イッセー尾形を直撃!59歳、年間100本以上の公演 引退は「ライブが長いなあって思ったら潮時」
日本における一人芝居の代表的俳優であるイッセー尾形が、米倉斉加年と初共演する二人芝居「イッセー尾形とあの人『今昔二人物語』inしぶや」を前にインタビューに応え、震災直後に行われた前回公演や今回の渋谷公演のこと、さらには「詩人」を自認していることなどを語った。
イッセー尾形といえば、シンプルな舞台ながら、セリフや構成の妙で決して観客を飽きさせないことで知られる、日本における一人芝居の第一人者。だがイッセーは「一人芝居の第一人者」と呼ばれると、「そんなことは思っていない」と言下に否定。その代わりに「詩人」を自認すると、「詩人って、詩を朗読するじゃない。僕の場合は芝居の形をとりながら、実はそれは見せかけで、詩を作っている」と説明。敷居が高いように思える詩を、誰にでも楽しめる芝居という形で演じているのがイッセーなのだという。
最近はYouTubeなどのメディアで作品を配信しているが、生の舞台ではなくそういったものがきっかけになるというのも「出会い方って一つじゃないなあって思うんですよ」とイッセーは肯定的。それは「どこへ出ても自信はある。僕のやってきた仕事に規制はないと思う。ここでなければ観られませんとか、こんな時代では観ないほうがいいんじゃないかとか、そういう規制は当てはまらないんじゃないかっていう妙な自信がある」というイッセーの演技に対するプライドの表れでもある。その自信は、言葉の通じない海外での公演が成功したことでも裏付けられている。
そんなイッセーが今回挑むのは、俳優・演出家の米倉との二人芝居。「偉人伝みたいなのが、僕にとっての米倉さんかなあ、みたいな」というおぼろげなイメージを基に絵コンテを描き、そこから発想を膨らませていったというイッセーは、本作が即興劇としての性格が強いことを認めつつも、「『純粋に即興だけでやってみましょう』っていうのではなくて、もっとゆるい時間で生まれた言葉も盛り込んでいるんですよね」と何げない雑談なども芝居に取り入れる柔軟性を発揮していることを明かした。
自ら「小さい物語を演じている役者で一人芝居をやっている」と評したイッセーがあえてこれまで接点のなかった米倉をパートナーに指名した理由には、「大きな物語をずーっとやっていた米倉さんと出会うと、何かすてきなことになるんじゃないかなあ」という予感があったから。米倉との二人芝居はすでに3月に行われているが、くしくも東日本大震災が起こった直後のことで、「楽しむっていう余裕はなかったですね」と振り返っており、だからこそ今回再び挑戦できることを喜んでいた。
今回の震災は、イッセーにとっても大きな転換点となった。大人数でやる演劇に比べて融通の利きそうな一人芝居だが、イッセーは「今回は、『あ、一人芝居だっていってやっているけど、劇場があるからやれるんだなあ』っていうのを再認識しましたね」と自分の舞台が観客を含め、さまざまな人に支えられていることを実感。震災の影響で中止になった公演もあったが、「だからこそ、今決まっている芝居については、今まで以上に襟を正して臨まないと」と心境を明らかにした。
また今回、二人芝居と同時期に上演される一人芝居の演目は、YouTubeに掲載している中で特に人気の高いネタを中心に選ばれている。「スタッフがね、『この時期だからこそイッセーさんを見たい人がいるんです』って言うんだよ」と選ばれたネタには、パワフルなものからヘンチクリンなものまで、バラエティーに富んでおり、イッセーは「意外にこの震災後に選んだその理由っていうのはわからなくもないんです。それらをまとめて、生でやるっていうのも大事なことだし、やりたくなったんですね」と自身もそういったファンの反応から刺激を受けたことを明かした。
59歳をなった現在も年間100本以上の公演をこなしているイッセー。体力的な心配については「ある」と答えながらも、具体的な引退時期については「サラリーマンじゃないので、そういうのはないね。ライブのときに『長いなあ』って思ったら、そろそろ潮時なんじゃないかな」と明かさず、まだまだ現役でいる様子。そして、まだイッセーの舞台を観たことがない人に対しては「とにかく(舞台を観に)来なさい」と一言。「やりながら発見したり、やった後に人の言うことを聞いて、わかったり。それがとても楽しいことなのね。『わかったからやる』『わからなかったから行かない』だけじゃつまんないよね」と生の舞台だからこそ味わえる魅力があることと強調していた。(編集部・福田麗)
二人芝居「イッセー尾形とあの人『今昔二人物語』inしぶや」は5月3日19時より渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホールにて上演