかけたかったことから、この映画のタイトルに繋がったんだ」と明かした。確かに一度聞いただけで忘れることのできない、インパクトの強いタイトルだ。
現在L.Aに住んでいるジョシュ監督は、なぜあえてこの映画をニューヨークの設定にしたのだろう。「ニューヨークの設定にすると、ある細い道を歩いただけでも面白い人に頻繁に出くわしたりすることも納得できるし、色々なレストランやバーが密集しているから、過去にこの辺に来たことがあるという思い出として振り返ることもできる。つまり、ストーリーが作りやすいんだ。その一方で、僕が今住んでいるロサンゼルスだと車社会だから、道を歩いているだけで面白い人に出くわすことは滅多に無いし、広い道であるため、歩くだけで過去の色々な思い出を振り返ることもできないと思うんだ。それにこの映画の設定のように、赤の他人の子どもを預かっても、どこかニューヨークだとしっくりくると思うんだ」とあえて、ニューヨークで撮影した理由を語った。
映画は、物事を素直に受け止めることと、悩むことよりとりあえず前に進むことの大切さを教えてくれるような作品に仕上がっている。ジョシュ・ラドナーは、これから期待の監督になりそうだ。
(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)