『エヴァ』庵野秀明の独占コメント掲載 実写映画初プロデュース作品は伝説の女優・林由美香を元恋人・平野勝之のカメラが追ったドキュメンタリー!
「エヴァンゲリオン」シリーズで知られる庵野秀明が実写映画初プロデュースに挑戦した映画『監督失格』が今年9月に劇場公開されることが明らかになった。現在もなお並行して、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』新作を制作中の庵野。彼が思いの丈をつづった長文コメントを送った本作は、約11年ぶりにメガホンを取った平野勝之監督が、元恋人であり2005年に34歳の若さで亡くなった伝説の女優・林由美香とかかわった15年間の記録と、由美香が亡くなった後に新たに撮り下ろした映像で構成する感動のドキュメンタリー作品だ。
生涯200本以上の映画に出演し、35歳の誕生日前日に亡くなった伝説の女優・林由美香。死後の2009年にも松江哲明監督によるドキュメンタリー映画『あんにょん由美香』が公開され話題になった由美香を再びスクリーンによみがえらせるのは、仕事仲間であり元恋人でもあった平野監督だ。これまでにも自作のプロデュースは手掛けたことがあるものの、これが実写作品初プロデュースとなる庵野は、当時、旧劇場版エヴァの制作で煮詰まっていた自分を救い出してくれた、新宿から北海道まで2人きりの自転車旅行を描いた平野監督の映画『由美香』への恩返しとして、本作のプロデュースを引き受ける決意をしたのだという。
平野監督が、「由美香にケリ付けないと何も次が出来ない。その為にもう一度由美香と向き合う」(庵野コメントより)と鬼気迫る情熱で作り上げた本作は、由美香の母であり、劇中にも登場する小栗冨美代さんが「すばらしい映画。この一言につきる」とコメントし、弟である小栗栄行さんも「この映画は、私たち家族と、私たちの前に現れた平野勝之さんという男性を通して、生きる事の楽しさや厳しさ、人が死んでいく事の意味を考えさせてくれました」と絶賛するほど。「林由美香」を今、平野監督が映画にする意味が強く感じられる作品となっている。
本編を見終えた後、タイトルの『監督失格』という言葉の意味がずっしりと響いてくる本作。庵野は紆余(うよ)曲折の末に完成したラストシーンに、「ひたすら泣いた」と述懐しており、「正気ではとても向き合えないような編集作業を経て、ついに終極に至った平野さんの『想い』を考えると、涙を流すしか出来なかったからだ」とその理由を語っている。
先日行われた完成試写でも上映後に客席から自然と拍手がわき起こるなど、人々の心に訴えかける力を本作が持っていることは明らか。そのドラマチックな展開は、平野監督や由美香を知らない人にとっても見応えのある作品であることは間違いない。「ドキュメンタリーだから」「マイナー作品だから」という理由だけで敬遠するにはあまりに惜しい出来栄えの本作だけに、TOHOシネマズ 六本木ヒルズをはじめとする多くの劇場での上映が決定したことは、映画ファンにとって幸いといえるだろう。(編集部・福田麗)
映画『監督失格』は9月3日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズにて独占先行公開 順次全国公開
(以下、庵野プロデューサーによる独占コメント。一部編集部による補足あり)
庵野秀明プロデューサーによる『監督失格』コメント
「僕は何故、この映画を作ろうとしたのか」
2010年02月、(本作の製作を務める)甘木さんから電話があった。「平野さんの新作映画を共同で作りませんか」という話だった。新劇場版エヴァの制作や社長業等で時間的、精神的な余裕はなく「これは引き受けると大変だなぁ」と思いつつも「やりますよ」と即答していた。
聞いたタイトルが直感的に良かったのと、なにより、平野さんに恩返しをしたかったからだ。
1997年05月、甘木さんの勧めで『由美香』を観た。旧劇場版エヴァの制作中で心がボロボロに疲弊しきっていた時だった。アニメーションでは表現できない「映像の力」がそこにあった。
そして、映像に切り取られ、紡がれていた由美香さんと平野さん自身の姿に「この人たちには、とてもかなわない・・・」と思った。そのことで、大げさな言葉を使えば「救われた」感じがした。
恩返しとは、その感覚が閉塞しきっていた当時の僕の心を解放してくれたからだ。
2010年03月、平野さんと会った。由美香さんの告別式で声をかけられなかった時以来だった。呑みながら何を映画にしたいのかを聞いた。その動機も聞いた。「由美香にケリ付けないと何も次が出来ない。その為にもう一度由美香と向き合う」という気持ちは、エヴァの呪縛から逃れる為に、またエヴァを作っている僕と似た感じがした。うなずきながら、平野さんの話を黙々と聞いていた。
そして、その構想案から恩返しなどという想いで作れる映画ではなく、製作(プロデュース)には相当な「覚悟」が必要な事もわかった。
日本酒を流し込んで「手伝いますよ」と約束した。
ヒト一人の死を真正面から背負ってでも、平野さんには前に進んで欲しかったからだ。
2010年10月、3回目の編集ラッシュでようやく平野監督作品に出会えた。
そのラストシーンでは、ひたすら泣いた。
正気ではとても向き合えないような編集作業を経て、ついに終極に至った平野さんの「想い」を考えると、涙を流すしか出来なかったからだ。その時、この映画を製作して「本当に良かった」と思った。
2011年03月、『監督失格』の完成零号試写が行われた。
これで平野さんが、次回作に進める事を願う。
そして今はただ、本作品を観て欲しいと思う。この作品を僕の言葉で伝える事は、難しいからだ。
改めて、由美香ママと弟さんに感謝いたします。
ありがとうございました。
プロデューサー 庵野秀明 (2011年03月09日 晴れの日に カラーにて)