河瀬直美監督、カンヌで東日本大震災の被災地に捧げる映画「3.11 A Sense of Home Films Project」の製作を発表
第64回カンヌ国際映画祭
第64回カンヌ国際映画祭に参加中の河瀬直美監督が、世界の映像作家と組んで東日本大震災の被災地に捧げる映画「3.11 A Sense of Home Films Project」を製作することを現地時間17日、発表した。
同作品は、東日本大震災が発生した3月11日にちなんでそれぞれが製作した3分11秒の短編をつないでゆき、1本の映画に集約したもの。完成した作品は、9月11日に河瀬監督の地元・奈良の寺院で奉納上映を行い、その後、山形国際ドキュメンタリー映画際や仙台短編映画祭と連携して、被災地での巡回上映を行う予定だ。
現在、参加を表明しているメンバーは、映画『ミツバチのささやき』で知られるスペインのビクトル・エリセ監督をはじめ、映画『ブンミおじさんの森』で昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞したのも記憶に新しいタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督、中国の若き巨匠ジャ・ジャンクー監督、監督・女優の桃井かおり、そして河瀬監督が理事長を務める、なら国際映画祭から育っていった若手監督ら9人。最終的には、約20人のメンバーになる予定だという。
河瀬監督は「映画監督として何ができるかずっと考えていて、10日ほど前にこのアイデアがひらめいた。旧知の監督たちに呼びかけたところ、山形国際ドキュメンタリー映画際で出会って以来、友人のアピチャッポンから『このプロジェクトは美しい。あなたと同じ船に乗って行きたい』との返事をいただきました。またジャンクーや、昔から大好きなエリセ監督からも『日本の皆さんはずっと前から僕たちの作品を愛してくれました。その皆さんに勇気と生きる力を与えられるなら協力したい』と言ってくださった。世界の映画祭からも要望があればフィルムを貸し出したい」とアピールした。
短編の製作費は各監督たちの持ち出しとなる。そしてテーマは「Sense of Home」(家という感覚)。今回の震災では多くの人たちが故郷や家を失うという悲劇に見舞われたが、同時に祖国や故郷を再認識するきっかけとなったという声もある。そのHome(家)への想いを、世界中の人々と考えるのが目的だという。
そこには、河瀬監督の家へのこだわりがある。河瀬監督は地元奈良を拠点し、その故郷を舞台に映画を作り続けてきた。しかし東日本大震災が起こった3月11日には偶然にも、今回のカンヌに出品している映画『朱花(はねづ)の月』の編集で東京のビル内におり、震度5強の揺れに死の恐怖がよぎったという。
河瀬監督は「どうしてこんな時に東京にいるのか? と後悔しました。その後悔とは、息子の光祈(7歳)と一緒にいてあげられなかったということです。とにかく、(奈良の)家に帰らなければと思い、戻って彼を抱きしめました。何でもないことがこんなに大切で、かけがえのないこととは。自分はまだ、どんな短編を作るか考慮中ですけど、そんな日常の些細なことがいかに大切かということを伝えられる作品になればと思ってます」とプロジェクトに込めた思いを語った。(取材・文:カンヌ・中山治美)