『タクシードライバー』の脚本家、高倉健はスティーヴ・マックィーンのようなカリスマ性と絶賛
日本が世界に誇る名優高倉健が、初めてアメリカ製作の作品に出演した1974年の映画『ザ・ヤクザ』について、同作の脚本を担当した映画『タクシードライバー』のポール・シュレイダーが、ニューヨークのジャパン・ソサイエティのイベントで語った。
同作は、アメリカ人のハリー(ロバート・ミッチャム)は、旧友の娘が日本滞在中にやくざ組織の東野組に誘拐されたことを知り、その娘を救出するために以前に進駐米軍兵士として日本に居たころの友人で、やくざの田中健(高倉健)の協力を得て娘を奪還する計画を練る。だが、再会した田中はヤクザから足を洗っていた……。ところが、事情を知った田中は義理からハリーに協力していくというサスペンス・アクション映画。監督は、映画『愛と哀しみの果て』や『ザ・ファーム/法律事務所』のシドニー・ポラックがメガホンを取り、脇役で岸恵子、岡田英次が出演している。
まず、ヤクザ映画に惹かれた理由について「最初は、何事にも制限された要素のあるヤクザの世界が気に入っていて、もちろん僕がそんな世界に住んだら嫌悪していただろうが、そういう日本の文化に興味を常に持っていたんだ。さらに、日本の規律の厳しい刑務所のシステムにも関心があった」と語ったポールは、好きなヤクザ映画について聞かれると「東映のヤクザ映画が好きで、どこか他の配給会社のヤクザ映画と違って、感傷的にさせられるところが好きだったんだ」と述べ、好きな東映の俳優は鶴田浩二であることも明かした。
高倉健について「なぜ僕らが彼をキャスティングしたかを理解することは難しくないと思う。彼は、スティーヴ・マックィーンのようなカリスマのある存在だからだ。僕は個人的には鶴田浩二が演じる複雑な役が好きだが、この映画は高倉健をイメージして脚本を書いたんだ。実は、この後に僕が監督した三島由紀夫を描いた作品『ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ / Mishima : A Life in Four Chapter』(日本未公開)でも、彼に三島役を依頼していたが、彼の諸事情で参加できなかったことがあったんだ」とポールは高倉健の仕事ぶりに惚れ込んだようだ。
監督シドニー・ポラックとの仕事については「この映画はラブ・ストーリーも描かれているが、おもにヤクザを主体にした映画で、当時はシドニーはそういった(ヤクザ)アクション系の映画監督ではないと思っていたんだ。それに彼は、僕以外に映画『チャイナタウン』の脚本家ロバート・タウンを雇って、この映画のラブ・ストーリーを拡張しようとしていたため、シドニーと対立したこともあったよ。シドニーは、主演も最初は(彼がよく仕事をする)ロバート・レッドフォードにしようとしたが、僕はレッドフォードを第二次世界大戦の兵士の設定にするには若すぎると意見して、現在のロバート・ミッチャムになったんだ。その他には、高倉健の英語を別の声優で吹き替えする案もあったが、彼の声は特徴があり、誰でも知っているため、彼の声をそのまま使用するとシドニーと決めたんだよ」と今では故人となってしまったシドニー・ポラックのことを振り返った。
ちなみに、この映画はポール・シュレイダーが初めて大きな配給会社のもとで執筆した作品だったにもかかわらず、この脚本を気に入ったワーナー・ブラザーズは、彼に監督の選択権を委ねていたそうで、シドニー・ポラックに決まる前に、フランシス・フォード・コッポラやニコラス・ローグにも依頼していたそうだ。映画は、高倉健の義理堅く硬派な行動と、ロバート・ミッチャムの渋い演技が光る作品に仕上がっている。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)